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気のいい仲間たち

葛藤を抱えながら、先行する俺の後ろで、聖騎士ギルバートが、少し息が上がってきたケルヴィン殿下に声をかけた。


「ケルヴィン殿下、ボクの背に乗っていただいてもいいですよ。朝から丹念に刷毛ですいてきたので、美しい毛艶になってますから」


ギルバートが、自分の背を叩いてケルヴィン殿下を誘う。


そうか、半人半馬だから、騎乗もできるんだな。


でも、ケルヴィン殿下は、首を横に振る。


「ふぅ。いや、いい。旅に出る以上、お前たちと同じように歩く。ありがとう」


こんな人もいるのか。しかも王族なのに。

ネプォンなら、喜んで騎乗したはずだ。礼なんて滅多にしない奴だったし。


それにこの人たちは、荷物も俺一人に背負わせたりしない。


ネプォンの時と同じようなメンバーなのに、こんなにも違う。


「つ!」


ふと、頬が切れて血が流れていくのがわかる。


考え事をしていて、気が逸れていたな。

ピアノ線が張ってある。


危ない、危ない。

これを切ったら、仕掛けが発動するところだった。


「アーチロビン、怪我したの?」


フィオが気づいて、俺のそばにやってくる。


「大したことない。気にするな」


俺はサッと背嚢からガーゼを取り出して、傷口にあてる。


「癒しの術なら使えます」


フィオは、心配そうに俺の顔に手を伸ばしてきた。


な、なんだか照れ臭い。それに、こんな浅い傷で、霊力を消費して欲しくない。


「フィオ、よせ、こんなの傷のうちに入らない」


「傷は傷です!!」


「静かに! 声が大きい」


「ご、ごめんなさい。でも、痛そうで。力になりたいの……」


神官だから、怪我した相手を助けようとするのかもな。

こんなの、大したことないのに。


しゅんとなったフィオを見て、魔導士ティトがおかしそうに俺を見る。


「ふぉっふぉ。ここまで言うんじゃから、治癒魔法をかけさせてやれ。華のような笑顔が見られるぞ?」


な、なんだよ、いきなり。

俺が戸惑っていると、聖騎士ギルバートが、鏡を見ながら髪型を整えだした。


「ボクの身だしなみが整うまで、少し時間がかかるから、どうぞ?」


いや、いやいや。

顔は皮膚が薄いし、毛細血管が沢山あるから派手に出血しているように見えるだけ。


心配いらないのに。


「アーチロビン、命令だ。治療を受けよ」


ケルヴィン殿下まで、腕を組んで苦笑いしながら小声で言った。


し、仕方ない。

俺はフィオの方を向いて、あてていたガーゼをはずした。


フィオは、嬉しそうに目の前で『祈りの書』を開いて、詠唱し始める。


一番弱い魔法でいいからな、フィオ。


そう思っていると、


「癒しの泉を司る聖なる天使、ユキア。女神ルパティ・テラの名の下に、泉の源泉に御手を触れ完治の奇跡を起こしたまえ。リザレクション!」」


と、唱えた。

ん! それは完全回復の魔法?


顔の傷程度に使う力じゃ───!


