仲間の救出
どれくらい、彼女と見つめ合っていたのか。
時を動かしたのは、なんとオウムのフェイルノだった。
「メ、トジテ、チュウ?」
と、いきなり大きな声で言ったのだ。
「!!」
「!?」
急に恥ずかしさが襲ってくる。
それは、フィオも同じだったようで、俺たちは慌てて離れた。
「あ、ありがとう。アーチロビン。急にごめんなさい」
「い、いや。俺の方こそ」
醒めたくない夢から、無理矢理醒めさせられたような感じだ。
俺たちの様子を見ていたフェイルノが、さらに余計なひと言を追加してくる。
「ネェ、ギュウ、オワリ? チュウ、スル?」
「やめろ! フェイルノ!」
俺は顔を赤くしながら、フェイルノを指先で軽く小突いた。
まったく、誰がコイツにこんな言葉を教えたんだ!?
じっちゃんか? まさかな。
「マ、マジックシールドを解くね。」
フィオも、恥ずかしそうにしながらマジックシールドを解いてくれた。
俺は照れ臭さを誤魔化そうとして、さっと石化した三人の元へ向かい、解呪の針を刺して石化から解放する。
「あー!」
「ふぅー!」
「いや、まいったな」
三人三様。みんな、固まった体をほぐしながら、俺を取り囲んだ。
「アーチロビン! 助けてくれて、ありがと」
聖騎士ギルバートが、真っ先にお礼を言うと、早速鏡を取り出す。
「よく見えない。イケメンのままかな、少し変わった?」
「いや、大丈夫だよ、ギルバート」
俺が答えていると、魔導士ティトも頭を下げてきた。
「すまんの、小僧。いや、アーチロビン。彼奴め、魔法がほとんど効かぬ化け物でな。無属性の魔法を放とうとして、石化してしもた」
「無事で何より、ティト。あとでじっちゃんのこと、話したい」
「ア、アーサーがなんじゃ? ワシはもう……」
「いや、知っていて欲しいんだ。その上で決めて欲しい」
「……う、うむ」
珍しく魔導士ティトの声が上擦る。聞いてくれるだけでも、嬉しいな。
俺は最後に、ケルヴィン殿下に向き合った。
「アーチロビン、来てくれたか」
ケルヴィン殿下が、嬉しそうに俺の肩をポンポンと叩く。
みんな、無事でよかった。
元気そうで、緊張がほぐれていくのがわかる。
「はい、ケルヴィン殿下」
「世話になったな」
「そのセリフは、フィオにおっしゃってください。俺が来るまで時間を稼げたのは、彼女のおかげです」
「フィオ……? そうか」
みんなの視線が、フィオに集中する。
彼女は、耳をぺたんと後ろに倒して、尻尾も中に巻いているようだ。
「すみません! みなさん、すみません!!」
フィオは何度も頭を下げる。
俺も彼女をフォローしようとした。
「どうか、許してあげてください。彼女も、初めての冒険で失敗したんです。俺も、他の冒険者の時にやらかしたことはあります」
それはもちろん、あのネプォンの時だけど。
俺の時は、ボコボコに殴られた。
その恐怖から、失敗を恐れて失敗を重ねる、負のスパイラルに落ちた。抜け出すのは、決して簡単じゃなかったことを思い出す。
失敗した時に必要なのは、反省と改善だ。仲間たちは怒ってもいいが、お互い様だと言うことを忘れてはいけない。
失敗そのものは、新人もベテランもやるものだから。
「もういい、フィオ」
ケルヴィン殿下が、率先してフィオに声をかける。
やっぱり、この人もその辺はよく理解してるようだ。
「そうだよ、フィオ。ボクら怒ってないよ? 悪霊がボクを馬だと騙されてくれていたら、問題なかったのにさぁー」
聖騎士ギルバートが、自分の馬の背をポンポンと叩く。
彼も、気さくな態度を変えたりしない。
よかったな、フィオ。
「お前の下手な変装なんぞ、悪霊にバレるに決まっとる! フィオ、ワシは少し怒っておるぞ?」
魔導士ティトは、腰に手をあてて、フィオの前に立った。
……おっと、彼女は、みんなと少し違うな。
あまり、キツく責めないでほしいのに。
い、いや、別に俺がフィオに告白されたから、甘くしろと思ってるわけじゃない。
それは違う。違うから!
