敵の殲滅と仲間との別れ
ヘカントガーゴイルは、巨大な羽を広げて、俺を見下ろしてきた。
「エサがモウひとり。グヘヘへ」
不気味な笑い声と、強い威圧感。
奴の手に握られた兵士は、苦しそうに足掻いている。
「離せ」
俺は装備していた弓を構えて、引き絞った。
ヘカントガーゴイルは、そっぽを向く。
「フン、馬鹿メ。俺様ガ弓矢ゴトキでヤラれルト思うノカ?」
「思うさ」
「アァ? 生意気ナ小僧め」
「お前なんか敵じゃない」
「言っタナ! 愚カ者めガ!!」
ヘカントガーゴイルの敵意が、充満する。
それでいい、そうだ……来い!!
俺は、矢を地面に向かって放つ。
相手の力の流れに干渉する力場が、俺が矢を打ち込んだところから広がり、相手を包んだ。
俺にしか見えない、力の流れ。
俺以外には、地面がカッと光ったようにしか見えないはずだ。
その光に、ヘカントガーゴイルが一瞬怯む。
「貴様、何ヲしタァ!?」
奴は鋭い爪を構えて、振り下ろそうとした。
「アーチロビン!!」
それを見たフィオたちが叫ぶ。大丈夫、奴は俺に攻撃てきない。
ヘカントガーゴイルは、ピクリとも動かない自分の腕に驚いていた。
今度は口を大きく開けて、炎の塊を吐き出そうとする。
でも、それすら発動できず、虚しく煙が上がるばかり。
二回目の攻撃、終わり。
三回目が、こいつ自身に跳ね返る。
「キ、キ、貴様ァ! 怪しゲナ技を使いおッテ!!」
ヘカントガーゴイルは、羽を広げて飛び上がった。
あ!
穴の上に隠れていたフィオたちが、奴に見えてしまう!!
魔導士ティトが、すぐに魔法の詠唱を始めた。
「古の契約に従い、我が槍となって敵を撃ち払え! メテフレオ!!」
赤く燃えるような光の光線が、幾つもヘカントガーゴイルに突き刺さる。
「ぐふ! こシャクな老婆めが!!」
ヘカントガーゴイルの敵意が、魔導士ティトに向かった。
俺は素早く、ヘカントガーゴイルに向かって矢を放つ。
矢は奴の顔を掠めて、そのまま握っていた兵士を穴の中に取り落とした。
俺は落ちてきた兵士を受け止めると、素早く二発目の矢を奴に放つ。
「チョコまカと、ウザッたイ小僧め!!」
ヘカントガーゴイルが、羽を光らせて両腕を前で交差させると、大技を放つ構えを見せる。
「ダークネスホーリーがくるぞ!! 全体技だ!!」
ギルバートが叫んで、聖騎士の盾を翳してみんなを後ろに庇った。
即死効果もつく脅威の技、ダークネスホーリー。
けれど今は、技が大きければ大きいほど、それが奴のダメージになる。
「コレで最後ダ! 小僧!!」
ヘカントガーゴイルのセリフに、俺は構えた弓矢を降ろして応えた。
「そのセリフはそのまま返す」
「くらウがいい!! ダークネスホーリー!!……何!?」
ヘカントガーゴイルの全身がダークネスホーリーによって、包まれていく。
絶対反転によって、ダメージは全て本人に跳ね返るのだ。
「ウガがガガ……!!」
奴はそのまま落ちていった。
即死効果まで発動してしまったか。
穴の底に落ちてきたヘカントガーゴイルは、灰のように崩れ去っていく。
「おおっ……」
穴の上から、ケルヴィン殿下たちが驚いた表情で見下ろしていた。
俺は縄を降ろしてもらって、助けた兵士と一緒に上がる。
「すごいな! ヘカントガーゴイルは、巨体の割に行動スピードが速くて、厄介な技を使うんだが。お陰で、髪型を崩さずにすんだよ」
聖騎士ギルバートが、真っ先に駆けつけてきて、俺の手を握ってきた。
髪型、って。
気にするところはそこ?
