たった一つのリズム 1
「ミキ、水着どうするの」
「うーん、持ってないし買うつもり」
「じゃあ一緒に見に行かない」
チエちゃんと私は、街中にあるファッションビルの水着コーナーに来た。
Darwinと、いつも応援してくれてるみんなとで海水浴に行くことになった。
元ギタリストのカズ君も参加する。
社会人の先輩たちが準備してくれて、十人以上で遊んで浜辺で焼肉してお昼を食べる予定。
「カズネ先輩はセパレートの赤なんだって」とチエちゃんが言う。
「カズネ先輩、色白だから赤はすごく似合いそう」
チエちゃんはブルーの地に花柄のセパレートを選んだ。
背が高くて髪が茶色っぽく小麦色の肌のチエちゃんにぴったり。
「それ、チエに似合うと思うよ」
「ミキもこういうのにすれば。コウが喜ぶんじゃないの」
「やっぱりお腹出すの恥ずかしいよ」
「でも、この方が痩せて見えるんだってよー」
「えー、うーん、勇気ない。やっぱりワンピースにする」
何となくコウの顔が浮かぶ。
コウは私がセパレート着たら喜ぶよりか気にしそう。
二人でプールとか海には行ったことないし、水着になるなんて初めて。
そう思うと意識してしまう。
去年のライブの時。
Tシャツから胸が見える、と教えてくれたことを思い出した。
迷った末に黒地に小さめの花柄でワンピースタイプのに決めた。
サンダルも黒で細いストラップのにした。
黒はコウが普段よく着てる色だから。
「オンちゃん先輩とゆっくり話すの久々だなー」とチエちゃん。
オンちゃん先輩はカズ君の高校の同窓生で二十五歳の社会人。
フュージョンのバンドでベースを弾いていて、Darwinのメンバーをとても可愛がってくれている。
「チエはオンちゃん先輩大好きだもんねー」
「大好き、優しいしカッコいいもん。前の日も先輩の車で一緒に買い物行って準備手伝うんだ」
「チエって大人の人がいいんだね」
「うーん、そうかも。付き合うなら年上の人がいいな。同い年くらいだとみんな友達になっちゃうんだよね」
そう言うチエちゃんは、面倒見が良く性格もさっぱりしている。
みんなのお姉さんみたいだ。
最初はカズ君の彼女かと思ったけど、
「カズとは友達。あいつカズネ先輩のこと好きだから。先輩にもバレてるけど」
確かにカズ君がカズネ先輩のことが好きなのはすぐわかった。
ライブにカズネ先輩が来るとそわそわして挙動不審になる。
側に来てくれようものなら、耳が真っ赤になって目が合わせられない。
先輩が差し入れのお弁当を作ってきてくれた時は、感動してなかなか食べられないくらいだった。
「カズネ先輩はどうなのかなあ、カズ君のこと」
「カズネ先輩ってちょっとわかんないんだよね。カズのことは可愛がってると思う。職場に彼氏いるっていう噂もあるけどライブに一緒に来たりとか全然ないし、そういうこと本人も言わないし」
「謎っぽいね。綺麗だし」
「綺麗だよね。ちょっと不思議な感じもいいんだよね」
カズネ先輩は、現れると周りがポワーっとしばらく見とれるくらいの美人。
しかもみんなに優しい。
美人すぎて、色んなロックバンドの元気な男の子達も迂闊に近づけないみたいだ。
「私はオンちゃん先輩に好きってばれないで一緒に遊びたいの。一日ずっとそばに居るからね」
そうチエちゃんは宣言した。




