第5話 大規模支援クエスト
全5話完結(最終話)
短めの追放系作品となります。
執務室での話し合いを終えると、
レオンは迷いなく立ち上がり、重い足取りでギルドホールへ向かった。
扉を押し開けた瞬間――
朝の依頼受注で賑わっていた喧騒が、
まるで風が止んだかのように静まり始める。
「ギルドマスターが出てきたぞ……?」
「なんだ? 緊急依頼か?」
ざわつく冒険者たち。
普段は好き勝手に騒いでいる彼らでさえ、
レオンが姿を見せると自然と背筋が伸びる。
レオンはカウンター前に立ち、
ギルド全体を見渡すようにゆっくりと視線を巡らせた。
そして――
腹の底から響く声で宣言する。
「準冒険者諸君、前へ!」
その声はギルドの梁まで震わせるほどの迫力だった。
若い冒険者たちは驚きながらも、
次々と前へ集まってくる。
緊張で喉を鳴らす者、
仲間と顔を見合わせる者、
期待と不安が入り混じった表情が並ぶ。
レオンは一拍置いてから告げた。
「本日より、街全域を対象とした“特別依頼”を発行する。
内容は――流行り病で体力を落としている者たちの聞き込み調査だ」
ざわっ。
「街全域……?」
「そんな大規模な依頼、聞いたことないぞ……」
準冒険者たちの間に動揺が走る。
だがレオンは動じず、さらに続けた。
「準冒険者だけでは人手が足りない。
一般冒険者にも協力を求める。
参加希望者は前へ!」
その言葉に、ギルド全体がざわめき始める。
「ギルドマスターが直々に……?」
「何が起きてるんだ……?」
「街全域って……本氣かよ……」
普段は依頼の報酬にしか興味のない冒険者たちでさえ、
レオンの真剣な表情に、ただならぬ事態を悟っていた。
ギルドホールの空氣は、
もはや“日常”ではなかった。
レオンの一声で、
街全体を巻き込む大規模支援クエストが、
いま動き出そうとしていた。
レオンは革袋を高く掲げ、
ギルドホール全体に響き渡る声で宣言した。
「今回の“街全域支援クエスト”の報酬総額は――
白金貨三枚だ!」
その瞬間、ギルドホールが爆ぜたように沸き立つ。
「白金貨三枚!?」
「街の聞き込みでそんな額……前代未聞だろ!」
「誰が依頼主なんだよ……?」
驚愕と興奮が渦巻き、
冒険者たちのざわめきが天井を揺らすほどに広がる。
レオンはその熱氣を一刀両断するように、
静かだが重い声で告げた。
「依頼主は――Sランク冒険者、アリシア・フェルンライトだ」
その名が響いた瞬間、
ギルドホールの空氣が一変した。
「アリシア!?」
「本物のSランクが……街を救うために……?」
「なんでこの街に……?」
ざわめきは驚愕へ、
驚愕は期待へと変わっていく。
レオンは続ける。
「今回の依頼は、準冒険者を中心に行う。
参加した準冒険者には――
一人あたり銀貨二十枚を支給する」
準冒険者たちが一斉に息を呑む。
「銀貨二十!? 聞き込みだけで……?」
「普段の依頼の倍以上じゃないか……!」
若い冒険者たちの目が一氣に輝き始める。
レオンはさらに声を張った。
「さらに、人手が足りない場合は、
一般冒険者のランクF~Eにも協力を求める。
一般冒険者の協力者には――
一人あたり銀貨五十枚を支給する」
今度は一般冒険者たちがざわめきに包まれる。
「銀貨五十!? 討伐依頼並みじゃねぇか……!」
「いや、討伐より高いぞ……!」
「アリシアが本氣で街を救いに来たってことか……」
噂は瞬く間に広がり、
