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フィオの帰還

シャーリーは、穴が開くかと思うほど、ネプォンを見る。


「はあ? あんた、それを言うために一緒に来たわけ?」


ネプォンは、涼しい顔で彼女を見返した。

その顔に迷いもない。


「お前さ、お付きの神官を襲ってるんだぞ? 王として、帰国を許すわけにはいかねぇよ」


俺はその言葉で、彼女の服についた血が、やはりお付きの神官たちのものであると確信した。


シャーリーは、ギッと睨んで大魔導士イルハートを見る。


「……あんたも同じ意見?」


「んー? ネプォンが、そうだと言うならそうじゃなぁい?」


「この女狐! あんたたち、おかしいわよ!? 私が魔王来襲の夢を見たと、教えた時から!」


「ふふふ」


「ネプォン。魔王が復活したって、あんたがまた倒せばいいだけの話じゃない! 天に選ばれた勇者として、神剣も持ってるでしょ!」


と、シャーリーに言われたネプォンは、心なしが表情が曇っていた。なんだ? なぜそんな顔をする?


「魔王は、復活なんてしない」


ネプォンは、暗い目でシャーリーを馬車から引き摺り落とした。


「痛っ……! ネプォン!!」


「魔王は倒した。もう、関わることはない」


「あんた、何言ってんの!? 誤魔化したところで、魔王は自分を倒した私たちを覚えているのよ!? いずれ───」


「魔王は復活するものか。俺が生きている限り」


ネプォンは、結界の近くにシャーリーを突き飛ばそうとした。


咄嗟にシャーリーが、ネプォンにしがみつこうとして、奴の帯剣していた神剣の柄を握る。


「これがあるんだから、怖がることなんてないじゃない!!」


そう叫ぶシャーリーを、ネプォンは振り払う。


その瞬間、シャキン!! と音がした。


───え?


神剣が抜けた?

勇者だけしか、抜くことができないといわれる剣が───あれ!?


剣が……剣の刃が!!


「見たな」


ネプォンが、さらに暗い目をしてシャーリーから神剣を奪い返すと、彼女を結界内に突き飛ばす。


「きゃあー!!」


結界内に入った彼女は、一瞬で見えなくなった。


そして奴は、俺の方にも剣先を向ける。


俺は、まじまじとその刃を見つめた。

───嘘だろ?

神剣が、錆びてる!!


ネプォンは、虚な瞳で俺の喉元に剣を突きつけてきた。


「俺のせいじゃねぇ」


俺は奴の剣を避けるように、少しずつ後ろに下がる。


何かあったな、こいつ。神器を錆びさせた英雄なんて、聞いたことがない。


魔王との間に、一体何があった!?


