表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
You Really Got Me  作者: のすけ
22/27

そのままで 1

 八月の東京での対バンは、

「まあ、爪痕残して来たな」とユッケが言った。

 Darwin目当てのお客さんは少なかったけど、それは覚悟してた。

 その代わり個性を際立たせるために、

「仕込み十分で行ったしな」とケン。

 バンドも札幌とは比べ物にならないくらい多いし、

「ライブの内容なんかもすごく考えさせられたよなー」とコウは言っていた。

 なんと、札幌からファンクラブの子数人が追っかけて来てくれたそうで、

 ライブの様子を会報に載せてくれた。

 メンバーは学校に通いながら曲を書いて練習して、みんなの全力で目標だった新譜も完成に漕ぎ着けた。

 私も今回初めて、デモテープ用にカラーのジャケットを描いた。

 新譜を聴いてテーマになる色を考えて、深い赤を基調に選んだ。

 そうして完成した新譜は、対バンで上京した時にメンバー揃って目当てのレコード会社RedWingに持ち込んだ。

 向こうでのバンド仲間も増えて、冬休みに合わせた十二月にはまた東京で、

 次の対バンをすることが決まったそうだ。

 札幌では早速、ファンクラブを中心に新譜の情報を流してテープは売れていたし、

 対バンでも新曲をどんどん入れていた。

 夏から秋へと、Darwinの活動はハイペースに続いた。

 またラジオでも曲がリクエストされるようになって、Sラジオでは歌詞が個性的なユッケの曲「親父」が話題になった。

 世代を問わずに人気があるみたい。

 でも当のユッケは他の曲を大事に考えているので、

「まずいな、コミックバンドだと思われちゃ困る。新譜に落としたの失敗したかな」と逆に気にしていた。

 地域FMでは、ユッケのシリアスな曲「赤い爪」がまず紹介されたので、本人もホッとしていた。

 歌詞はユッケにしては荒々しいけど、家でお父さんと一緒にニュースを見てた時に、

 中東の紛争での爆撃や、苦しんでいる人々の泣き顔を見ていたらこんな曲になったそうだ。


「赤い爪」


 傷つける言葉を 吐き出せば

 お前の心は満たされるのか


 振りかざすナイフで 切り裂けば

 お前の痛みが消えるのか


 争いの連鎖は どす黒く錆び付いた鎖


 お前の自由を奪うのは

 誰かが打ち立てた壁じゃない

 復讐の血に染まる

 その赤い爪



「赤い爪」はセイのギターを力強く入れ込んだ曲で、ケンのドラムも激しく攻め立てるように鳴らしている。

 キーは割と高くて、コウのボーカルも胸をかきむしるように響いてくる。

 それとコウの新しい曲「そのままで」が紹介された。

 この曲は、形にする前にコウの部屋でギターの弾き語りで聴かせてもらった。

 コウの得意なキーで、のびのびとした感じで歌われてる。

「どういう感じでできたの」

「去年、ミキが俺を絵に描いてくれた時のこと思い出したらできた。まあ、あとはここまで色々悩んだりしたよな、とか思いながら書いたらこんな曲になった」

「悩んだよね。でもいい曲だよコウ。すーっと心に入って響く気がする」

「良かった。中間にみんなのコーラス入れて、ギターもちょっとセイと考えてみようかな」

 これは聖美さんが好きそうな感じ。

 と、思ったけどコウは絶対逆らうから、言わないでおく。

 音楽って、聴くにしても作るにしても、その時に置かれている状況をすごく映し出すんだなあと思う。

 コウがたくさん悩んだことも、こうして曲の中に活きて行くのなら、報われるのかなと思う。

 6月に、みんなで今後の活動ができると定まってからは、ケンもコウもDarwin全員で、ラジオの取材も受けられるようになった。

 ラジオで曲の紹介をするコウの声を聞いた時は、私も嬉しくて感動した。


「そのままで」



 君といる俺は ただ一個の楽器だから

 君が思うように 俺を歌わせてくれ

 君が好きな歌を歌いたいんだ



 思いが響いてくるんだ この体に

 だから 気持ちを伝えることに躊躇わないでくれ

 何も隠さなくていいんだ そのままで



 君を知りたいんだ 何を思っているかを

 マイナスだってプラスだって構わない

 響き合えるから 信じてくれ


 君といる俺は ただ一個の楽器だから

 君が思うように 俺を歌わせてくれ

 君が好きな歌を歌いたいんだ



 思いが響いてくるんだ この体に

 だから 気持ちを伝えることに躊躇わないでくれ

 何も隠さなくていいんだ そのままで




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