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星空のブランコ

「わぁ、素敵!!」


屋上の星空のブランコ乗り場に辿り着いたフィオは、空にきらめく満天の星に、思わずクルクル回り出した。


本当に綺麗だ。星空も、楽しそうに回るフィオの姿も。


「お客様、星空のブランコを、ご利用ですか?」


係員に言われて、俺たちは頷く。


係員は俺たちを、三日月の形をしたゴンドラに乗せた。


フェイルノは、係員が預かってくれる。こういう時は、気を使うんだよな、フェイルノ。


「こちらの舵を引くと、ブランコように前後に揺れます。では、星空の旅へ行ってらっしゃいませ」


係員によると、ベヒモムートの羽根が起こす対流に乗って、星空を泳ぐように進むそうだ。舵を引けば前後に揺れ、何もしなければ30分ほどで、ベヒモムートの周りを一周して戻ることになるらしい。


「わくわくしちゃうね、わあー、早く行きたい」


フィオは、目をキラキラさせっぱなしで、感嘆の声ばかりあげている。


俺たちを乗せたゴンドラは、フワリと浮き上がり、星空の海へと漕ぎ出した。


ゴンドラは静かに進む。時々舵を引くと、加減によって大きく揺れ、星空が一層近くなる。


「このまま、どこか遠くに行けそうね」


フィオは、微笑んで俺を見た。本当だな。この旅が魔王討伐の旅だということを、忘れてしまいそうだ。


「ああ、どこに行きたい?」


「あちこち!」


「あちこちかぁ」


「たくさん、見て回りたい。もっとたくさん、アーチロビンと冒険したいな」


「俺も、フィオともっと色々見たいよ」


フィオは俺の腕に自分の腕を絡ませて、嬉しそうに笑う。


そう、このまま、こうしていられたらどんなにいいだろう。


「オベリア様にも感謝しないと」


「オベリア様に?」


「ええ、私を冒険に送り出してくれたから、あなたと会えたもの」


なるほど、大聖女オベリア様か。


俺は不意に、表情を曇らせたオベリア様を思い出した。


「フィオは……」


「ん?」


「いずれ大聖女にするつもりだと、オベリア様にはっきり言われてないか?」


「そこまで、断言されたことはないよ。でも───」


「でも?」


「……素質はあるから挑戦しなさい、と言われたことはある。私も最初は、なれたらいいなぁ、だった」


「いいなぁ、か」


「でも、今はなりたくない。大聖女は生涯独身。望まれれば王の妻。好きな人のそばにいられない」


「そうだったな」


「私は……私の母さんみたいに、小さな礼拝堂の神官でいい。子供たちに、勉強教えたりできるもの。冒険にも行けるし」


「フィオは、いい大聖女になれると思うけど」


「ううん、望まない。こんなにあなたのこと、好きになった今では」


「ん……」


「他にも候補者はいるもの。シャーリー様に次ぐ人たちが」


「シャーリーを超えるのは、フィオだけ?」


「まさか!」


「そうか……」


魔王ダーデュラの魂を察知できたのは、オベリア様と彼女だけ。


大魔導士イルハートも、フィオの力を危険視していた。


つまり、いずれは力が拮抗、もしくは超える存在になるということ。


実力でいえば、大聖女にはフィオが最有力候補だろう。


大聖女オベリア様が、ケルヴィン殿下にフィオを同伴させたのも、ケルヴィン殿下が即位して王になった時に、結婚させるためだったかもしれない。


ネプォンが、ろくに王として務めを果たさず、ヘレン王妃も正さないしな。


だから、あの時俺を見つめるフィオに、オベリア様はいい顔しなかったんだ。


フィオは断るつもりだろうけど、果たしてそれが通るだろうか。


旅が終わったら、俺たちは引き離されるかもしれない。


こんなふうに過ごせるのは、今だけか……? この先は……?


