無名の英雄
俺たちは、テレクサンドラと一緒に、太陽の神殿へと向かった。
太陽の神殿の祈祷の間では、ドレスを着替えたテデュッセアが、待っている。
「皆様……魔王の居城が、いよいよ姿を現しました」
彼女はそう言って、舞うように両腕を振った。
すると、目の前に映像が映しだされ、そこには空中を漂う島がある。
あらゆる魔族が、集結しているのが見える。魔王の復活を、喜んでいるようだ。
「どこかの島を、魔力で浮かせたのか?」
ケルヴィン殿下が言うと、テデュッセアは首を横に振った。
「いいえ、よく見てください」
島の映像がクローズアップされる。
これ……は。
魔族たちが、一体ずつ変化して島の一部になっていく。
「全て魔族の体で、できた島!?」
思わず、俺は声を上擦らせてしまった。
魔族の集合体の島なんて!!
「ええ。構造物全てが、生きた魔族の体で構成されています」
「膨大な数だ……」
「はい」
「足を踏み入れただけで、包囲されるようだな」
「ええ。力弱きものは、入っただけで食い殺されるでしょう」
「!!」
みんなが、顔を見合わせていると、魔道士ティトが何かを取り出した。
「連中には、深い眠りについてもらおうかの」
「ティト?」
「最強の酒精の入った酒じゃ。強力な酔いをもたらし、深い眠りへと引き摺り込む」
「これでみんな眠らせる?」
「まぁ、見たところ島を構成している魔族は、階級の低いものばかり。魔王の側近クラス以外を眠らせるには、ちょうどよかろうて」
「よし、それでいこう」
そこへテレクサンドラが、進み出てきた。
「大聖女オベリアから、手紙が届きました。世界各地の宗教を問わず、神官を総動員して地上を守ると」
「神官の総動員」
俺はチラリとフィオを見た。
フィオも、参加しないといけないのでは?
フィオは、俺の表情に気づいて、サッと俺のそばにきた。
「私は一緒に行く。みんなの防御と回復を担うの」
「フィオ、いいのか?」
「いい」
「ああ……でも」
「でも、は、なし。私がみんなと行くことは、オベリア様ならわかってくださる。みんなが負けたら、世界は終わるのに」
「わかった」
俺たちとしては、いてくれた方がいい。
でも俺個人としては、正直連れて行きたくない。危険な目に遭うから。
けれど、目の前にいないと不安になる。そばで守れる方が、安心と言えば安心だ。
ジレンマだな。
「ケルヴィン殿下は、地上に残ってください」
聖騎士ギルバートが、ケルヴィン殿下に向かって言う。
「何、言ってんだ。俺も行くぞ」
「いいえ、殿下は地上の人々の意をまとめていただきたい」
「ギルバート、俺だってな……」
「畏れながら、殿下の剣術では魔族の高レベルの連中に太刀打ちできません」
「……!」
「むしろ、ここから、采配していただきたいのです」
「俺に地上の民と、お前たちと、同時に面倒を見れと言うか」
「はい。殿下の肩には、ガルズンアース国民の命がかかっております。王位継承権第ニ位の御身を、敵地に晒すわけには……」
「……却下」
「殿下!」
「お前たちにだけ行けと命じて、引っ込むことができるか!!」
「しかし……!」
「確かに、俺の剣術は未熟だ。俺を守ることに、お前たちの戦力を割くわけにもいかない」
「……」
「だがな、俺は飛空挺を飛ばせるぞ!!」
「殿下!? まさか……王家用の!?」
「飛空挺ディアモンド。お前のおかげで、思い出したぞ」
「しかし、あれは、緊急時用の飛空挺」
「そうだ。国が滅んだ時、王家を乗せて敵の包囲をかいくぐり、再興を果たすまで王家を守るためのもの」
「それを、今使うとおっしゃるのですか? 今度の相手は魔族ですよ?」
「心配するな。ディアモンドは先代の大魔導士と大聖女様が設計に携わり、魔族の攻撃にも動じないプロテクトが施されている」
「しかし、あれはせめて王妃様のご許可がいります」
「もちろんとる。俺がみんなを連れて行き、戻る時は全員回収する。それくらいさせろ、ギルバート」
「殿下……」
「国には姉上がいる。あの人なら、民を統括できる。俺は、俺ができる方法で世界を守りたい」