「はい……ティト」
フィオは、上目遣いで彼女を見て、しゅんとなって聞いている。
「慌てん坊でおっちょこちょい。もう少し落ち着かんかい!」
「はい! すみません!!」
フィオは、もう一度深く頭を下げた。魔導士ティトは、それを見届けると、ハンカチを取り出す。あれ……? もう、怒ってないのか?
「……じゃが、必死にワシらが砕かれんようにシールドを張っていたようじゃな。悪霊にも、何度も襲われかけたろうに」
魔導士ティトはそう言って、フィオの汚れた顔を拭いてあげていた。
言うべきことは言って、フォローも忘れない。
こういう慰めは、ティトのような年長者がうまいよな。
「はい……」
「疲れたじゃろう。新人にはなかなかできぬこと。見事じゃ」
「ありがとうございます」
「おうおう、涙で濡れた顔をしてるようじゃな。アーチロビンに助けられて、奴の胸を借りたのか?」
ザワ! とみんなの空気が変わる。
魔導士ティト!? な、な、なんでそれを?
「な、な、ななななな!」
みっともなく、焦ってしまった。
ここが、薄暗い地下室でよかった。顔が赤いことがバレてしまう。
「えー! 嘘だろ? 女の子を胸で泣かせてあげるのは、聖騎士の役目だよ? アーチロビン」
「ギルバート、お前は石化していたじゃないか。無理無理」
「ケルヴィン様、それを言っちゃおしまいですよ!」
聖騎士ギルバートと、ケルヴィン殿下が揶揄うように笑う。
俺もフィオも、恥ずかしくてお互い反対側を向いた。お、俺もああなるとは、思わなかったんだ。まだ、胸がドキドキするぜ。
そんな俺たちの様子を見ていた魔導士ティトが、思い出すように遠くを見る。
「ほほほ、若い頃を思い出すわい。涙で何人の男を落としてきたことか……」
ん? てことは、つまり?
「え、ティト、じっちゃん以外に恋人がいたの?」
「おう、ワシはモテたぞ。一番ワシに惚れ込んでいたのが、アーサーだったというわけじゃ。……手の早い奴でもあったがな」
「え」
「いや、なんでもない。なーんでもないわい! それより、オメガゴーレムはどうなった?」
急に話を逸らしたな、ティト。
ティトは、急かすように俺の背を押してくる。
おおっと、はいはい、わかりました。
俺は、カンテラをかざして、みんなをオメガゴーレムのところへ案内した。
「ガー! ウゴカナイ! ウゴカナイ!」
フェイルノが、オメガゴーレムの頭にとまって、ツンツンと嘴でつついている。
「これこれ、そこのオウム。危ないぞ?」
魔導士ティトが、フェイルノを俺に返してきた。
「ありがとう、これは俺の相棒のフェイルノ」
俺はみんなに軽く紹介すると、オメガゴーレムを覗き込んだ。
ぴくりとも動かずに、まるで人形のよう。
「俺がいつものようにして、倒したんですけど、コイツの体から、ヘカントガーゴイルと同じ光が飛び出して、去っていったんです」
と、俺が言うと、フィオも頷いた。
「はい、私も感知しました。魔王ダーデュラの魂のカケラです」
フィオも感じたなら、間違いないな。
ケルヴィン殿下はそれを聞いて、腰に手をあて、考え込んだ。
「いよいよ、はっきりさせねばならんな。タインシュタ・フランのところへ行こう。」
そう、彼のところへ。
彼なら、何か知っているはずだ。
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