中盤のボスですが、たまには先手を打ちたいと思います。
あー、どこにしまったっけなー……
しばらくの間甲冑を着て生活していたので、
衣類をどこにしまったのか思い出せない。
自室を探したが、どこにも見当たらなかった。
広間なんかには置いていないし、奥の洞窟までは行かない。
ウロウロとダンジョン内を探して回る。
……
「あった。あれだあれだ」
脱衣所の近くに木箱を見つけた。
そういえばあの中に収納して、
置き場所に困った挙句、あそこに置いた気がする。
木箱は多少ホコリを被っていたが、カビなどは生えていない。
蓋を開けると、思った通り丁寧に畳まれた服がいくつか入っていた。
一番上の服を取り出した。
目の前に持ち上げて、開いてみる。
「……」
違う。これは、今回は違う。
これだとサイズが小さい。
そうか、最後に着たのはこっちだったか……
ちょっと憂鬱になる。
そういえばしばらく今のままだったから忘れてたが、
いつこれのお世話になってもおかしくなかった。
甲冑の方も用意しとかないとな。完全に忘れてたわ。
もう1つ下の服を取り出す。
見た目は一般的な、人々がよく身につけているような服だ。
装備によっては、町人とも旅人とも取れる。
周囲にとけ込みやすいだろう。
大きさ的にも間違いない。これでいこう。
先に取り出した小さめの服を元に戻して、
正解の方の服を抱えて自室に戻った。
服を椅子に置く。
クローズドヘルムを外して、甲冑を脱いだ。
地面に転がした甲冑は、どこか甲殻類の抜け殻を連想させる。
「脱皮!」
なんとなく言わなければならないような気がした。
先程持ってきた服に袖を通す。
別に初めて着るわけでもないのに、微妙に落ち着かない。
ゴワゴワとした感触に違和感を感じる。
「まあ、着てる間に慣れるだろ」
服を着ているせいで挙動不審になって怪しまれるとか、
ちょっと情けなすぎる。
まさか甲冑姿で町へ乗り込むわけにもいかないし、
ましてやパンイチで特攻する勇気など持ち合わせていない。
勇気があったとしてもパンイチだと別の問題が発生するけどな!
ちなみに下着の上に直接甲冑を着ているわけではなく、
ちゃんと甲冑の下にはそれ用の装備はしてる。
パンイチは誇張表現だ。
「よし」
服を着た自分に変な所が無いことを確認して、
脱いだ甲冑をひとまず隠し部屋に保管する。
剣も必要ないので、甲冑と一纏めにしておいた。
よし、準備完了。
あとは……ゴブリン君に伝言しておくか。
広間に居たゴブリン君に会って、今後の事を話した。
ダンジョンをしばらく空ける、
仕事は適当にやってくれ、
侵入者が来ても応戦せずに逃げてくれ、
といったことを伝えた。
ぶっちゃけダンジョンに侵入者が来ても、実はそこまで困らないのだ。
財宝を溜め込んでいる訳でもない。
あるのは奥の洞窟にある封印だけだ。
あんなもの、勇者以外が辿り着いてもどうしようもない。
財産といえば俺の僅かな私物。
有能なゴブリン君もある意味財産と言えるか。
隠し部屋のコレクションは個人的には大変貴重な物だが、
あそこは簡単には見つからないだろう。
見つかったとしても、価値を見出せない者にとっては
富にならないただの書物だ。
当然、万が一荒らされた場合は犯人を必ず見つけ出し、
相応の報いを受けてもらうが。
「っと……」
忘れてた忘れてた。
町へ行くなら金が要る。
久しく行ってないからスッポリ抜けていた。
一旦自室へ戻り、いくらか金が入っている袋を身につける。
前行った時から結構な時間が経ってるが、
さすがに通貨が変わってるってことは無いよな……
若干の不安が湧き上がるが、悩んだところで手持ちはこれだけしかない。
まぁ……金が使えなくてもなんとかなるか。
前向きにいこう。せっかくこちらから出向くんだ。
作戦以外でも、町で色々とやりたいことがある。
自室を出てダンジョンの外へ。
空を見る。
雨は止んでいて、ところどころ雲がかかっているだけの
まずまずの天気だった。
夕方にさしかかっており、もう少ししたら徐々に暗くなってくるだろう。
「さむ……」
風が吹くと、甲冑の時と違って肌寒さを直に感じる。
これもすぐに慣れるだろうが。
森に入る。
別に急いでいるわけではないので普通に歩いた。
それでも重い甲冑を脱いだ分身体が軽いので、
比較的速い速度で移動することができた。
記憶の中の、町への道筋を思い出しながら歩いた。
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予定より早く、森を抜けた。
空は少しずつ紺色を帯び始めているものの、
まだ遠くの山の陰から、太陽が顔を覗かせている。
見通しの良い草原をサクサクと歩く。
一応ちゃんとした道はあったが、あえて外して歩いている。
道でバッタリ誰かと出会ってしまったら、
初っ端から自然に対応できるかわからない。
何事にも心の準備というのは必要なのだ。
ここまで来ておいて腰が引けてるわけではない。
ビビってるわけじゃない。
「別に? やろうと思えばできるし? 町に着いたら……おっ?」
誰もいないのをいいことに、独り言を呟きながら進んでいると、
前方に目的地が見えてきた。
大きな建物、小さな建物、様々な形の建造物が目に入る。
記憶の中の町並みに比べ、大きな建物が多いように思える。
しばらく見ない間に、町も色々変わっていったのだろう。
「ワシも歳をとったんじゃのう……」
…………は、似合わねー。
見た目は人間とほぼ同じでも、本質的には違う。
俺達の基準だと、俺はまだ若者と言っていい。
歳とったのう発言をするのは、もっと先のことだろう。
カー
何かの鳥の鳴き声が聞こえた。
歓迎のあいさつかな? ご苦労さん。
どこかへ飛んでいく黒色の鳥を見送りながら、
町の入り口の方へ歩を進める。
それでは、
勇者ご一行の滞在先へおじゃましたいと思います。




