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謎の女性テデュッセア

ケルヴィン殿下は、カジノのルーレットのテーブルに座り、膝には見知らぬ女性を乗せている。


だ、大丈夫なのか?


俺は、ケルヴィン殿下に声をかけた。


「ケルヴィン殿下」


「お、アーチロビン」


「その女性は?」


「あぁ、彼女はテデュッセア。ここで知り合った。俺の幸運の女神でさ、ずーっと勝ちっぱなしだよ」


テデュッセアと呼ばれた女性は、泣きぼくろのある美人で、セクシーなドレスに身を包んでいる。


目のやり場に困るな。イルハートほど胸が大きい人ではないけど、見えそうで見えないドレスは嫌でも目を引く。


ゾクゾクきてしまう。

いかん、いかん。


軽く咳払いして横を見ると、目を細めるフィオの顔が見えた。


!!


一瞬で背中が凍りつく。

こ、怖い顔。


普段はあんなに可愛いのに、真顔で目を細められると、本当に怖くなる。


「……見惚れちゃって」


「フ、フィオ、あのな」


「はっはっは」


「ケルヴィン殿下?」


俺たちを見ていたケルヴィン殿下が、急に笑いだした。


「おいおい、フィオ。視線がいくのは、仕方ないんだよ。フィオだって、好みのイケメンがいたら、目がいくだろ?」


「ケルヴィン殿下!! そ、そんなこと!」


「まあ、エロい……いや、魅力的でセクシーな女性が目の前にいたら、俺だって見つめてしまう。あまり、アーチロビンを責めるな」


「……好きな女性がいてもですか? 殿下」


「関係ないね。好みの女性には、何人でも目がいく。あわよくば、関係を持ちたい。それが普通」


「そんな!」


フィオの肩が落ち込む。

いや、俺はいいと思っても、そこでやめる。


理性で抑えればすむ話だ。


俺が補足としてそう言おうとした時、ケルヴィン殿下が、フィオの顔を覗き込んだ。


「フィオ。アーチロビンは、モテる。何人と遊ぼうとも、笑って許せる心の広さが必要だ」


「!!」


ええええ!?


俺は驚いて、ケルヴィン殿下を見つめた。


「ケルヴィン殿下。俺、モテませんけど?」


「は……!? まさか、まだ自覚なしか?」


「自覚? 何を?」


「……」


ケルヴィン殿下が、固まっている。なぜ?

モテたことはないぞ、俺は。


「それに俺……フィオ以外の女の子の相手まで……できません。彼女だけで、俺は満足なんです」


「アーチロビン……」


フィオが、嬉しそうに微笑む。


だってそうだろ?

こんなに可愛くて、愛おしいのに。

俺の心は……もう、満席なんだよな。


他の女性の相手をする、スペースなんてない。


「うふふふ」


テデュッセアが、笑いだした。

え、笑うところ?


テデュッセアは、おかしそうに俺を見る。


「まあ、早い話、フィオさん以外に心が動かないんですよ。よかったですね、フィオさん」


「嬉しいです。テデュッセアさん」


「俺は納得できんがなぁ。色んな女性に目移りするのが、普通だし」


「ケルヴィン殿下、殿方も色々です。ましてや彼は、何か喪失を経験したのではないですか?」


「!!」


「そんな目をしています。彼女を一度失ったのでは?」


「た、確かに」


「彼は、彼女との繋がりを完全に失う恐怖と悲しみを知っています。この先も、その想いが他の女性への移り気を防ぎ、彼女だけを愛し抜くでしょう。羨ましいわ」


「テ、テデュッセア、俺だってやれるよ」


「あら、ケルヴィン殿下。できないことを、口になさらないで?」


「できるさ。試してみるかい?」


「それは楽しみですわ。あなたのその目線が、どこに動くかで私にはわかりますから」


な、なにやら、二人の間に火花のようなものが見えるのは気のせいか?