ギルドホール全体が熱氣に包まれていく。
「アリシアが街を救うために来たらしいぞ!」
「準冒険者総動員の大規模依頼だってよ!」
「白金貨三枚……本氣の支援だな……!」
その熱狂は、
まるで街全体が動き出す前触れのようだった。
ギルドホールの熱氣が少し落ち着いた頃、
レオンはアリシアとエリスの方へ向き直った。
その表情は、先ほどまでのギルドマスターとしての厳しさとは違い、
どこか思案を含んだ柔らかさがあった。
「……だが、情報が集まるまで時間がかかる。
アリシアをただ待たせるのは忍びない」
エリスは驚いたように目を瞬かせる。
まさかギルドマスターがそこまで氣を配るとは思っていなかった。
レオンは続けた。
「まず最初に向かうべき場所は――
エリスの姪御さんの家だ」
「……ギルドマスター……!」
エリスの声が震える。
その瞳には、驚きと感謝が入り混じっていた。
レオンは静かに頷く。
「姪御さんは流行り病で体力を落としていると聞いている。
最優先で回復させるべきだ」
アリシアは一切の迷いなく頷いた。
その動きは、まるで“当然のこと”のように自然だった。
「もちろんです。すぐに向かいましょう」
エリスは胸に手を当て、深く頭を下げる。
「……ありがとうございます……!」
レオンはエリスに向き直り、はっきりと言った。
「エリス、今日の受付業務は免除する。
アリシアを案内してやってくれ」
「はい……!」
エリスの返事は力強かった。
その声には、姪を救えるかもしれないという希望が宿っている。
レオンは続ける。
「姪御さんの家までの道のりは複雑だろう。
アリシア一人では迷う可能性がある」
アリシアは少しだけ照れたように微笑んだ。
普段の凛とした雰囲氣とは違う、
年相応の少女らしい柔らかさが一瞬だけ覗く。
「案内していただけると助かります」
エリスは胸に手を当て、深く頷いた。
「もちろんです。すぐに準備します」
レオンは二人の背中を見送りながら、
静かに、しかし強い願いを込めて呟いた。
「……まずは一人でも多く救うことだ。
頼んだぞ、アリシア。エリス」
エリスは急いで受付嬢の制服から外出用の軽装へと着替えた。
鏡に映る自分の姿を確認しながら、胸の鼓動が早くなるのを感じる。
(……アリシア様と二人で外に出るなんて……
落ち着かなきゃ……)
装備を整え、深呼吸をひとつ。
ギルドの入口へ向かうと――
アリシアがそこに立っていた。
凛とした佇まい。
しかし、その指先はわずかに落ち着きなく動き、
どこかそわそわしているようにも見える。
(……アリシア様……本当に綺麗な方……
姪が憧れるのも分かる……)
エリスが近づくと、アリシアはふっと柔らかく微笑んだ。
「準備、できましたか?」
「はい……お待たせしてしまい、申し訳ありません」
「いえ。案内していただけるだけで助かります」
アリシアの声は丁寧で、
けれどどこか嬉しそうに弾んでいた。
ギルドを出ると、朝の街の喧騒が広がった。
商人の呼び声、荷馬車の軋む音、パン屋の香ばしい匂い――
いつもの街の風景が二人を包む。
エリスが歩き出す。
落ち着いた足取りは、受付嬢として鍛えられた所作そのものだった。
そのすぐ後ろを、アリシアが半歩遅れてついてくる。
Sランク冒険者でありながら、どこか少女らしいあどけなさが残っている。
だが――
アリシアはエリスの横顔をちらちらと見ていた。
(……?)
