双子の巫女
俺たちは、目の前にそびえる月の神殿の前に来た。
柱の一本、一本に、月の満ち欠けを体現した彫刻が彫ってある。
いよいよだ。月の巫女の力を借りて、日の本に飛ぶことが出来ればいい。
あれ?もう一台の馬車が停まっている。
……?
なんだ?誰だ?
よく見ると、太陽が彫刻された豪勢な馬車が来ていた。
太陽の……? ここは、月の神殿のはずだ。
先客がいるのか?
俺たちは月の神殿の出入り口に立つ門番に、月の巫女『テレクサンドラ』に、会いたいと伝えて、オベリア様の紹介状を渡した。
門番は中の巫女に紹介状を渡して、俺たちを中に通す。
「こちらへどうぞ。ご案内いたします」
紹介状を確認した一人の巫女が、俺たちを奥へと案内してくれた。
目の前を歩く彼女は、三日月が刺繍されたドレスを纏っている。
やっぱりここは、月の神殿だよな。
やがて、長い階段が見えてきて、俺たちは案内されるまま、足を乗せる。
その瞬間、階段が動いて俺たちは一息に上の階についてしまった。
「え? なんだ?」
俺たちが戸惑っていると、前を歩く巫女が微笑んで教えてくれる。
「いろんな方がいますので、階段が上に上げるべきかどうか判断するのです。あなた方は、合格されました」
階段が判断?
ということは、不合格なら上れないのか。
階段の先には、大きな扉があり、扉の前にいた2人の巫女がゆっくりと扉を開く。
「わぁ」
「おぉ」
中を見て、みんなそれぞれ感嘆の声をあげる。
まるで夜空のような天井に、美しい星が描かれていて、正面にある椅子の後ろには、大きな月が描かれた衝立が置いてあった。
「ようこそ、月の神殿へ」
正面の椅子に座る女性が、俺たちの方を見てニッコリと笑いかけてくる。
「あ!」
「あぁ!!」
俺とフィオが、彼女を見て驚く。
こ、この女性は!!
「テデュッセア!!」
ケルヴィン殿下も気づいて、その名を口にした。やっぱり! カジノでケルヴィン殿下と一緒にいた、あの美女だ!!
彼女は、満月を模したようなティアラをつけていた。
まさか、彼女が月の神殿の巫女なのか?
でも、名前が……。
「いいえ、私はテレクサンドラ。テデュッセアは、こちらにいます」
彼女がそう言って、少し下に設置された椅子に座る女性を指した。
「あら、ケルヴィン様。昨夜は、素敵な一夜をありがとうございました」
彼女は優雅に笑って、俺たちの前に来る。
テレクサンドラにそっくりだ。
テデュッセアは、太陽を模したようなティアラをつけていた。
そういえば、太陽神殿の巫女と、月の神殿の巫女は双子だったな。
「あの、あなたがテデュッセア?」
俺が聞くと、テデュッセアは深くお辞儀をしてきた。
「改めまして、私は太陽神殿の巫女、テデュッセアと申します。皆様は、テレクサンドラに会いにいらっしゃったのですか?」
「は、はい」
「ケルヴィン様が、昨夜色々お話くださいましたので、事情は承知しております」
テデュッセアが、ケルヴィン殿下に意味深な流し目を送る。ケルヴィン殿下……ペラペラ喋ったのか?
