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簿暮時  作者: ラギット
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彼誰時

京阪電鉄古川橋まで、昨日同様徒歩で帰る。駅前から直通のバスが運行しているため、彰は行きはバスを利用し試験を受けた。帰りは時間に余裕があるのと、現在無職の彰にとっては、バス代も節約したい気持ちがあった。徒歩で15分程度の道のりを何も考えず、ただ自分の足元を見て歩いていた。駅前のスーパーのフードコートに入り、無料の水を汲んで席に座る。季節は9月であるが、午前中から連日30℃を超えるため、水分が常に欲しくなる。自動販売機やこういったフードコートで飲み物を気楽に買える身分でなくなった自分に、また小さくため息をつた。そして、そのため息は思考停止を自覚的にしてた彰の頭を、ネガティブにゆっくりと起動させた。

 2回目の筆記試験の結果も不合格であった。前回同様89点。テスト直前、脳裏に今回の結果もどこかそうなるであろう予想があり、見事に的中した。半年前まで、東京のアパレルショップで店長をしていた彰には、数字についての持論があった。「自然と意識した数字はたいてい、その結果通りになる」後輩スタッフ達に、朝礼時によく言った言葉であった。毎日、毎時間、店の売上と個人売上をチェックされ、本社のマネージャーからメールや電話で檄が飛ぶ日々だった彰の日常において、数字とは精神安定剤だった。特に勤務最後の1年間は、前年比80%をキープするのがやっとだった。グループ全体の足をひっぱり、マネージャーはおろか、役員クラスから呼び出され、週1度は対策案を持って新宿にある本社へ向かう日々だった。今思い出しても対策案は絵に描いた餅だった。出来るだけ伸びている客層、ブランドを抽出し、エクセルに落とし込み色を付けて強調し、必ず復調できる言葉を連呼し、絵に描いた餅を役員に食わせ続けた。だが、本音は「前年比80%ぐらいだろうな」という諦めしかなかった。若年層の人口低下に反比例し、新しい商業施設は増え、競合とグループ店の出店ラッシュが続いていた。スタッフの経験が追い付かず、入社間もない人材が早々と責任ある担当を任せられ、マンパワーの低下は火を見るより明らかだった。また、インターネットで買い物をする層が年々増え続け、リアル店舗の存在価値が揺らいでいることも現場でヒシヒシと感じていた。リアル店舗で試着をして、品番を控えてインターネットで安く買う。購入者のそういった流れを止める対策を考えるのも非常に難しかった。結果、彰が退職する月まで、彰の店は前年比80%台を超えることはなかった。彰はまた小さなため息をついた。「明日また門真に来なければいけない。あいつとの約束だからな」心の穴がまた広がる思いがした。「どうして、あいつは自殺なんてしてしまったんだろう」フードコートの紙コップの中の水を見つめて、彰は心でつぶやいた。

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