ネプォンは、結界の中に俺を押し込むように踏み込んでくる。


「あんたとシャーリーだけじゃ、どのみちゾンビダラボッチにやられる」


「……」


「『助けてください』と、おねだりしてみるか? 俺が飽きるまでは、命があるぜ?」


ここで、媚びると思うか? クソ野郎。

俺は奴を睨んだ。


「いや」


「けっ! 最後まで可愛くねぇ女!! イルハートみたいにならねぇと、長生きできねえぞ!!」


ネプォンの恫喝をよそに、俺はチラリと大魔導士イルハートを見る。彼女は薄く微笑んで、見ているだけ。


あの時も、今も。

こいつは、澄ました顔で他人事のように見ているだけ。


そして、助けて欲しい時だけ、色っぽくねだってくるわけだ。


相手が男なら。


遠くから、白狐のフィオが心配そうに俺を見ている。


いつでも、助けに駆けつける、そんな雰囲気を醸しだして。


そして、フィオの後ろには、なんとケルヴィン殿下たちまできていた。


頭に木屑や葉っぱをつけて、肩で息をしている。大急ぎで、来てくれたんだ。


そう……ピンチになれば、あっさり仲間を見捨てるネプォンたちと違う。


俺は仲間達を信じて、ネプォンを睨みつけた。

かつて、憧れたその人。


でも、所詮上っ面だけの勇者と、寄せ集めの仲間たちだった。


俺は声を低めて、ネプォンに告げる。


「あんたがいなくても……」


「あん?」


「あんたがいなくても、ゾンビダラボッチは倒せる!!」


「!?」


「あんたの時代は終わった!」


「こ、こいつ!!」


俺は後ろに下がり、結界の中に自分から入る。

結界の向こうからは、ネプォンたちが見えた。


逆に奴からは見えないはずだ。


ネプォンは荒れに荒れて、その辺の草木に、神剣を叩きつけている。


その時わかった。神剣は斬れ味まで落ちている。いや、何も斬れないようになっていた。


逆に小石を跳ね飛ばして、自分の顔に当ててしまい、ネプォンはまた鼻血を吹いている。


「いてぇ! ちくしょう!! 誰か……誰か治せ! いてぇんだよ!!」


大魔導士イルハートが、呆れた表情で奴を見ていた。


「神官を二人とも失ったのよ? 大人しく、鼻血が止まるまで待てばぁ?」


「なんだとぉ!?」


「怒ると、余計出るわよぉ」


「く……! こい! イルハート」


「あん、なによぉ」


「お前で気分直しだ!」


「やだぁ、鼻血止めてからにしてよぉ!」


「そのうち、止まる!」


ネプォンは、イルハートを馬車に放り込むと、上からのしかかろうとした。


「いや! 最低のマナーも守れないなんて!!」


大魔導士イルハートは、足でネプォンの顔を蹴り上げ、馬車からそのまま落とした。


「グエ!」


ネプォンの情けない声。

続いて、大魔導士イルハートは、馬車を魔法で動かして、来た道を引き返していく。


「止まれぇ! 止まってくれ、イルハート!!」


ネプォンは、フラフラしながら追いかけていった。


アホらしい。


「バーカ、バーカ」


オウムのフェイルノが、喋りながら上着の中から出て来ると、俺の肩にとまる。


「まったくだな」


俺も呆れていると、結界の中にフィオたちが入ってきた。


「フィオ!!」


俺が呼ぶと、フィオは白狐の姿から人の姿へと戻る。


俺も、元の姿に戻った。


「アーチロビン!!」


飛び込んで来るフィオを、しっかり抱き止める。フィオだ、フィオ、フィオ!!


「……フィオ!」


思わず声が掠れた。

夢じゃない。彼女はここにいるんだ!


「ガー、フィオ、オカエリナサイ」


「ただいま、アーチロビン、ただいま、フェイルノ」


フィオも、嬉しそうだ。

体で感じる確かな温もりに、泣きたくなるほどの喜びが込み上げてくる。


みんなも周りを取り囲んで、温かい言葉をかけてくれた。


「よかったのぉ」


魔導士ティトが、またハンカチで目頭を押さえている。


「あれから、フィオはすぐに目覚めたんだよ? 白狐の姿で飛び出して来て、最初は誰だかわからなかった」


聖騎士ギルバートが、ニコニコしながら教えてくれる。


「それからが、早いの何の。白狐の俊足でユバロン司祭から聖櫃の許可をもらって来て、ティトの魔法で俺たちと聖櫃を小さくしてさ」


ケルヴィン殿下が、頭についた葉っぱを落として笑った。


小さくして? まさか、みんなフィオに乗って来たのか?


「ということは?」


「そうだ、アーチロビン。霊泉の水は聖櫃で汲み出せた。それから小さくなって、フィオに乗ってここまで来たんだ」


ケルヴィン殿下は、力強く応えてくれた。

うまくいったんだ。


俺が腕の中のフィオを見ると、フィオは顔を上気させて笑っている。


「すごい……な……フィオ」


あれ? いつも通り話してるのに、唇が震える。

おかしいな、上手く喋れない。

フィオはそんな俺の顔を両手で包む。


「あなたに、早く会いたくて」


彼女が眩しい。胸もいっぱいだ。


「く……は……」


呼吸すら、止まりそう。

フィオが、心配そうな顔をする。


「大丈夫? アーチロビン」


「ん……んん! ごめ……俺……上手く話せ……なくて」


「いいの! いいのよ……」


フィオの目も、潤んできた。


しっかりしろ、俺!!


心が暴れて、枯れることを知らない湧き水のように、感情が溢れてくる。


これじゃ、言葉が少しも追いつかない。

それでも、伝えたい───。


「フィ……オ」


「ええ」


「また……会え……た。俺……俺は……」


それ以上言葉が出てこず、彼女を思いっきり抱きしめる。


俺の腕の中で、冷たくなっていったあの時のことを思い出して、さらに力を入れた。


「ア、アーチロビン、苦しい……」


フィオの声がして、俺は慌てて腕を緩める。


「ごめん!」


「ふふ、いいの……いいの。ありがとう」


「フィオ」


彼女と見つめ合っていると、自然と顔が近づいた。


「ガー、チュウスル? チュウ?」


オウムのフェイルノが、横からまた言い出す。


「もう、お前は───」


「アトガイイヨ」


「な、なんだよ、珍しいな」


いつもなら、煽るくせに。


「ソコニイルモン」


「何が?」


「テキ」


「!!」


ゾンビダラボッチが、森の奥からぬっと出てきた。


結界内は、大聖殿前で俺の力場に捉えた場所とはまた違う。


新たに、仕掛ける必要があるな。


深呼吸してフィオを見ると、彼女も力強く頷いた。


俺たちは離れて、ゾンビダラボッチに向き合う。


俺はすぐに矢を地面に打ち込み、力場が発生してゾンビダラボッチを包んだ。


さあ、ここからだ!!



読んでくださってありがとうございます。

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