ケルヴィン殿下の瞳は揺るがない。でも、今からどれだけ急いでも、往復に時間がかかってしまう。どうしたものか……。
「テデュッセア様」
太陽神殿の巫女が、1人やってきた。
「なんです?」
「ヘイムニルブから来たという、タインシュタ・フラン様が面会を求めておいでです」
「!!」
「通しなさい」
巫女に引率されて、タインシュタ・フランがやってきた。
「どうして……」
俺が聞くと、タインシュタ・フランはニヤリと笑って俺たちを見た。
「面白いことになっているから、居ても立っても居られなくてな」
「面白い……て」
魔王復活に、戦々恐々するでもなく、面白がるなんてな。
彼は、目ざとく俺の神弓に目をつける。
「やはり、神器を手にしたか。ネプォンを超えるとは睨んでいたが、まさか真の英雄になるとは。歴史上三人目の『グルレスの英雄』だな」
「グルレスの英雄?」
「グルレスは、一等星の中で一番暗い星。他の惑星の影に隠れやすく、主役星と言われる一等星ウリシスほど知られていない」
「……」
「だが、実際グルレスはウリシスより大きい。それにはるか昔にはウリシスと衝突して打ち砕き、ウリシスの位置に輝くグルレスもあったそうだ」
「それで比喩というわけですか? 天が選んだ英雄が、他の人間に交代する、という」
「そうだ。私のひいじーさんが、よく話してくれたよ。グルレスの英雄は、英雄の影に隠れて功績の見えない、無名の人々の中から生まれるものだと」
「無名の人々」
「過去、二人のグルレスの英雄も無名だった。無名どころか、その功績は他の英雄の功績として語られている。その英雄は、世界を裏切った者たちだがな」
「え……」
それを聞いた魔導士ティトは、深々と頷いた。
「そうじゃろうな。英雄はどんな素顔を持とうと、愛される存在。後々の人間が、都合よく功績を取り替えて語ることもあるじゃろう」
そういうものか。
『こうあってほしい』という願いが、そうさせるのかもな。
『何をしたのかではなく、誰がやったかが大事』
そんなものかも。
「俺は別にいいよ。ネプォンの功績になっても」
「アーチロビン、そんな!!」
「フィオ、俺は魔王を倒せるなら、後の人がどう言おうと興味ないよ」
「……淋しいじゃない、そんなの」
「過去のグルレスの英雄たちも、きっと同じだったと思う。ほしいのは『勝利』だ。『伝説』じゃない」
「……そうね、あなたはそういう人よね」
フィオは、俺の手をギュッと握る。俺もそっと握り返した。
そんな様子に、タインシュタ・フランは苦笑する。
「まったく、やりにくい相手だな、アーチロビン。名誉までいらんのか」
「いらない」
「……持てるものの余裕なのか。はなから興味がないのか」
「それより、タインシュタ・フラン。イルハートのコピーの件では世話になった。これが約束の報酬だ。異世界の龍王のヒゲ」
「ふ、確かに受け取ったぞ、アーチロビン」
「そして、今回も力を貸して欲しい。あなたの転送の力は、心強いんだ」
「よかろう」
「何度かお願いすることになる。報酬は?」
「記録を」
「?」
「お前たちの戦いと、その結末を記録させろ。それが報酬だ」
「わかった」
「では、まず何をしたらいい?」
「ケルヴィン殿下を、ガルズンアース国の王宮へ送り届けてくれ。それから、飛空挺ディアモンドと共にまたここへ転送してほしい」
「よかろう」
ケルヴィン殿下が進み出て、タインシュタ・フランの隣に来ると、足元に転送の魔法陣が広がった。
二人はスーッと消えていく。
「何か引っかかるな……」
俺は二人が消えた後を、じっと見つめる。
考えすぎならいいが。
「対価が記録とは、胡散臭いのぅ」
「ボクもそう思う」
魔導士ティトと、聖騎士ギルバートも同じみたいだ。
「あの人の面白い、て、よくわからないな」
フィオも、首を傾げる。
「一応、備えておこう、みんな」
みんなと、意見を共有しておく。
杞憂ならいいが……。
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