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簿暮時  作者: ラギット
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黎明

京阪電鉄古川橋から門真駅まで。そこからモノレールで蛍池まで電車を乗り継ぐ。万博記念公園の形骸化された歴史を感じながら、彰は電車に揺られていた。同期入社した友人の自殺。35歳。この人生を人は短いと言うだろうか。学生時代、将来について深く考察したことがなく、「アパレルショップはお洒落」そういうイメージを安易に受け入れ入社を決意。10年以上勤務しても、ほとんどベースアップしない給料。反面、仕事量は爆発的に増え、責任という名の足かせをつけさせられ、会社のマニュアルに沿って生きてきた。管理職の椅子は満員で、上がれない現場の店長は、次第にターゲット客層と年代ギャップが生じてくる。若い後輩との温度差も次第に生まれていき、いつのまにか店舗で孤独となっていく。「店長は孤独」いつ誰が言ったかは覚えていないが、自分がそう感じた時は中年になっていた。

 半年前、彰が店舗の開店準備をしている時に、電話が鳴った。「お疲れ様です」電話の先は親友で同期の工藤の声だった。彰は驚いた。普段、店舗に電話をしてくる時、工藤は「お疲れ様です」など絶対に言わない。そういうありきたりな言葉を嫌い、電話1つでも自分の言葉を使う男だった。「お疲れ様です」今思っても変な挨拶だと彰も思う。疲れていても疲れてなくても使用され、全く意味がこもってない挨拶。どうして皆、いつのまにか何の抵抗もなく使うようになるのだろうか。

電話の異変を感じ、彰は「工藤、何かトラブルか?」と言葉を発した。営業時間外でも店長は出勤した時から緊張状態を強いられる。店舗に設置されたPCは、常にログイン情報を管理され無用な早出残業をさせないシステムになっている。また、客からのクレームは常に突然電話で飛び込んでくることも度々である。その他、本社からの指示、従業員の欠勤など「トラブル」が起きる要素はいくらでもあった。「トラブルか?」この質問は店長同士では共通言語で、何かあれば次の返答で対応することになる。しばらくの沈黙の後「車を貸してほしいんだが…」かすれた工藤の声。彰は唾を飲み込んだ。とにかく、何もかもが異常だというのはわかった。

彰は工藤の申し出を了承し、電話を切った。とにかく、今日にでも工藤に会う必要があると感じ、開店準備の続きをすることにした。


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