女同士の戦い
大魔導士イルハートは、強気な声でフィオと話し始める。
「やだぁ。あんた、私に勝てるのぉ? もう少し、成熟してから挑みなさい。」
「確かに私は、あなたみたいに豊満じゃないわよ。でも、彼を想う気持ちは誰にも負けない」
「口先だけなら、なんとでも言えるわよぉ?」
「私は一生分の恋をしてると思ってる。それくらい彼が好きなの」
「あらぁ、お熱いことぉ」
「彼との恋なら命を賭けてもいい」
「へー、命懸けぇ? 男なんて、あっという間に新しい女に飛びつくわよぉ? そういう生き物だから」
「彼は違う」
「みーんなそう言って、裏切られていくのよ。あんたもその一人ぃ」
「決めつけないで!」
それを聞いて、イルハートは鼻で笑った。
「ふん、そんなに自信あるなら、そのぼうやの顔に押し付けた洗面器をはずしなさいよぉ。私の姿を見ても、ぼうやが変わらないなら、信じてあげるわぁ」
「見なくていいの、そんなもの」
「そんなものぉ? 不安だから隠すんでしょうが。バレてんのよね」
「あなたの作戦には乗らない。私たちの間を割く気でしょうけど、そうはいかない」
「愛があるから?」
「そうよ」
「愛なんて、この世で一番あてにならないわ。心なんてコロコロ変わるもの。特に恋愛はねぇ」
「変わらない人もいるわ」
「へぇ」
「アーチロビンのおじいさん、一人の女性を愛し抜いた」
「偉いわぁ、じゃ、あなたもまずは、やってみなさいなぁ。真空の砲弾よ、敵を撃て。バキム!!」
「え? きゃ!」
「フィオ!?」
ドドン!!
衝撃波を感じて、顔の洗面器が外れる。よく見ると、洗面器とフィオが、横に倒れていた。
飛び上がったフェイルノが、心配そうにフィオの顔の近くにとまり、覗き込んでいる。
フィオ!
フィオを傷つけた!!
俺は怒りで、頭に血が昇る。
この女!!
大魔導士イルハートは、フィオに見せつけるように、俺にベッタリしがみついてきた。
くそ! 体を動かせない!
奴の魔法を解かないと!!
「う……ゲホ!ゲホ!」
フィオが目を覚ます。
よかった、気絶していただけか。
いや待て───口から血が流れてる!!
彼女はお腹を押さえながら体を起こすと、苦しそうに俺たちを見た。
その目が俺の目の前で、あっという間に悲しそうに潤んでいく。
やめろ……そんな目をさせたくない。
俺は、そんな目をさせないために……。
彼女が悲しむと、自分のこと以上に苦しい。胸がズキズキ痛んで、たまらなくなる。
大魔導士イルハートは、勝ち誇った笑みを浮かばせた。
「ふふふ、ねぇ、お嬢ちゃん。私と彼が交わっても、あなたは乗り越えるのよね? 変わらぬ絶対の愛があるんでしょお?」
「!!」
「ふん、なによ、その不安そうな目は。目の前の障害にもう怯んでるのぉ?」
「い……いや、させ……ない。彼は、私の……」
「無駄無駄。目の前で、私に奪われる彼をよーく見ておくことねぇ」
ズズン!
突然地鳴りがして、フィオの方を見ると、彼女の尻尾が九本になった。
「あんたなんか……!」
怒りに震えるフィオの体が獣形に変わり、詠唱を始める。
フィオ!? 祈りの書がないのに?
大魔導士イルハートも、すぐにロッドを構えて対抗魔法を唱えだした。
「我らが女神ルパティ・テラ。その御手より溢るる光を我に与え、我が敵を打ち払い給え。セイントクラスター!!」
「我が契約せし、闇の精霊たちよ。光の技を喰らいて跳ね返せ、デビルクラスター!!」
ドドン!!
お互いの力が、真ん中でぶつかり合う。
大魔導士イルハートが、珍しく押されていた。
「あーら、意外とやるわねぇ、お嬢ちゃん」
「負けない……あんたみたいな人に!」
「祈りの書の力も借りずに、まるで大聖女ねぇ。だ・け・ど……」
「!!」
次第に、フィオの力が押し返され始める。
まずい───フィオ!!
「忘れたの? 私は大魔導士なのよ? ぽっと出の新米神官にやられるほど、おちぶれてないわぁ」
バギン!!
「きゃあ!!」
力を弾き返されたフィオは、壁に叩きつけられて、人の姿に戻る。
そのまま床に倒れ、震えながら頭を上げて俺に手を伸ばしてきた。
「フィオー!!」
俺は必死に叫んで、彼女の方を見ていると、イルハートが両手で俺の顔を包んでくる。
「あら、あの女、生きてるわぁ。壁に衝突する前に、シールドを張ったのね。うふふ、日々霊力が強くなってるぅ。あの、シャーリーより上よ、彼女」
「よくも、やりやがったな!!」
「当たり前でしょお? 今のうちに叩いておかないと、後々面倒になる女なんだもの」
「離せ!! フィオ、フィオ、早く回復の魔法を!!」
「アーチ……ロビン」
フィオが、意識朦朧としながら、床を這って俺のところへ来ようとする。
「もう、動くな! フィオ!」
「まだまだ祈りの書なしには、そう何回も力は使えないみたいねぇ。ふふふ、さて、と。」
大魔導士イルハートは、俺の体に手を這わせ始めた。
「触るな!!」
「ふふ、ぼうや、色々と教えてあげる。そして、こんな女を忘れて、私に夢中になるのよぉ」
「ふざけんな! ……く!!」
「最初は抗うもの。でも、みーんな最後には私の手に落ちる。男なんてその程度よね」
くそ! 感じたくないのに!!
意に反して、体が熱を持ち始める。
フィオのことを考えろ!
こいつが、フィオにしたことを思い出せ!!
必死に目を閉じたその時、横から鋭い声がした。
「慈悲深き我らが神よ、聖霊を使わし、我らの盾となる力を貸し給え、セイントシールド!!」
俺の体を、フィオのシールドが包み、イルハートから遠ざける。
───あ、危なかった。
「ち! ぼうやに触れないじゃない、お嬢ちゃん。悪い子だわぁ」
「はぁ、はぁ……負けない。アーチロビンは、渡さない!」
フィオは、必死に俺の近くまで這ってくる。痛みに顔を歪ませながらも、決して目を逸らさない。
「泣いていじけるかと思ったのに、いい根性してるわねぇ、ま・け・い・ぬ」
イルハートは、俺のそばまで這ってきたフィオの髪の毛を掴み、高く持ち上げる。
「ああ! い、痛い!!」
フィオが、悲鳴のような声をあげた。
よくも……よくも……俺のフィオを!!
───バキ!
俺の両手と両足を飲み込んだ床に、ヒビがはいる。
同時に、イルハートの顔に一筋の傷がはいった。
「い……!」
イルハートは、すぐに指先で傷を確認する。
俺は彼女を睨みつけて、冷たい声で言った。
「───後悔するからな。俺の目の前でフィオに手を出したこと」
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