「でも、フィオさん」


テデュッセアは、ケルヴィン殿下の膝の上から立ち上がり、フィオのそばに来る。


「は、はい」


「もう少し、あなたもその硬さを解くべきですね。時には大胆に迫ることも、殿方を惹きつける要素ですよ」


「だ、大胆に?」


「そうだ、良いことを教えましょう」


テデュッセアは、フィオの耳に何かゴニョゴニョと話していた。


「え! そ、そ、そん…!」


話を聞いているフィオの顔が、みるみる赤くなっていく。


両手で頬を押さえ、俺をチラチラ見ていた。

白い耳も尻尾も、ブンブン動いている。


な、なんだよ。何を話してるんだ?

見ている俺まで、ドキドキしてくる。


「ジョシノ、ヒソヒソバナシ、キニナル……ンガ!」


オウムのフェイルノが余計なことを言いかけたので、慌てて嘴を押さえた。


お前はもう、すぐに状況をまぜっ返すからな。


そんな俺の目の前で、テデュッセアがフィオの手を軽く握って、笑いかけている。


「頑張って。あなたは、素敵な人なのだから。自信を持ってください」


「あ、でも……できるでしょうか、私」


「恥ずかしいのは、最初だけ。ね?」


話を終えたテデュッセアが、優しく彼女の背を押し出した。


「は、はい!」


フィオは、頭を下げて俺のところへ戻って来る。


顔が真っ赤だぞ? フィオ。

何を聞いたんだろ。


テデュッセアは、何事もなかったようにケルヴィン殿下の膝の上に座り直す。


ガラララ……その時、ちょうどルーレットのウィールが回り始めた。


玉が投入され、ディーラーがテーブルを囲む客にチップを賭けるよう声をかける。


テデュッセアは、フィオをチラリと見てから、回転するウィールを見つめた。


なんだ? フィオが何か?

テデュッセアは、確信したようにケルヴィン殿下に告げる。


「彼女を見て直感したの。きますわ」


「え!?」


「赤の7。ストレートアップが狙える。全額ベットして」


「全額!?」


「幸運の白い狐の彼女の、ツキに乗りましょう」


周りの客がざわつき、まさかそんなと言う声が聞こえてくる。


そんな声をよそに、テデュッセアと見つめ合ったケルヴィン殿下は、赤の7に全額をかけた。


ガラララララ。


ルーレットのウィールが回り続け、やがて玉が落ちる。


カランカラン、カラン……コトン。


「赤の7」


「おおおお!!」


「すげぇ!!」


「きゃあ! 信じられない」


周りから大歓声があがる。

テデュッセアは、嬉しそうにケルヴィン殿下に抱きついて、熱いキスを交わし始めた。


な、なんだか、すごい女性だな。

彼女は、薄目を開けて俺たちを見ると、片手でさよならと手を振る。


これ以上邪魔してはいけないな。


危険な女性というわけではなさそうだから、この場を去ろう。


俺は、フィオを連れてその場を離れた。

なかなか、落ち着ける場所がないな。


俺たちは屋上へと上る。

途中、温泉エリアがあった。


温泉かあ。いいなぁ、汗を流してさっぱりできるし。


フィオと二人で、入れたらなぁ……。


こ、こら!

馬鹿か、俺は!!


両想いだからと、いい気になっていれば、痛い目に遭うに決まってる。


で、でも、聞くだけならよくないか?

入らないか、て。


それで嫌と言われたら、やめればいいし。

べ、別にいやらしい下心なんて……そりゃ、少しは、その……。


いかん、顔が緩みそう。


「アーチロビン」


不意に声をかけられて、俺は思わず姿勢を正して彼女に頭を下げた。


「す、すみません!」


「え? 何?」


「いや、その……怒ってる?」


「ううん。全然」


「ホゥ……よかった」


「クスクス、変なアーチロビン」


「変なとか、言うなよ」


「ごめんね」


「それより、フィオは何を言いかけたの?」


「あ、あの。あのね」


フィオが、モジモジしながら温泉の方を指差した。


え……。

これは……まさか。


俺の妄想が、現実に?


読んでくださってありがとうございます。

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