Case2 初任務 ─ 都市伝説「赤い女」─
「えっと…それって俺一人ですか??」
『必見!!夜に出る"赤い女"』の動画を観ながら俺はそう答える。
「赤い女」、この案件は恐らく本部や他の大きな担当支部が扱う場合中隊長レベル。
埼玉支部は万年人手不足。中隊など存在しておらず、もちろん中隊長なんざ存在していないが、それでも入局3年目のペーペーが担当していい案件ではない。
動揺する俺に目もくれず、フードの男はぶっきらぼうに答える。
「そ。見てわかんない?今他の隊員はみんな別案件で手がいっぱいなんだよ。暇なのは君だけ。」
確かに今ここには俺とフードの男、そして支部局長しかいない。話によると、あと3名埼玉支部に所属しているはずだ。
だがしかし、だ。いくら人手不足だろうが、俺はまだ鵺の力を最大限引き出せていない。せいぜい30%といったところだ。そんな俺が70%以上引き出しているのが当たり前の中隊長クラスの案件を完遂できるとは思えない。
「まあ、嫌だって言うならそれでもいいけど?そこらへんでゴミ拾いしてるか、他の隊員の案件と交換でもすれば?まあそれも嫌だって言うなら邪魔だし帰って??」
男は一息でそう言い切る。
この案件を俺に当てるということは他の先輩らはもっと難易度の高い案件が当たっているはず…
すなわち、俺にはゴミ拾いか、案件を引き受けるか、この2択しか最初から用意されていないのだ。
「…分かりました。引き受けます。」
俺は意を決してそう告げる。
すると、今まで新聞を読んでいた支部局長が顔を上げる。
「もう話し合いは終わった?」
はい、と男が言う。
「了解。そしたら俺これから寄るとこあるし、先上がらせてもらうわ。」
そう言って支部長は立ち上がり、くたびれマントを肩に掛ける。
「あ、そうそう。百目鬼さ、自己紹介ぐらいはしろよー?そいつ、怖がっちゃってるじゃん。」
そして、支部長はこちらをチラリと見て、じゃ!と言わんばかりに片手を上げて部屋を出ていった。
シーーーン
長い沈黙がこの部屋を支配する。
カタカタとタイピングの音だけが響き、俺はどうしたらいいのかも分からずに立ち尽くす。
「…えっと、ちなみに百目鬼さんは埼玉支部の情報統制部員なんですか??」
俺はおずおずと百目鬼という名であろう男に尋ねる。
各支部には、情報を収集し、統制する「情報統制部隊」、妖と直接対峙する「戦闘部隊」、負傷した隊員を治療する「医療部隊」が存在する。
百目鬼のデスクに置かれた大量のコンピューターとモニター、そして彼の今までの言動を見る限り、おそらく彼はこの支部の情報統制員なのだろう。
「そう。支部長からも言われたし、軽く自己紹介させてもらうわ。僕は百目鬼燐。埼玉支部の情報統制部員だ。埼玉の案件は全部俺が割り当ててる。何か案件について分からないこととかあったら全部僕に聞いて。」
キーボードを叩く手は一切止めず早口で言う。
普通案件の割当ては中隊長又は小隊長が行うものなのだが、ここでは彼がその役目を担っているらしい。
タンッと一際大きなタイピング音が聞こえると、ゲーミングチェアに座った彼がこちらへと振り向く。
フードを深く被った彼の顔はあまり見えなかったが、フードから長く伸び切った赤毛が覗いている。
「じゃ、とりま今回の案件について説明するから。メモとるなりレコーディングしとくなりして。」
デスクにある大量のモニターに今回の案件についての様々な情報が映し出された。
『赤い女』
目撃場所 埼玉県川口市 某トンネル
目撃多発時刻 23時〜3時
トンネルの中間あたりで出口付近に赤い女が現れる。
女は真っ赤なワンピースに赤いハイヒールにボサボサの黒髪、そして、血のようなものでまだらに染まった赤い肌が特徴的。
女はこちらをジッと見つめ、背中を向けるとこちらへと猛ダッシュしてくる。ニタニタと笑いながら。
女に遭遇した場合の対処法は、「ギツビー」と3回唱えること。
百目鬼の早口な説明を聞き取り、メモに残す。
「なんか…口裂け女に似ていますね。」
対処法が整髪料の名前を唱えるあたりがもろにそれだ。
「そう。あまりにもありきたりな都市伝説だ。こんな都市伝説、全国各地にあるし、大体がデマで大した問題でもない。だが、この"赤い女"は目撃情報、被害情報が桁違いだ。かつての口裂け女レベルと言っていい。それも、被害がどんどん大きくなっている。最初は驚かされた程度だった。なのに今は精神病棟に入院する者や斧で追いかけ回され、怪我をしたという者も出てきている。いずれ死人が出てもおかしくない。」
確かに、この『必見!!某トンネル"赤い女"』の動画がアップされたのは2週間前。しかし、目撃情報、被害情報は3桁にのぼる。ボケっとしている暇はなさそうだ。
百目鬼はふぅっと息を吐き、時刻を確認する。
今現在18時42分。
目撃多発時刻まで約4時間。
これから警察署に連絡し、トンネルを立ち入り禁止にする手間を考えるとあまり時間はなさそうだ。
「じゃあ、俺は警察署で手続きを済ませつつ、現場に向かおうと思います。」
百目鬼にそう告げて、部屋を出ようとしたとき、「待って」と引き止められた。
彼は床を思いっきり蹴って、ゲーミングチェアごと扉の方へ移動してくる。
そして、俺の背中をバシッと叩いた。
急に背中を思いっきり叩かれた俺は目を丸くしながら百目鬼を見つめる。
「いやぁ、激励みたいな?埼玉支部では初の任務だし……それだけ…じゃ…」
再び彼は床を蹴り、定位置へと戻る。
俺は背中にジンジンとした痛みを感じながらも、どこか温かさを感じて、部屋を後にした。
※ ※ ※ ※ ※ ※
ピコン
『赤い女 初の死者確認』




