モニカメモ
「あ……」
サタン様は紙を覗き込んだ途端、小さく声を漏らした。
目の前に転がっている死体、神官モニカが何をしたのかすぐに理解したようだ。
「前回も挙動が少し怪しかったんですけど、今回はモロでしたからね」
「要注意だとは思ってたけど……こんなことを……」
「前に情報をいただいていたので……ありがとうございます」
以前、サタン様は神官について少し言及していた。
注意するべきかもしれない人物だ、と。
案の定、神官は小細工を仕掛けてきた。
何も知らなければ見逃していた可能性がある。
「いえ……よくやったわ。その注意力、誇っていいわ」
「ありがとうございます。それで、この紙ですが……」
勇者をぶっ殺したので勇者パーティーの転送が起こる。
このメモは神官の所持品だったから、転送されれば神官と共に行ってしまうはずだ。
そのため俺はやつらの始末を急いだ。
「こうして俺が奪ったわけですが、この場合は……?」
「転送されるか、ってことよね? たぶん大丈夫よ」
それならば良い。神官の身から離れても転送されてしまうのなら、
燃やすなりして処分しなければならないと考えていた。
できれば何を記録していたか調べておきたい。
「内容は俺が後で確認しておきます。サタン様そろそろ転送されるでしょうし」
「わかった。まかせるわ」
「それで、サタン様、転送された後のことですが」
「作戦会議ね? 急いで戻ってくるわ。待ってなさい」
サタン様がフンッと意気込んで答える。
やる気まんまんだな。
「勇者パーティー、いつものパターンでいくと明日は自由行動ですよね?」
「そうね」
「じゃあ今日……と、一応明日も町で過ごしていただけますか?」
「え……な、なんで…………」
サタン様が不意打ちをくらったかのように困惑の表情を浮かべる。
「念のため、ですが……神官がメモを複製しているってことも考えられます」
「う、うん……」
「現時点でサタン様の正体がバレてるって線は薄いですが」
「うん…………」
「また何かしてくる可能性もありますので、念のため」
考えすぎかもしれないが、実際、この神官は予定外の行動をやってきた。
サタン様には不審な行動は控えておいてもらった方が無難だろう。
これまでは平気でやってたけど、今回はちょっとな。
「ちなみに勇者達、えーっと……セーブ、でしたっけ。……しました?」
「いや……最初にダンジョンに来たあの時だけよ。毎回その状態に戻ってる」
「了解しました」
よしよし。こまめにセーブされてたら、複製されてなくても
神官の頭の中にメモの内容を記憶されてた。そのあたりは迂闊だな。
この神官がリーダーだったら危なかっただろうけど。
「わかった……あっちに居とく……」
「お願いします。この件は俺がなんとかしますので、サタン様はゆっくりなさってくだされば」
「うん……」
「…………でも、なんかあってピンチになったら助けてくださいね?」
「……ふふ、まかせなさい」
サタン様のテンションが低空飛行を続けていたので、最後にちょっと持ち上げてみた。
直後、転送が開始されたので軽く頭を下げてから見送った。
サタン様は目の横で横向きのブイサインを作って消えていった。
…………決めポーズ?
━━━━━
自室に戻ってテーブルにつき、メモを調べ始める。
広間の掃除については申し訳ないがゴブリン君にお願いした。
広場が血の海のままで生活するのは色々と問題があるからな。
「えーっと、まずは……っと」
神官のメモとは別の紙を用意して、そこに神官のペンを走らせる。
「木炭かな……?」
どうやら木炭を加工したペンのようだ。
2枚の紙を見比べてみて、同じ道具を使って書いたものと断定した。
よってメモは神官が書いたものでほぼ間違いないだろう。
さて、中身を見ていこうか。
『この紙を見た私へ』、『たぶん何度も同じところで死んでる』
『気になることはメモする』、『メモのことは自分だけのヒミツにする』
『キケンなときは自分以外にはわからない所にかくす』
……随分と用心深いことで…………
仲間にも秘密にしてる辺り、かなり慎重だな。
まあ今回はそれが裏目に出たっぽいが。
いや……サタン様に喋ってないのは正解か。
よし、次。
『夜、周りいじょうなし』、『ねる、部屋にいじょうなし』
『朝起きたら寝ぐせがすごい』、『自由行動』
『朝食のパンがかたい』、『市場で犬に追いかけられた』
『なんか暑い』、『夜、周りいじょうなし』、『ねる、天井のシミが気になる』
気にしすぎだろ! 神経質すぎるわ!
びっしり何書いてると思ったら、かなりどうでもいいことまで書いてるわ!
『出発の準備ぶじ完了』、『森に入る』
『草木が多い、てきがかくれてるかも』、『きのこ』
『森をぬけた、どうくつハッケン』、『どうくつ入る』
町からここまでの道程ね。
キノコがちょっと気になったのか。
『つうろせま』、『ひろま』、『よろい』、『→てき』
『しゃべった』、『にげた』、『ユおう』、『マひきとめ』、
『ユもどらない』、『さがしいく』
ダンジョンに入ってからはちゃんと書く余裕が無かったようで、
なぐり書きのようになっている。字が荒れていて読みにくい。
『ユ』が勇者のことで、『マ』は魔法使い、サタン様のことだろうな。
『さがしいく』の後に小さな星のマークがあって、メモが続いている。
『メモを見つけた』、『死んだ? なぜ?』、『ねる、いじょうなし』
『夜中、トイレいく』、『トイレいじょうなし』、『自由行動』、『朝食のパンがかたい』
自分達が死んだと思ったのか。
正確には勇者が沼で溺死して、転送されただけなんだけどな。
朝食のパンは再度記録するほどに堅さが気になるのか。
『マ法使いがいない』、『探したが町にはいない? 町の外?』
『しばらくしてマ法使いが帰ってきた』、『マ法使いがなんかおかず臭い』
『マ法使いがニヤニヤしてる 不気味』、『マどこで何してた? 不明』
……うっわー…………
すっげえ怪しまれてます。サタン様、ここで飯食ってる間に。
しかもその後かなり観察されてるわ。
んで結構ひどい事書かれてるわ。
……
「うーん……」
読んだ感じだと、2回目の転送の後かな? そこからもうメモをとりはじめてるな。
本人はもっと、何度も死んでると考えたようだが。
察しが良いというか疑り深いというか、
まー色々と事細かに書いてくれちゃって。
「ふー……」
一旦メモを置いて水を飲む。休憩。




