SIDE B:彼氏の場合
冬の寒いある日。
狭い一人暮らしのリビングで寂しく夕飯を食べ終えた俺は、キッチンで食器を洗っていた。そのとき、冷蔵庫の方から「カタン」と小さな音がした。
ああ、食材の冷凍ピラフを取り出したときに並べ変えた『あの子』が音を立てたのかな?
食器を洗い終えて、周囲の水切りやゴミの片づけを終えてから冷蔵庫にある冷凍庫の扉を開ける。
そこには夏に買って以来、食べるチャンスを失って凍えている『あの子』が居た。
彼女を片手に握って、逆の手で冷凍庫の扉を閉めると、今日はもう寝るだけなので寝室へ直行した。
寝室は既に寝るための湿度と温度を整えてあったので、ソフトクリームのパッケージには薄っすらと水滴が付く。
パッケージを丁寧に剥がすと、そこには少し柔らかめのソフトウエハースに詰められた白いバニラ味のソフトクリームが現れる。
「綺麗だ」
どうってことは無い、近くのコンビニで買ってきた物だ。特別限定商品であったりプレミアムな物であったりした訳では無い。だが俺にとっては懐かしい味であり、この柔らかな薄い黄色のコーンとバニラの白の対比に美しさを感じる。
たぶん、この感覚は子供のころに何処かで記憶に擦り込まれたのかもしれないな。
「ガチガチだよ。寒かったんだね。温めてあげる」
部屋の湿度で少し湿り気を帯びるソフトコーンは、名前と裏腹に冷凍庫の奥で何か月も仕舞われてカチカチになっている。コーンの表面を撫でる様にそしてゆっくりと手で温めていく。
全体が程よく柔らかくなるのを待ちながら、コーンから飛び出ているソフトクリームの頭の部分を舐める。部屋の温度だけでは直ぐに温まらず、舌が表面に着いた氷のガサガサを感じ取りながら、じっくりと舐めていく。
「おや?下の方が何やら……」
時間を掛け過ぎたのか、それとも室温が高かったのか、ソフトクリームのコーンの底から融けたバニラクリームが零れ始めた。
慌てて冷えた舌をコーンに当てて舐めとる。コーンはカリカリクッキーのワッフルコーンタイプでは無いため、内側のクリームと外側から舐め回すから直ぐに穴が空いてしまった。
上の融けるクリームと下から零れるクリームをなんとかしようと、舌を各所に這いまわす。終いにはズボズボになったコーンの下から舌を突き入れる。この頃にはソフトクリームの冷たさも和らぎ、舌の温度も高くなってきているから余計に融解が進む。
最後の〆とばかりに、大きな口で一気に全体を口に放り込む。
「ああ、良かった」
無事に最後まで食べ終えた。
寝室も汚れずに済んだ。
そして何より夏以来のソフトクリームをとても美味しく食べることができた。
また、会いたいな。




