新天地トゥンカル・ミズ国
俺たちは、気がつくとトゥンカル・ミズ国の国境付近へと来ていた。
「ありがたいことだな。強引だけど」
国境は高い塀で囲まれていて、時々襲ってくる魔族を大砲で撃ち払っている。
「特殊な呪が刻まれた、砲弾のようじゃな。各街の塀の壁の中に砲台があるのじゃ。これで外からの侵入を防ぐ」
と、魔道士ティトが説明してくれた。どこの国も、こうやって魔族から自国を防衛しているのが普通だ。
「中に侵入されたら、どうするんだろうな」
俺が質問すると、聖騎士ギルバートが砲台を見て、首を傾げた。
「多分……壁の厚さから見るに、内側に向けて設置された大砲もあると思う。滅多にないだろうけど」
なるほどな。しかし、下手をすると中の住民も巻き添えを食う。余程の時だけ、使うんだろうな。
さあ、トゥンカル・ミズ国へと入ろう。
みんなで入国管理事務所に入ると、呼ばれるまで待合室で待つようにと、小さな部屋に通された。
「何やら今日は人が多いらしい。今後のことも含めて、話をしようか」
ケルヴィン殿下は、身分証明書を取り出して、いつでも出せるように準備していた。
「まさか、偽造してる……とか?」
俺が聞くと、聖騎士ギルバートは、刷毛で毛艶を整えながら頷いた。
「もちろん。こういう時のために、スペシャリストに頼んでちゃーんと作ってるんだよ。ボクたちは、買い付けにきた商人とその護衛」
「聖騎士の格好で?」
「あ、美しすぎてかえってだめかな? 大丈夫、魔導士ティトの幻術で、それなりに傭兵に見えてるはずだから」
壁にかけられた鏡に映る彼の姿は、確かに半人半馬の普通の鎧を着た傭兵になっていた。
なるほどな。
こう見えるのか。
さて、俺もこの仲間たちの一員として、生死を共にするんだ。
ちゃんとご挨拶しておこう。
「みんな、これから、よろしくお願いします」
俺は改めて、みんなに頭を下げた。
ケルヴィン殿下たちは、ニコニコと笑って喜んでくれる。
「考え直してくれて、嬉しいよ」
「はい、フィオのおかげです」
そう、フィオが呼んでくれたから。
行かなきゃ、と、決心できた。
フィオは急に言われて、顔を真っ赤にしていたけれど、尻尾がゆっくり左右に振れだした。
耳をペタンと垂らして、上目遣いで俺を見ると、
「その顔、ズルい……」
と、言って俯いてしまう。
何がズルいのかわからないけど、可愛いな。
彼女の仕草は愛らしい。
「それで、みんなを仲間だと思うから、ちゃんと言っておきたいことがある。俺が、なぜこの力を得たのか。なぜみんなのところへ行けたのか」
俺は、これまでの経緯を話した。
わかってくれる人たちだと、思ったから。
話を聞き終えたみんなは、目を丸くして驚いている。
「そんなことがあったのか。いや、ネプォン義兄上ならやりかねないな。なあ、ギルバート」
「なんて奴らだ。胸糞悪いですね、ケルヴィン殿下」
「シ、シャーリー様がそんな……!」
「いや、ワシはかえって得心したぞよ。それに、自分からちゃんと明かしてくれるとはな。じゃが、読めぬのはイルハートじゃな」
みんな、それぞれ感想を言っていた。
特に魔導士ティトは、険しい顔になる。
確かに、イルハートの本心はわからないから、不安要素なんだよな。
「イルハートは、立ち回りの上手い女でな。ネプォン王と必ずしも、一枚岩ではない。アーチロビンに手を貸したということは、今後使える駒として目をつけた証拠じゃ」
彼女はそう言って、俺の前に片手を翳した。
な、何?
「古から続く契約に従い、我の前にその正体を現せ、ロッブド・ルフ・セピス」
詠唱が終わると、俺のブレスレットに怪しげな紋章が浮き上がる。
「なんだこれ!?」
「やはりな。追跡するための枝をつけていたようじゃな」
「枝……」
「あの女狐に、手を握られたじゃろ?」
「あ……」
「その時につけられたのじゃ。色香に惑ったか? アーチロビン。あの女はそうやって男を惑わし、己の都合よく使おうとするぞ」
魔導士ティトは、俺のブレスレットに手を重ねて、もう一度詠唱した。
「この者を解き放て、ルペスリーリス!」
ブレスレットから紋章が消える。
イルハートめ、やっぱり油断ならない相手だ。
妖艶な美女だから、ドキドキするのは仕方ないけど、都合よく使われるのは頭にくる。
「大魔導士イルハートか。臣下の連中のほとんどが、彼女に夢中だよ。ヤケドしてもいいから付き合いたい、てね」
ケルヴィン殿下が、ため息をついた。
まぁ、スタイルがいい美人だからな。
「あー、でもわからなくはないかな。後ろ姿の腰つきの、悩ましさときたら」
聖騎士ギルバートが、腕を組んでうんうんと頷く。
「体にぴったりフィットしたドレスも、スリットの深い切れ込みから見える足も、たまらないよな」
ケルヴィン殿下も、思い出すように目を閉じて語りだす。
「まぁ、確かに胸は大きいし、いつも胸元の開いた格好してるから、自然と目がいきますよね」
俺も思わず、彼女の容姿を思い浮かべる。男性三人で顔を見合わせ、
「いいよなぁ」
と、言ってしまった。
男のサガというか……イルハートがどうというより、単純にあの容姿は目を引くのだ。
ただ、それだけなんだけど。
「こんの、馬鹿どもが!! 疾く行きて、雷を招かん、ラサンダイト!」
魔導士ティトが、俺たちの頭に小さな雷を落とす。
「いた!」
「いて!」
「いったぁ!!」
「お前たち、既に奴の術中にハマっているではないか! 特に殿下! お目を覚ますのじゃ!!」
「す、すまん、ティト」
ケルヴィン殿下が、平謝りをしている隣で、フィオがプイッとそっぽを向いた。
「いやらしい! なんて人たち!!」
「す、すみません」
俺たち三人は、女性陣に頭を下げて反省する。
何やってんだか、俺たち。
痛む頭を撫でていると、コンコン、とノックの音がして、順番が回ってきたと言われた。
俺たちは、テキパキと入国手続きを済ませる。
トゥンカル・ミズ国は初めてだ。
先ずは情報収集だな。
俺たちは宿屋を取って荷物を置くと、街へ繰り出した。
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