エリスは歩きながら、そっと問いかける。
「……あの、歩きにくいですか?」
「い、いえっ! そんなことは……!」
アリシアは慌てて距離を詰め、
エリスの横に並ぶ。
その動きはどこか不器用で、
普段の堂々としたSランクの姿とはまるで違う。
(エリスさん……落ち着いていて、綺麗で……
大人の女性って、こういう雰囲氣なんだ……
カナメさんが“こういう人”を好きでも……
おかしくない……)
自分の思考に氣づいた瞬間、
アリシアの顔がぱっと赤く染まった。
エリスは氣づかず、前を向いたまま歩いている。
その背中は、アリシアには少し眩しいほど大人びて見えた。
だがアリシアは、
胸の奥がくすぐったくなるような感覚に戸惑いながらも、
それでもエリスの隣を離れようとはしなかった。
石畳の道を歩きながら、エリスはそっと問いかけた。
「アリシア様は……この街に来られるのは初めてですか?」
「はい。こうして歩くのは初めてです」
アリシアは周囲を見回しながら答える。
若い冒険者らしい好奇心が、その横顔に柔らかく滲んでいた。
少し間を置いて、アリシアはためらいがちに続けた。
「……あの、エリスさんは……
いつもこんなふうに落ち着いていらっしゃるんですか?」
「え……? いえ、そんなことは……」
エリスは思わず視線をそらす。
二十代半ばの大人としての自覚はあるが、
こうして褒められるとどうしても照れてしまう。
アリシアは首を横に振り、真っ直ぐに言った。
「でも……とても大人で……素敵です。
私……そういう女性に憧れていて……」
その言葉に、エリスは一瞬だけ言葉を失った。
(……アリシア様……
そんなふうに言われると……胸が……)
胸の奥がじんわりと熱くなる。
年下の少女から向けられる純粋な憧れは、
思いのほか強く心に響いた。
アリシアは自分の言葉に氣づいたのか、
慌てて両手を振る。
「ち、違うんです! その……
カナメさんの隣に立てるような……
大人の女性になりたいというか……!」
言ってから自分で真っ赤になり、
視線を泳がせる。
エリスは胸が少し痛んだが、
それでも優しく微笑んだ。
「……アリシア様なら、きっとなれますよ。
とても……素敵な方ですから」
アリシアは目を丸くし、
その後、花が咲くように嬉しそうに微笑んだ。
「……ありがとうございます」
住宅街に入ると、
エリスの歩幅がほんの少しだけ小さくなった。
「……エリスさん?」
アリシアが氣づいて声をかける。
「……すみません。
姪のことを思うと……どうしても……」
エリスの声は震えていた。
普段は落ち着いた彼女でも、
家族のこととなれば話は別だ。
アリシアはそっとエリスの腕に触れた。
その手は温かく、驚くほどしっかりしている。
「大丈夫です。
私が必ず……助けます」
その言葉は、十七歳の少女のものとは思えないほど強く、優しかった。
エリスは胸が熱くなり、
こみ上げるものを抑えながら頷いた。
「……はい……ありがとうございます」
住宅街の奥、少し古びた木造の家が見えてきた。
エリスが足を止めると、アリシアも自然と歩みを止めた。
その瞬間――
アリシアの表情がすっと引き締まる。
さっきまで見せていた少女らしい柔らかさは影を潜め、
代わりに、Sランク冒険者としての静かな氣迫が宿った。
だがその奥には、
人を救おうとする“優しさ”が確かに息づいている。
アリシアは家を見つめ、
ゆっくりとエリスの方へ向き直った。
「行きましょう。
エリスさんの大切な人を……助けに」
その声は落ち着いていて、
けれどどこか温かく、心を支えてくれるようだった。
エリスは胸に手を当て、深く頷く。
「……はい」
二人は視線を交わし、
覚悟を共有するように息を整える。
そして――
静かに、しかし確かな意志を込めて扉を叩いた。
小さな木造の家が、住宅街の奥にひっそりと佇んでいた。
窓はすべて閉め切られ、外からでも“静かな緊張感”が伝わってくる。
家の前に立った瞬間、エリスの呼吸がわずかに乱れた。
エリスは胸に手を当て、深く息を吸い込む。
そして、震えを抑えるように扉をノックした。
「姉さん、私です。エリスです」
中から慌ただしい足音が近づき、
ガチャリと扉が開く。
そこに立っていたのは、疲れ切った表情の女性――エリスの姉だった。
目の下には濃いクマができ、髪も乱れている。
看病の大変さが一目で分かった。
「エリス……! ごめんね、今ちょっと……」
「姪の様子は……?」
エリスの問いに、姉は唇を噛み、首を振る。
「熱が下がらなくて……さっきからずっと苦しそうで……」
その声は震え、今にも泣き出しそうだった。
アリシアは静かに一歩前へ出る。
その動きは落ち着いていて、しかし優しさが滲んでいた。
「お邪魔します。
エリスさんから伺いました。
……私に、診させていただけますか?」
姉は驚いたように目を見開き、
次の瞬間、縋るようにアリシアの手を握った。
「……お願いします……!
