※ネプォン編───やり直しで、復讐だ!
俺は英雄だった。
今も英雄だ。
生まれながら、天から選ばれた存在として、周りは俺を中心に扱った。
俺が行動すれば、結果は常に俺に有利に働いていた。
女という女も、声をかければすぐに落ちて、取っ替え引っ替えはいつものこと。
英雄、色を好むというからな。
そう……世界は、俺を中心に回っていた。
それなのに……魔王を倒す神器を間違えたばかりに、おかしな方へと事態は転がり、今に至る。
全てはあいつの……あいつのせいだ。
俺から名声を奪い、英雄の座に着いたあの野郎。
「馬鹿弓使いのせいだぁぁ!!」
俺は叫び声をあげて、床を踏みつけた。
こうも、毎日が面白くねぇ。
しかも、魔王の思念が取り憑いているらしく、時々意識がない。
シャーリーによると、固まって動かなくなるだけで特に害はないらしいんだが。
このせいで、ピンチになることがある。
迷惑でたまらねぇ。
くそ! 腹の虫がおさまらねぇよ!!
俺の頭にあるのは、復讐だ。
よくあるじゃないか。
時間を遡って、やり直す主人公の話。
もう一度やり直せれば、俺は勝てる。
そのためにはどうしたらいい?
時間を遡るにしても、どこから?
最初からなんて、面倒くさい。
俺は、アジトの中を右往左往しながら、シャーリーに話しかけた。
「どうやったら、馬鹿弓使いを効率よく葬れるか……」
「真正面からは無理よ。あいつの力は知ってるでしょ」
「大帝神龍王の力に加え、神弓という神器まで持ってやがるからな」
「でも、やられっぱなしだから、やり返したいんでしょ? ネプォン」
「そうだ。元を正せば、今の奴の力は俺のおかげなんだ」
「確かにね」
「なのに、礼もなしだぜ? 面白くねぇ。英雄の座からも、蹴り落としてやりたい」
そして、あのフィオを奪ってやりたい……とはこの女の前では言えないな。
本音がバレると支障が出る。
「こういう時、イルハートがいればなぁ」
ボソッと呟く。
彼女の悪知恵は役に立つのだ。
イルハートの名前に、シャーリーが手を止める。
「ヨリを戻す気はないよね? ネプォン」
「俺はないけど、彼女の方は未練があるかも」
「魔王討伐以来、一度も姿を見せてないじゃない。未練はないと思う」
「どうかな。そろそろ俺が恋しくて、疼きだしてるかもしれない」
「ネプォン!」
「お前も、あいつも、俺なしにはやっていけねぇよ」
「彼女と、あんたをシェアする気はないわよ」
「妬いてんのか? 毎晩、俺を独占してるのは、お前だぞ?」
「当たり前じゃない! 恋人なんだもの!」
シャーリーは、頬を膨らませて眉を吊り上げる。
こういう時、こいつは面倒だ。
イルハートなら、俺がどれだけ他の女と関係を持とうと、『いってらっしゃい』と送り出してくれたのに。
まあ、こういう時は……。
「今の恋人は、お前だって、シャーリー」
「本当は、イルハートも欲しいんでしょ?」
「疑うなら、お前が俺を判断しろ。このまま別れるか?」
「え……」
「俺は、イルハートが俺を恋しいかもと言っただけで、俺があいつに未練があると言った覚えはない」
「ネプォン……」
シャーリーの目が揺れる。チョロいもんだぜ。
「俺は馬鹿弓使いを引き摺り落とすための、駒を揃えようとしてる。イルハートはその一つだ。わかるな?」
「うん……」
「あいつは、ヘイムニルブに出没すると噂を聞いた。行こう、シャーリー」
「ヘイムニルブ? 忘れられた廃都よね」
「ああ。そこで、若さと美貌の研究に明け暮れてるらしい」
「呆れた」
「お前の方がずっと綺麗なのに、無駄なことしてるよな」
「やだ、ネプォンたらぁ」
ご機嫌になったな。まったく、疲れる女だぜ。
客観的に言えば、イルハートの方が美人だし、この二人よりも元大聖女フィオの方が遥かに美人なんだがな。
今は持ち上げておくか。
「早く行こうぜ」
「ええ、私、幸せよ、ネプォン」
「お前が一番綺麗だ、フィオ」
……。
……!!