俺はせつなくなって、フィオをギュッと抱きしめた。


「アーチロビン?」


「フィオ、好きだ」


「私も」


「昨日より今日、今日よりも明日、俺はどんどん君に惹かれていく。俺の心はもう、フィオのものだ」


「アーチロビン……私も同じ。いいえ、それ以上」


「俺だって、いや、俺の方が……」


「私の方がずっと好き」


「俺もな、フィオより───」


俺が続けようとすると、フィオがそっとキスをして口を塞いでくる。


時よ、止まってくれ……このまま流れていかないでくれ……。


夢中でフィオのキスに応えているうちに、ゴンドラがついてしまった。


「お、お客様、あの……」


係員に言われて、ハッとなって俺たちは離れる。


顔を赤く染め、申し訳なさそうな表情の係員に頭を下げて、俺たちは予約された部屋へと戻った。


俺の部屋は、魔導士ティトの部屋を挟んでフィオとは隣か。


「アーチロビン」

「!!」


フィオは部屋の中についてくる。

嬉しいけど、先のことを考えたら……。


「よせ、フィオ」

「いや」

「ほら、フィオの部屋は向こうだって」


そう言ったのに、フィオはしがみついてきた。

理性は離せと言ってる。


彼女を想うなら、そうすべきなんだ。

でも……だけど……俺も離したくない。


「フィオ……!」


俺は、フィオを抱きしめたまま寝台に倒れ込んだ。

その時だ。


ズゥゥゥン!!


ベヒモムート全体が、何かにぶつかったように揺れた。


なんだ!?


俺とフィオは、慌てて窓の外を見た。


ギャキャッと耳障りな鳴き声と、無数の黒い群れ。


「コカトリスの群れ!!」


フィオが、驚きの声を上げる。

コカトリス! 毒と石化を得意とする、魔物だ!


コカトリスたちは、ベヒモムートの体に取り憑いて、毒の針を撃ち込もうとしている。


「フィオ! 今からでもシールドを張れるか!?」


「コカトリスたちが近すぎる! 一度離さないと!!」


「わかった! もう一度、屋上に出よう!!  フェイルノ!! みんなを呼んできてくれ!」


「リョウカイ!!」


俺たちは部屋を飛び出して、屋上へと駆け戻った。


「キャー!!」


「助けてぇ!!」


あちこちで、コカトリスに人が襲われている。コカトリスの気が散りすぎて、俺に集中させられない!


「みんな! 中へ!! 早く!!」


俺は矢を放って、コカトリスたちを人々から引き離していく。


だけどキリがない。


「しょうがない……光弾解放!」


俺は、気を込めた矢を空に向かって撃ち放った。


大帝神龍王の技の一つ。

敵を追尾する光弾の技。


ネプォンが半泣きで、逃げ回っていた技だ。


上空に撃ち上げられた矢は光を纏い、やがて放射線状に弾けてベヒモムートにまとわりつくコカトリスたちを、自動追尾して貫いていく。


「すごい……!」


フィオが、祈りの書を開いたまま、感心していた。


「フィオ、シールドを!!」


「あ、あぁ、ごめんなさい。慈悲深き我らが神よ、聖霊を使わし、我らの盾となる力を貸し給え、セイントシールド!!」


フィオの詠唱が終わると、ゾンビダラボッチの攻撃をも防いだあのシールドが、ベヒモムートを覆っていった。


コカトリスたちが、仲間がやられたことに憤って、屋上の俺たちの近くに集まってくる。


来い……そうだ、来い!!


俺はいつもの通り、地面に向かって矢を放つ。


床がカッと光って、力場がコカトリスたちを包んだ。


あとはいつも通り。


次々とコカトリスたちは、自分の攻撃ダメージが跳ね返って消滅していく。


「アーチロビン!!」


そこへ、ケルヴィン殿下たちがやって来た。


魔導士ティトは酔っ払って、聖騎士ギルバートに担がれている。


ケルヴィン殿下は、消えていくコカトリスを睨んで俺を見た。


「終わったみたいだな、アーチロビン」


「ええ、ケルヴィン殿下」


「乗務員の話では、この空域はコカトリスが襲ってくることはないそうだ。魔王の差し金か?」


「いえ……というより」


「?」


「魔王が英雄として蘇る前の、前触れかもしれません」


「どういうことだ?」


「英雄が生まれる前は、いろんな吉兆が現れるでしょう? 流れ星か流れるとか、見たことのない虹が見えるとか」


「あぁ、確かに。我がガルズンアース国の初代王が生まれる前も、空に無数の青い鳥が舞を舞うように飛んだとか……あ!」


「確実に、魔王に都合のいいように、状況が流れ始める前兆かもしれません」


「なんてことだ……」


俺たちは、コカトリスが消えた空を見ながら、いいしれぬ不安を感じていた。

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