どうか……あの子を……!」
アリシアはその手を包み込むように握り返し、
優しく、しかし揺るぎない声で答えた。
「大丈夫です。
必ず……楽にしてあげます」
その言葉は、
疲れ切った家の空氣に、
小さな光が差し込んだようだった。
家の奥へ進むと、
姉がそっと扉を開けてくれた。
小さな子ども部屋。
窓のカーテンは閉じられ、薄暗い空氣が漂っている。
ベッドの上では、エリスの姪――まだ十歳ほどの少女が、
汗で髪を額に張りつかせながら苦しそうに寝ていた。
顔は真っ赤に火照り、
呼吸は浅く、胸が上下するたびにひゅう、と弱い音が漏れる。
時折、喉の奥から絞り出すように咳き込む。
そのたびに小さな身体が震え、
見ているだけで胸が締めつけられるようだった。
エリスは思わず胸元を押さえ、
震える声で呟いた。
「……こんなに……」
アリシアは何も言わず、
ベッドの横に膝をついた。
その動きは静かで、
まるで少女を驚かせないように配慮しているかのようだった。
そっと姪の額に手を当てる。
「……高い熱。
体力もかなり落ちていますね……」
アリシアの声は落ち着いていたが、
その瞳には深い心配と優しさが宿っていた。
姉は堪えきれず、涙をこぼしながら言う。
「薬も飲ませてるのに……全然……
さっきからずっと苦しそうで……」
アリシアは姉の方へ向き直り、
安心させるように柔らかく微笑んだ。
「大丈夫です。
今から……少し楽にしてあげますね」
その言葉は、
暗い部屋にそっと灯された光のようだった。
アリシアは深く息を吸い込み、
まるで心の奥まで静かに整えるように目を閉じた。
そして、ゆっくりと両手を姪の胸元の上へとかざす。
「――《ヒール・ブレス》」
その瞬間、
アリシアの手のひらから淡い光がふわりと溢れ出した。
光は柔らかく、温かく、
まるで春の陽だまりのように優しく姪の身体を包み込む。
閉め切られた部屋の空氣がふっと軽くなり、
淀んでいた空氣が静かに流れ始めたようだった。
苦しそうだった姪の呼吸が、
少しずつ、少しずつ落ち着いていく。
「……っ……!」
エリスは思わず口元を押さえ、
込み上げるものを堪える。
「……すごい……」
姉は涙をこぼしながら、
信じられないものを見るように呟いた。
アリシアは集中を切らさぬまま、
優しい声で姪に語りかける。
「よく頑張りましたね……
もう大丈夫……怖くないですよ……」
その声は魔法の光と同じくらい温かく、
子どもの心に寄り添うようだった。
光がさらに柔らかく強まり、
姪の強張っていた表情がゆっくりとほどけていく。
赤く火照っていた頬の色が少しずつ落ち着き、
苦しげだった眉間の皺が消えていく。
まるで――
痛みも不安も、光に溶けていくかのようだった。
やがて、アリシアの手から溢れていた光がゆっくりと収まっていった。
部屋に再び静けさが戻る。
姪の呼吸はすっかり安定し、
苦しげに寄っていた眉間の皺も、いつの間にか消えている。
アリシアはそっと姪の頭を撫でた。
その手つきは驚くほど優しく、まるで壊れ物に触れるようだった。
「……もう大丈夫ですよ。
あなた、とても頑張りました」
その声に応えるように――
姪のまぶたが、ゆっくりと震えながら開いた。
「……ん……?」
「……っ! 起きた……!」
エリスが思わず声を上げ、
姉も駆け寄る。
「あなた……! 大丈夫……?」
姪はぼんやりと二人を見たあと、
アリシアの姿に氣づき、目を大きく見開いた。
「……アリシア……さま……?」
アリシアは微笑み、そっと頷く。
「はい。
あなたに会いに来ました」
その一言で、姪の瞳に涙が溜まっていく。
「……ほんもの……?
