第10話
「……セカイ?」
僕の声が大きく反響する。
今置かれているこの場は、ただひたすらに暗く、どんな場所なのかさえもわからない。しかし声の反響から、セカイの居る世界ではないことだけはわかる。
「……」
どこに向かえばいいのかも、どこに向かっているのかもわからないまま、歩き始める。
何かに躓かないように、壁にぶつからないように、慎重に歩いていたが、壁や障害物がある気配は、毛頭ない。
「セカイー!」
壁などの位置を把握するためにも、次は声を大きく出した。しかし僕の声は相変わらず全方位に虚しく響くだけで、新たな情報を得ることは出来なかった。
情報がないという情報を知った僕はそのまま、ここから出れなくなったらどうしようだとかそんな要らない想像をしてしまい、心臓がバクバクと鳴り響いてきた。
「は……っ、はっ……」
僕はもはや足下の状況なども関係なく、取り乱しながら、手探りで出口を探した。しかし、もがけばもがくほど、今の状況が絶望的なことに気が付いていくだけだった。
「た、助けて、助けてっ! はあっ、あ、はあっ……はあっ……」
「……………………っ…………るっ…………」
「???」
どこかから微かに、人の声が聞こえてきた。同時に視覚が使えない分、聴覚がひどく敏感になっていることに気が付く。
「…………るっ……さ……」
声は、段々近づいてくる。僕も手がかりを逃すまいと、必死に耳を澄ませた。
「ぅ……る……さ………‥っ」
しかし、一向に声がはっきりと聞こえることはない。
「何だ、誰の声――」
「……うるさいっ!!!!!!」
鼓膜を突き破りそうな轟音が、部屋中に響いた。本能的に手を耳に当て、必死に塞いだ。
「何でいうことが聞けないのっ!?」
しかしいくら耳を強く塞いでも体中に響いていくるその声は、僕の抵抗をもろともせず、耳に大きく響く。
そして同時にその声は、非常に聞き覚えのあるものだった。
「お父さん、出て行っちゃうよ。なんで、別々にならなきゃいけないの?」
「子供にはわからないの! 頼むから黙って!」
それは、小さい頃の母と僕の声だった。その声が、耳をつんざくような轟音で、響きわたっている。
僕は最早、どんな声も耳にいれたくなくて、子供のようにうずくまり、必死にその声を防ごうとしていた。
「何でそうやって我が儘ばっかり言うの!? お母さんを困らせたいの!?」
「うええぇ……ち、ちがうよおぉおおお」
泣きじゃくる昔の僕の甲高い声と、母の強い怒声が、不快に入り混じる。頭がズキズキと痛み、血管が脈打つ感覚を覚える。
「……ごめんなさい」
思わず、僕は謝罪の言葉を呟いていた。
動悸が、止まらなくなる。
「何がそんなに不満なのよ!?」
「ごめんなさい……」
冷や汗が止まらない。
「私だって、一生懸命やってるのよ」
「……ゆるして」
僕はもはや、一つの言葉しか呟けなくなる。
「ごめんなさい……。ごめんなさい……。ごめんなさい……。ごめんなさい……。ごめんなさい……。ごめんなさい……」