「見事じゃ、小僧。いや、アーチロビン」
魔導士ティトも、満足そうに笑う。
その後ろから、フィオが姿を見せた。
「怪我がなくてよかった……」
「ありがとう、フィオ」
「アーチロビン、本当にすごい技ね。魔力とか消費してない? ヘカントガーゴイルが倒れて、宝箱が現れたの。中に回復アイテムが入ってたから、使って」
彼女が差し出そうとするので、俺は首を横に振ってそれを彼女に戻す。
「いい、俺は消費するものないから。回復薬はフィオが使えよ。霊力を戻さないと」
「え」
「ほら、さっきリザレクションを使って、消耗したままだろ?」
「あ、そ、そうだけど」
「いいから。な?」
フィオは申し訳なさそうに、アイテムを背嚢に戻した。
「アーチロビン、ありがとう。見事な勝利だ」
そこへ、ケルヴィン殿下もやってくる。
俺は深くお辞儀をして、応えた。
この人は律儀な人だ。下っ端にも、ちゃんと礼を取れる人は慕いたくなる。
「ありがとうございます、ケルヴィン殿下」
俺が言うと、ケルヴィン殿下は、名残惜しそうに俺の手に金貨の袋を握らせる。
「報酬だ。ここまでの約束だったからな」
約束はきちんと守ってくれる。この人は、本当に誠実な人なんだな。ネプォンなら、誤魔化してタダ働きさせていたところだ。
俺は笑顔で受け取った。
「はい」
「正直、お前の力はこの先でも必要だ。出来れば考え直してほしいがな」
「……すみません」
「いや、いい。すまん、忘れてくれ。我が国の兵士をも助けてくれたこと、嬉しく思う」
彼はそういうと、兵士の方に目を向けた。
兵士は気絶したままだ。
ちょうどいいかもしれない。
「俺が連れて帰りますよ。帰り道だから」
俺はそう言って、兵士に近寄ろうとした、その時だ。
「アーチロビン! 下がって!!」
フィオが叫んで、俺たちを後ろに引っ張る。
な、なんだ!?
振り向こうとして、灰と化したヘカントガーゴイルの骸から、異様な光が飛び出してくるのが見えた。
!?
倒したはずなのに!!
光の中に目玉が一つ見える。
こちらを一瞥すると、ものすごい勢いで、外に飛び出していった。
「今の魂から、魔王ダーデュラの気配を感じました。とても小さくて、弱いけれど、間違いありません!」
フィオが光が飛び去った方を見つめて、俺たちに訴える。
「魂の欠片ということかえ?」
ティトが、フィオのそばに来て、同じ方向を睨んだ。
彼女は、顎に指を置いて、多分……と、自信なさそうに呟く。
「ヴォルディバ先輩から聞いた話ですけど、魔王の肉体は確かに消滅したらしいですよ。それなのに魂は欠片になって、他の魔物に宿っていたということ?」
聖騎士ギルバートは、訳がわからないという表情になる。
もし、魔王の魂が宿った魔物を見つけ出して倒したとしても、こんなふうに逃げられていたらキリがない。
俺はケルヴィン殿下の方を見た。
彼はうーんと考え込む。
「はっきりしたことは、不完全な状態とはいえ、魔王がまだこの世にいるということだ。各地の魔族が勢いを落とさない理由はこれだったんだな。しかし、これではキリがない」
やっぱり。俺と同じ結論だ。
魔導士ティトも、腕を組んで考え込んでいる。
「これは、魔王が何かの秘術を使ったと見るべきじゃの。魔王討伐の時にいた、イルハートが気づかなかったということは、古代の秘術やもしれぬ」
古代の……彼女でも知らない秘術なんてあるのか。
「と、なると、次の目的地は『忘れられた魔都ヘイムニルブ』だ」
ケルヴィン殿下が、腰に手を当ててみんなを見回す。
「ヘイムニルブ?」
俺が聞き返すと、彼は頷いた。
「数千年前、古代の秘術が生まれた場所とも言われている場所だ。廃都となっているが、秘術を研究する者も僅かに残っていると聞く」
「そこへ向かわれるんですね」
「あぁ、時間が惜しい。みんな、行こう。アーチロビン、元気でな」
ケルヴィン殿下たちは、各々俺に別れを告げて、炭鉱の奥へと消えて行った。
ここから先は、出口まで一本道。もう大丈夫だろう。
「アーチロビン……」
フィオが悲しそうに俺を見上げた。
ダメなんだ、フィオ。
俺はいけない。
彼女は深くため息をついて、ケルヴィン殿下たちを追って走り出した。
途中でフィオが振り向いて、お辞儀をする。
そして、もう一度走り出そうとして、足が絡まってゴロン! とこけていた。
「落ち着いてやるんだ! フィオ!!」
俺の声に、闇の向こうから返事だけが聞こえてきた。
これで……いいんだよな?
本当に。
読んでくださってありがとうございました。
お気に召したら、ブックマーク登録してくださるとうれしいです♫ とても励みになります。




