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第19話 リュークの救済、アルンの今後

(シャンとしろ! 怒りに我を忘れてる場合ではないだろう)

(ウッ、そうだな)


 フィンに嗜められ、我を忘れかけた優馬は頭を働かせ始めた。


 今の話には不審な点が多すぎる。

 ゼロスの行動がうまく行きすぎているが理由は明らかだ。

 対応した新参のギルド職員である。


 普段どうだったか思い出してみよう。

 リュークが稼いだ金を預けていた時、応対していたのはフィオナだった。


 彼女はあれが個人の資産でないことは知っている。

 ゼロスが全額を引き下ろそうしたら止めたはずなのだ。


「フィオナ。リュークが稼ぎを口座に入れていることは知っていますよね。いくら個人名義だといっても全額下ろすのをどうして止めなかったんですか」

「ええ、たまたま別件で席を外していたの。もし、その場にいたら何があっても止めていたわ」

「なるほど。でも、新参者の職員がそんな重要な仕事をするのは変ですよね」

「それが……。ゼロスは癇癪持ちで、関わりたいと思う職員はいなくてね。そんな時に自らフロアの揉め事を納めて手続きを進めていた彼に、周りは任せきりにしてしまったみたいなの」


 新参者が癇癪持ちのベテラン冒険者の対応を率先して?

 ますますおかしい。普通なら尻込みしそうなものだ。


「その職員は?」

「行方不明なの。やられたわ。ギルドに入所した時の履歴書に書かれた経歴にも虚偽が見つかったし、他にもいろいろとね」

「もしかして、その職員もゼロスが紛れ込ませたとか」

「確証はないですけど、恐らく……」


 フィオナは悔しそうにそう言った。優馬は「やはり、か」と呟いた。

 ある者は天を仰ぎ、ある者は首を力無く振った。

 リュークは黙って唇を噛んでいる。


 気づくのが遅すぎた。今からでは打てる手がほとんどない。

 しかも、失踪した職員は捜索対象にはなるものの、逮捕状は取れないそうだ。


 確かにその職員の行動には問題があるもののギルドの対応としては、間違いは何もない。

 個人口座の金を本人が下ろす以上、何の責任を問うこともできないからだ。


 そこに一人、ギルドの制服を着ている男が駆け込んできた。

 フィオナが声をかける。


「どうでした?」

「見つかりませんでした。ですが、カルディアの門番が町を出るゼロスと一緒にいたところを目撃しています」


 ゼロスとグルの新参職員は、ともにこの町を出た。

 リュークの金は戻ってくることはないだろう。


 指名手配することも可能かも知れないが、審査には時間がかかるだろう。

 ゼロスは個人資産を引きおろしただけだし、それを担当した職員も手続き自体には不正なところはないのだ。


 わかっているのに、捕まえる(すべ)がない。

 そして、それ以上に誰もがリュークを助けたいと思っている。


 だが、今彼を救ってやれる制度もギルドには存在しない。



 ギルド内に流れる陰鬱とした空気の中、突然フェルハートがリュークの肩に手を置き、大声を上げた。


「あーーー、終わっちまったことは仕方がねぇ。リューク! お前冒険者は好きか。それとも辞めちまうか」

「えっ、それは……できれば続けたいです。でも……行く宛ても装備もないし」

「それじゃあ『暁の守護者』をどう思う?」

「とてもいいパーティだと思います……けど?」


 それを聞いてカイとレオンが駆け寄ってきた。

 リュークの肩をポンポン叩いている。


「よし、決まりだ。これからリュークは『暁の守護者』の一員だ。カイ、宿に行って一名追加と女将に行ってこい。レオン、リュークの装備はわかってるな。とりあえず明日困らない程度のものでいい、一緒に行ってちょっとあつらえてこい」

「ありがとうございます」


 リュークの瞳から涙が溢れる。

 泣きながらフェルハートに頭を下げ、カイとレオンと一緒にギルドを飛び出して行った。


「フェルハートさん。リュークのこと、ありがとうございます」

「おう、優馬。冒険者は助け合いだ。それにお前も今回は頑張ったんだ。よくやったな」

「はい!」



 優馬はホッとしていた。


 胸の重さは消えはしない。

 フェルハートが手を差し伸べてくれたことで、免罪符が与えられたとも思ってもいない。


 だが、これでリュークは明日を迎えることができる。

 宿もなく無一文でカルディアの町に放り出されたかも知れないのだ。



(フィン。あのゼロスって奴は許せないな。いずれとっちめてやらないと気が済まない)

(優馬、気持ちはわかるが無理だ。今のお前ではヤツにはまだ届かん、返り討ちに合うのが関の山だ。それよりこの事件。決まりをつけなければならないことが残っているようだぞ。どうするんだ。特に優馬。お前自身について)

(えっ、俺? 何かあったっけ)


 すっかり終わったつもりでいる優馬に対し、フィンは嗜めるようにそう言った。

 そして、そう思っているのはフィンだけでなく、このギルド内に何人もいることに気づいていなかった。



 何か様子が変だ。

 これで明日から安心してソロ活動できるというものであるはずなのに、どうやら雲行きが怪しい。

 エルフィナが近づいてくる。フェルハートも後ろでニヤニヤしている。


「優馬、まだ終わりじゃないわ。アルンはどうするのよ」


 そうか、それがあったかと優馬は思った。すっかり忘れていたのだ。

 最初は自分がソロ冒険者であることから、アルンが一人で仕事をしていることを普通だと思っていたのだ。言われてみれば今のアルンを一人で活動させるのは不安がある。


「確かに……そうですね」


 肯定はしたが、答え辛いことこの上ない。

 冒険者歴わずか一ヶ月。「新人のソロは危ない」などと言えば「お前はどうなんだ」と言われかねない。つまり、アルンの問題を指摘するのは優馬にとって諸刃の剣なのだ。

 だが、そんな胸中にはお構いなしにエルフィナとフェルハートは話を進めていく。


「ねぇ、アルンも『暁の守護者』で預かれる?」

「うーん、流石にこれ以上ウチで新人を預かるのもしんどいな」


 『暁の守護者』のパーティメンバーはリュークを入れて七人。一人は怪我で療養中なので、これからの活動はベテラン三人に若手三人。ここに新人を入れると若手の方が多くなってしまう。これは流石に無理だ。

 でも、問題はそこではない。どこかフェルハートの態度が白々しいのだ。さらにおかしいのは、話が終わったのにフィオナさんがこの場に残っている。窓口業務はどうなっているのやら……


「そうよね。あなたのところでもこれ以上は無理。困ったわ〜」


 エルフィナさんは優馬を横目で見ながら、セリフは棒読み。

 言った内容とは裏腹に全然困ったような様子がない。


「なんなんですか。フェルハートさん、エルフィナさん。それにフィオナまでニヤニヤして!」


 凄く居心地が悪いが、逃げ出すわけにもいかず次の言葉を待っている。

 優馬は、アルンが妙に落ち着いていることが不思議でならなかった。

 挿絵はアルンです。

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