「君は誘導尋問がうまかったな……聞き上手というか、余計なことまで話してしまった」
ケルヴィン殿下は、片手で顔を押さえてため息をついた。
やれやれ……。
「うふふ、ケルヴィン様もお上手でしたわ、色々と。私も久しぶりに満足できましたから」
「お褒めいただいて、どうも。君になら、負けても惜しくない」
「ふふ、私としても、テレクサンドラに話を聞いて、人となりを見極めたかったのです」
「人となりを?」
「えぇ。私はなんでも、自分の目で確かめるタチなのです。オベリア様の話を、鵜呑みにするテレクサンドラとは違います」
「……」
「異世界に飛ぶということは、それだけ危険なことだとご理解ください」
「それで? 俺は……いや、俺たちは合格したのか? テデュッセア」
「えぇ、ケルヴィン様。いいえ、ケルヴィン殿下。あなた方なら、異世界を荒らすことはないでしょう」
彼女は言い終わると、俺とフィオを見た。
ん? なんだろ。
「私が、フィオさんに余計な提案をしたばかりに、昨夜は酷い目に遭ったそうですね……申し訳ありません」
イルハートとのことか。
テデュッセアは、申し訳なさそうに頭を下げる。別に彼女が悪いんじゃない。
フィオは、すぐに彼女の前に立った。
「頭を上げてください、テデュッセアさん」
「でも……フィオさん」
「おかげで私、彼にどれだけ愛されてるか、わかったんです」
フィオに言われて、周囲から生ぬるい視線が集中する。顔が熱い……。
「ゴホン!」
誤魔化すように、下を向いて咳払いをしていると、周りからクスクスと笑う声が聞こえた。
はいはい、惚気てます!!
そんな中、話題を変えるように、テレクサンドラが立ち上がった。
「皆様、明日の満月の夜、異世界と道が繋がります。そして、道が繋がるのは一度だけ。その僅かな間に、あなた方はレディオークを倒し、こちらに戻ってこなければいけません」
そうだ、しっかりしないと。戻ることも考えないといけないんだった。
「何時頃ここに来れば、い……」
俺が、そう言いかけた時だった。
「テレクサンドラ様!! ガルズンアース国のネプォン王が、面会を求めております!」
と、扉の近くにいた巫女が、慌てたように伝えてきた。
奴がここに? なぜ……ベヒモムートの乗客の中には、いなかったはずだ。
テレクサンドラは、表情を曇らせて巫女の方に向き直る。
「落ち着きなさい! 他国の王といえど、紹介もなくいきなり会いに来るなど、失礼が過ぎます。すぐに追い返しなさい」
「そ、それが……」
「なんです?」
「逆らえば、軍を突入させると」
「!?」
「我が国の王も、了承済みだというのです……」
嫌な予感がする。
ネプォンは、これまでお忍びで現れることはあっても、公然と王として現れたことはない。
魔導士ティトが、素早く俺たちにロッドを向けた。
「小さくなって、隠れよう。古の契約に従い、我らの身を縮めたまえ、ミニミニ」
あっという間に、俺たちは小人のサイズになって、テレクサンドラを見上げた。
「こちらへ」
テレクサンドラが、両手を差し伸べてきて、俺たちを手のひらに乗せてくれる。
それを見たテデュッセアが、テレクサンドラの肩に手を置いた。
「テレクサンドラ」
「なぁに? テデュッセア」
「ティアラを交換しましょう」
「え」
「マントを羽織れば、デザインの違うドレスに気づかれることはないわ」
「何をする気? テデュッセア」
「テレクサンドラ。いざという時は、太陽の神殿から道を繋げてあげて」
「!?」
「いい? 私たちは今から、入れ替わるわよ」
二人はティアラを交換する。
俺たちは、テレクサンドラの頭に乗せてもらうと、ティアラの後ろに隠れた。
それから二人は、マントを羽織って頷き合う。
バレませんように……。
「ネプォン王が、いらっしゃいました」
扉の前の巫女が、二人に告げる。
テレクサンドラになりすましたテデュッセアが、椅子に腰掛けて『通しなさい』と伝えた。
ネプォンが、中に入って来る。
後ろから暗黒騎士ヴォルディバと、その部下たちもついて来た。
全員が汗だくで、はぁはぁと息が荒い。
階段に、試練を与えられたみたいだな。
それでもネプォンは、とりすました顔で息を整え、テデュッセアたちの前に進み出て来る。
「初めまして。美しい月の神殿の巫女、テレクサンドラ」
「初めまして。突然のご訪問の理由を、お聞かせください」
テデュッセアは、テレクサンドラのフリをしたままネプォンと言葉を交わした。
狙いはなんだ? 俺たちの捕獲か?
俺たちの不安をよそに、ネプォンはテデュッセアに近づいて行く。
「私どもは、国外逃亡中の義弟、ケルヴィン王子とその一味を追っているのです」
奴の目が、ギラリと光った。
確信しているのか? まずいな……。
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