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Case1 ようこそ、吹き溜まりへ ─ 都市伝説「赤い女」─

「また出たか」


薄暗い会議室で、黒いシャツの男が煙を吐いた。


無精髭、だらしなく崩れた姿勢。

吸い殻で埋め尽くされた灰皿にまだ半分と吸い終えてないタバコを押し込む。


「どうして都市伝説ってのは定期的に流行るんだか…」


モニターには、ひとつの動画が映っている。


『必見!!某トンネル"赤い女"』


画面の奥、トンネル出口に立つ赤い影。

次の瞬間、それは人間じゃあり得ない速度でレンズの目前まで迫り、動画は絶叫と共に途切れた。



再生回数は、すでに数百万。

今現在もその数は更新され続けている。


「……SNSってのは便利だな」


男は吐き捨てるように言った。


「噂を、現実に変える」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


鳴神夜鷹(なるかみよだか) 埼玉支部勤務を命ずる』


上司から確かにそう言われた俺は、「宵禁局(しょうきんきょく)の吹き溜まり」と悪名高い埼玉支部へと向かう。


隣に位置する警察署を横目に目的の駅へと入り、奥の方に追いやられたエレベーターを呼ぶ。そして、監視カメラに背を向け、渡された指示書のとおり階数ボタンを押していく。


B1→3→1→B2→B1


そしてEnterキーの代わりと言わんばかりの非常ボタンを押下。

すると、エレベーターはものすごいスピードで急降下した。


チーン


古びたドアはゴゴゴとゆっくり開き、蛍光灯が点滅する古びた地下室が現れた。


『宵禁局 埼玉支部』


入り口に殴り書きでそう書かれた看板は少し傾いている。


「ここが俺の職場…」


吹き溜まりと言われるだけあって、本部とは規模も清潔感も何もかもが雲泥の差だ。

だが、階級だの規律だの色んなものに雁字搦めにされる本部や京都支部に比べたらまだマシだ。


そう思いつつ、重たそうな扉を開ける。


「お、来たな。」


低く渋い声が小さな一室に響き渡り、一斉に皆がこちらに目を向けた。


「4月1日付けで埼玉支部に配属されました鳴神夜鷹です。」


そう言って俺は敬礼をする。

宵禁局は警察に近い性質を持つ対怪異組織で、挨拶は基本敬礼だ。


「おお。俺は埼玉支部局長、黒瀬鷹臣(くろせたかおみ)だ。これからよろしくさん。」


無精髭を生やしたサンダル姿の大男がこちらへノソノソと歩いてくる。

そして、少し屈んで俺を覗き込みニヤリと笑う。


「聞いてるぞ。お前、鵺なんだってな。得体も知れず、不吉の象徴。またこの吹き溜まりにぴったりな人材がきたもんだ。」


その言葉に俺はピクリと眉毛が動く。

しかし、こんなような言葉は俺にとってはもう慣れっこだった。最初はその言葉に深く傷付き、声を荒げて反発したものだが、もうそんな気も起きない。


「まあいい。ちょうどいいときに来たもんだ。お前に早速任せたい案件がある。ここは万年人手不足だからなぁ。」


支部長はボサボサな白髪混じりの髪をポリポリと掻きながらタバコに火を付ける。

そして、サッと部屋の隅っこにいるフードを深く被った男に目をやった。


「あーーー、はいはい。分かりましたよ。人使い荒いんだから。」


その男はこちらを振り向きもせずに応える。

こちらにほとんど背を向けている状態なのにどうして支部長がアイコンタクトを送ったのに気づいたのだろうか…。

そんな俺の疑問をよそに、男はものすごい速さでキーボードを打ち始める。

これ、テレビとかで見るプロのタッチタイピングより遥かに早いんじゃないか…??


「ねぇ、えっと、鳴神くんだっけ?ちょっとこの画面見てもらえる?」


壁に貼り付けられた大きなモニターが青く光る。

そこには一つの動画が映し出されていた。


『必見!!某トンネル"赤い女"』


あ、これ今話題の「赤い女」だ。

とあるインフルエンサーのツイートで話題となった「赤い女」

今では発端の動画は何百万再生、何十万リツイート。最近ではニュースでも取り上げられ、街を歩くたびに誰かしらがその「赤い女」について語っている。


「君にはまずこの"赤い女"を鎮めてもらいたいんだよね。」

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