ほんものの……アリシアさま……?」
「本物ですよ。
あなた、とても頑張りましたね」
姪は嬉しそうに笑ったが、
すぐに小さく咳き込んだ。
アリシアは慌てず、背中を優しくさする。
「病氣そのものは、まだ治っていません。
でも……体力は戻りました。
これで、薬が効きやすくなります」
その説明に、姉は堪えきれず涙を流し、
深く頭を下げた。
「……ありがとうございます……!
本当に……本当に……!」
エリスも涙をこぼしながら、アリシアに頭を下げる。
「アリシア様……ありがとうございます……」
アリシアは二人に向かって、
静かで温かい微笑みを浮かべた。
「助けられる命があるなら……助けたい。
それが……私の大切な人から教わったことです」
その言葉に、エリスは胸を押さえた。
アリシアの横顔は、光を受けてどこか神々しく見える。
(……カナメ様……
あなたの教えは……こんなにも……)
エリスの胸に、熱いものが込み上げてくるのを止められなかった。
大規模支援クエストが発令されると、
ギルドは一氣に活氣づいた。
準冒険者たちは地図を片手に街中を駆け回り、
一般冒険者たちも加わって家々を訪問する。
最初は戸惑いがあったが、
「アリシアが来てくれるらしい」
という噂が広がるにつれ、
住民たちも積極的に情報を提供し始めた。
「この家の老人が倒れている」
「隣の子が熱で苦しんでいる」
「裏通りの家に、寝込んでいる人がいる」
情報は雪崩のようにギルドへ集まり、
そのたびにアリシアは駆け出した。
細い路地、古い家、薄暗い部屋。
どこへ行っても、アリシアは迷わず膝をつき、
静かに手をかざして光を灯す。
淡い光が部屋を満たし、
苦しげな呼吸が落ち着き、
こわばった表情がゆるんでいく。
老人は涙を流し、
母親は子を抱きしめて震え、
子供たちはアリシアの手を握って離さなかった。
アリシアはひとりひとりに微笑み、
「大丈夫」と優しく頷きながら、
次の家へ、また次の家へと向かった。
やがて、魔力が尽きかける瞬間が訪れる。
足がふらつき、呼吸が乱れ、
光が弱まる。
だが、アリシアは懐から小瓶を取り出し、
迷いなく飲み干した。
澄んだ液体が喉を通り、
身体の奥から力が湧き上がる。
カナメが託した最高品質の魔力回復ポーション。
その力は、アリシアの魔力を瞬時に満たした。
再び光が灯り、
アリシアは立ち上がる。
「まだ……助けられる人がいる」
その背中は、
17歳の少女とは思えないほど強く、
しかしどこまでも優しかった。
夕暮れが街を染める頃、
アリシアはまだ走り続けていた。
冒険者たちが道を開け、
住民たちが感謝の声を送る。
その光景を――
街の外れの屋根の上から、
ひとりの青年が静かに見つめていた。
カナメ・アークライト。
風に揺れる外套を押さえながら、
遠くで光を放つアリシアの姿を見つめる。
彼の表情は穏やかで、
どこか誇らしげだった。
「……もう大丈夫だな」
アリシアの光が街を照らし、
冒険者たちが支え、
住民たちが協力し合う。
この街は――
もう、彼の助けを必要としない。
カナメは静かに踵を返し、
夕暮れの中へと歩き出す。
誰にも氣づかれず、
誰にも知られず、
ただ静かに。
その背中を照らすように、
遠くでアリシアの光がまたひとつ灯った。
街に、希望の光が満ちていく。
そして――
カナメの姿は、夕闇に溶けて消えた。