しまった!!
ここで、間違えるなんて!!
つい、本音が……。
シャーリーの笑顔が凍りつく。
やばい!!
「……なーんて、今頃馬鹿弓使いが、口説いてるかもしんねーな!! ははは!」
「ここで、なんであのヘタレの話になるのよ」
「ほら、だからぁ、奴も美女を前に油断してるだろ? て、話……」
「ふーん?」
「か、顔が怖いぜ?シャーリー」
「ネプォン」
「ん?」
パチーン!!
シャーリーの平手が、クリーンヒット。
いってぇ!!
顔が真っ赤に腫れて、手下には笑われるわ、翌日イルハートを訪ねた時も、そのままだった。
「面白い顔ねぇ、ネプォン」
彼女は、タインシュタ・フランの元で研究していた。
何でよりによって、このおっさんなんだよ。
「俺をハメた奴に、師事してんのかよ。イルハート」
「目的を果たすのに、必要だからよぉ」
「対価は?」
「うふ、私の得意分野で、ご奉仕してるの」
「……な!!」
俺が憤ると、タインシュタ・フランが咳払いして、イルハートを睨みつけた。
「ゴホン! くだらん。こいつは、アーチロビンが倒した魔物から、私が必要なものを失敬しているだけだ。漁夫の利だな」
「ぼうやは、魔物の秘宝とかに興味なさすぎなのよ。こっそりついていって、労なく手に入れられるわぁ」
なんだ。ご奉仕というから勘違いしたぜ。
研究しか見ないようなこのおっさんに、イルハートの色香は無意味なんだな。
「……てことは、お前、あいつの周りをうろちょろしてんのか?」
「たまーにねぇ」
「居場所を知ってるわけだ」
「おおよそね。なんでぇ?」
「奴を葬りたいからだ」
「無理」
「先に言うな。俺の作戦を聞け、て」
俺はイルハートに、説明してやった。
どうだ?たまには、俺もいいこというだろ?
「時間を遡ってやり直す、ねぇ」
「流行の復讐方法だ。主人公は、首尾よく目的を果たす。いいだろ」
「着眼点はいいとして、ちゃんと記憶の保持も忘れないようにねぇ。でないと、また繰り返すだけよぉ」
「おお、そうだ。イルハート。やっぱりお前がいないとな」
俺はイルハートに近寄って、彼女の肩を抱き寄せる。
シャーリーが、冷たい目で睨むけど今は無視。
「やってくれるな? イルハート」
彼女の魔法で、サッと解決だ。
けれど、彼女は首を横に振る。
「私はしないわぁ」
「はあ!?」
「歴史干渉の可能性がある魔法は、代償が大きいもの」
「じゃ、流行の奴らはどうやってんだよ!?」
「さあ」
「代償とはなんだ!? それさえ払えば、やってくれるのか?」
「やぁん、せんせーいに頼めばぁ?」
「先生だ? まさか、このおっさんか?」
「……」
タインシュタ・フランは沈黙している。秘術研究の第一人者なら、やれるはずだな。
「おい、タインシュタ・フラン。お前ならできるのか?」
「……できるが、対価が……」
「払う!」
「よかろう」
周りがシーンとなる。
おっと、大事なことを忘れてた。
「記憶を消すな」
「なら、対価が大きくなるぞ」
「構わん」
「わかった」
すぐに俺の目の前は、真っ白になっていく。
意識が途切れる間際に、タインシュタ・フランの声が聞こえた。
「次こそは勝てるといいな、グルレスの英雄に」
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