そのままで 1
八月の東京での対バンは、
「まあ、爪痕残して来たな」とユッケが言った。
Darwin目当てのお客さんは少なかったけど、それは覚悟してた。
その代わり個性を際立たせるために、
「仕込み十分で行ったしな」とケン。
バンドも札幌とは比べ物にならないくらい多いし、
「ライブの内容なんかもすごく考えさせられたよなー」とコウは言っていた。
なんと、札幌からファンクラブの子数人が追っかけて来てくれたそうで、
ライブの様子を会報に載せてくれた。
メンバーは学校に通いながら曲を書いて練習して、みんなの全力で目標だった新譜も完成に漕ぎ着けた。
私も今回初めて、デモテープ用にカラーのジャケットを描いた。
新譜を聴いてテーマになる色を考えて、深い赤を基調に選んだ。
そうして完成した新譜は、対バンで上京した時にメンバー揃って目当てのレコード会社RedWingに持ち込んだ。
向こうでのバンド仲間も増えて、冬休みに合わせた十二月にはまた東京で、
次の対バンをすることが決まったそうだ。
札幌では早速、ファンクラブを中心に新譜の情報を流してテープは売れていたし、
対バンでも新曲をどんどん入れていた。
夏から秋へと、Darwinの活動はハイペースに続いた。
またラジオでも曲がリクエストされるようになって、Sラジオでは歌詞が個性的なユッケの曲「親父」が話題になった。
世代を問わずに人気があるみたい。
でも当のユッケは他の曲を大事に考えているので、
「まずいな、コミックバンドだと思われちゃ困る。新譜に落としたの失敗したかな」と逆に気にしていた。
地域FMでは、ユッケのシリアスな曲「赤い爪」がまず紹介されたので、本人もホッとしていた。
歌詞はユッケにしては荒々しいけど、家でお父さんと一緒にニュースを見てた時に、
中東の紛争での爆撃や、苦しんでいる人々の泣き顔を見ていたらこんな曲になったそうだ。
「赤い爪」
傷つける言葉を 吐き出せば
お前の心は満たされるのか
振りかざすナイフで 切り裂けば
お前の痛みが消えるのか
争いの連鎖は どす黒く錆び付いた鎖
お前の自由を奪うのは
誰かが打ち立てた壁じゃない
復讐の血に染まる
その赤い爪
「赤い爪」はセイのギターを力強く入れ込んだ曲で、ケンのドラムも激しく攻め立てるように鳴らしている。
キーは割と高くて、コウのボーカルも胸をかきむしるように響いてくる。
それとコウの新しい曲「そのままで」が紹介された。
この曲は、形にする前にコウの部屋でギターの弾き語りで聴かせてもらった。
コウの得意なキーで、のびのびとした感じで歌われてる。
「どういう感じでできたの」
「去年、ミキが俺を絵に描いてくれた時のこと思い出したらできた。まあ、あとはここまで色々悩んだりしたよな、とか思いながら書いたらこんな曲になった」
「悩んだよね。でもいい曲だよコウ。すーっと心に入って響く気がする」
「良かった。中間にみんなのコーラス入れて、ギターもちょっとセイと考えてみようかな」
これは聖美さんが好きそうな感じ。
と、思ったけどコウは絶対逆らうから、言わないでおく。
音楽って、聴くにしても作るにしても、その時に置かれている状況をすごく映し出すんだなあと思う。
コウがたくさん悩んだことも、こうして曲の中に活きて行くのなら、報われるのかなと思う。
6月に、みんなで今後の活動ができると定まってからは、ケンもコウもDarwin全員で、ラジオの取材も受けられるようになった。
ラジオで曲の紹介をするコウの声を聞いた時は、私も嬉しくて感動した。
「そのままで」
君といる俺は ただ一個の楽器だから
君が思うように 俺を歌わせてくれ
君が好きな歌を歌いたいんだ
思いが響いてくるんだ この体に
だから 気持ちを伝えることに躊躇わないでくれ
何も隠さなくていいんだ そのままで
君を知りたいんだ 何を思っているかを
マイナスだってプラスだって構わない
響き合えるから 信じてくれ
君といる俺は ただ一個の楽器だから
君が思うように 俺を歌わせてくれ
君が好きな歌を歌いたいんだ
思いが響いてくるんだ この体に
だから 気持ちを伝えることに躊躇わないでくれ
何も隠さなくていいんだ そのままで