焦る俺の前で、『祈りの書』の文字が輝き、光の帯が俺を包む。


あ、と言う間に、俺の体力が全回復して、傷口もなくなった。


「はぁ、はぁ……」


対して、フィオは疲労困憊でその場に座り込む。


そりゃそうだ。リザレクションは霊力の消費も大きい。


見習い神官の霊力は、すぐに尽きてしまうだろう。


「ピュアの魔法を使う……つもりが……間違えちゃった」


フィオは、恥ずかしそうに俯く。

相変わらず慌てん坊だな。


せっかくの回復技を、ここで使い尽くすなんて。


ケルヴィン殿下に何かあった時に、これがないとまずいだろうに。


周りも少し驚いている。

なんともいえない空気だ。

ここは、フォローしないと。


フィオが、顔を上げられずにいるので、俺は咳払いして、彼女に声をかけた。


「ごほん! ありがとうな、フィオ」


「アーチロビン?」


「ここから先は、誰にも怪我はさせないから、心配するな。霊力の回復薬は、この先の宝箱にあるだろう。それを君が使えばいい」


俺はニッコリ笑って、彼女に手を伸ばした。


「立てるか?」


「え、ええ」


「おかげで、全力が尽くせそうだ。力が湧いてくるよ」


「アーチロビン……」


フィオが恥ずかしそうに俺の手を掴むので、彼女を立たせる。

柔らかくて、小さな手だな。


少しドキドキするので、彼女が立つのを見届ると、すぐに手を離した。


フィオは、何か言いたそうだ。

俺にも、周りにも。


失敗した後、割り切るまでは心がムズムズするもんな。


「俺が関わった神官はさ、こんな魔法をかけてくれたことはないんだ」


と、俺はフィオに言いながら、シャーリーを思い出していた。


もちろん、他の神官とも組んだけど、リザレクションをかけてもらったことはない。


瀕死になった時の、起死回生の回復技だから。


シャーリーなら尚更。

俺が瀕死になっても、彼女なら見捨てただろう。


「だから、嬉しいよ、フィオ。いい経験をさせてくれて、ありがとう」


俺がそう言うと、フィオは微笑んでくれた。

素直な笑顔だな、可愛い。


思わず胸が温かくなるよ。

さ、行くぞ!


改めて前を向き、先に進む。


どうせ、俺はこのチェタ鉱山の討伐を終えれば、帰る身だ。


フィオも、この失敗を次に活かしてくれるだろ。


「アーチロビン、私、あなたのためなら……何度でも」


フィオが小さい声で呟くのが、聞こえてくる。

ん? どういう意味だろう。


「ほほほ、ええのぅ、わかる、わかるぞ、フィオ。ワシも覚えがある。いくらでも力が湧いてくるもんなぁ」


魔導士ティトが、けけけ! と笑いながら後ろをついてくる。


な、な、なんなんだ?

よく、わからないが、仕事をしよう。


俺はスカウトに戻り、罠を慎重に回避しながらみんなを案内していく。


ネプォンの時とは違って、みんないい奴ばかり。


この人たちとなら───


いや、よせ、俺は決めてるんだ。


そう思っていると、前方に異様な気配を感じてきた。


「ケルヴィン殿下、餌場が近いようです」


聖騎士ギルバートが、ケルヴィン殿下を背後に隠す。そうだ……戦闘が近い。


「アーチロビン、何が見える?」


魔導士ティトが、後ろから俺に声をかけた。俺は、次第に明るくなる視界に目を細める。


カラーン。


そこに、生き物の骨が放り投げられてきた。

よく見ると、足元に沢山落ちている。


奴がいる。食事の最中だ。


身を低くして覗き込むと、大きな穴が見えてきて、下の方に巨大な後ろ姿が見える。


「た、助けて!」


ヘカントガーゴイルの手に掴まれた兵士が、身を捩って叫んでいた。


兵士がここに!?

甲冑を着ていて、顔は見えないけど。


俺が後ろを振り向くと、ケルヴィン殿下も近づいてきて、中を覗き込む。


「うちの兵士じゃないか……!」


彼も驚いていた。


「助けますか?」


俺が聞くと、ケルヴィン殿下は、力強く頷いた。俺はみんなを見回すと、素早く穴の中に飛び降りる。


「アーチロビン! 一人で行かないで!!」


フィオが叫んだので、ヘカントガーゴイルが振り向いた。


穴の上にいる、フィオたちが見つかってしまう。


まずい!!


「こっちを見ろ!!」


俺はヘカントガーゴイルに矢を打ち込んで、俺の方へと向き合わせた。


「グルルル……ニンゲンか。うまソうだ」


ヘカントガーゴイルは、俺を睨みつけて舌舐めずりをする。


そうだ、俺を見るんだ。

仕込みはここからだ!!



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