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72話 洪水を耐えた猫

約半年ぶりの投稿となりました。

4月に比べれば忙しさは落ち着きましたが、執筆の感覚がものすごい鈍っている気がします。

今後の投稿もかなりのスローペースになりそうですが、無理のない範囲で頑張ります。

 街の復興を手伝うためにモーターを回していたのだが、その途中で久々にあのカップルを見かけた。

 洪水の中で無事だったかどうか不安だったけれど、どうやらいらない心配だったらしい。


コトラさん(ミャー)、魚がここにもありました(ミャー)よ」


これだけ集めとけば(ニャー)しばらく大丈夫かな(ニャー)


 野良ネコのコトラ、そしてモモ。何かと会う機会の多い2匹組が、また今日も町中で何かをしているようだ。

 遠くからこっそりと様子を見てみると、道に打ち上げられている魚を運んでいる。洪水の影響はこんなところにも出ているもんだな。

 衛生的にはあまりよろしくないけれど、野良ネコたちにとって打ち上げられた魚は滅多にないごちそうなのかもしれない。俺も魚を吸い込むときにはコトラたちのために何匹かとっておこうかな。


 街を襲った洪水が終わり、街の中を動き回っているうちに、段々とトスネの街が受けた影響もわかってきた。

 既に水が引いている地区をみても、被害を受けた建物は数知れない。庭で育てていた植物が全滅していたり、白い外壁が泥にまみれていたりするのはまだましな方だ。どこかから流されてきたガレキが壁に凹みを生み出していたり、酷いところになるとドアが水圧に負けてぶっ壊されている家さえもあった。

 もちろん被害を受けたのは無機物だけではない。あれほどの洪水、犠牲者は1人や2人ではすまないはずだ。現に、俺だってビーバーから逃げる時に一人目の前で溺れ死んだのを見ている。

 あの人を救えなかったことは後悔として俺の心のなかに残り続けるのかもしれない。名前も知らない人だったが、安らかに眠ってくれることを祈るばかりだ。


 嫌な思い出ばかりが残るトスネの洪水だったが、そんな中でも生き延びた者たちはいて、これからのトスネの活力となってくれるだろう。

 例えばコトラとモモちゃんは、洪水が起きた時に、たまたま川から離れた場所にでもいたか、今も目の前で元気に食べ物を集めている。生き延びていてくれたのなら俺としても嬉しい限りだ。


 そういえば少し前にコトラとモモちゃんが子猫3匹を見つけて、面倒を見てあげていたよな。どこかに……あ、いた。

 近くの路端でじゃれ合っている子猫が3匹、前に見たときよりも元気になっているようで、コトラとモモちゃんの世話はうまくいっていることがわかる。

 こうして見ると、なんだか5匹のネコの家族みたいだな。それじゃ、その家族の生活をしばらく眺めて俺の心を癒やさせてもらうことにしようか……


コトラ様~(ゥナー)!」


ウゲ(ンャ)……」


 と、そんな時に後ろからパタタタとすばしっこい足音が聞こえてくる。

 その足音の主は、俺の機体を思いっきり踏んづけた上で、コトラに向かって飛びかかっていった。


ここにいらしたんです(ゥナ)ねコトラ様()!」


 明らかに迷惑そうな表情をしているコトラをよそに、1匹の黒猫がコトラにくっつかんばかりの距離にまで詰め寄って話しかける。子猫3匹もじゃれ合うのをやめて、警戒と興味が入り交じった視線を黒猫の方へと向けた。

 そして、少し離れたところからは、わかりやすく不機嫌な目をしたモモちゃんがその乱入者をにらみつけていた。



※以後、面倒なので鳴き声ルビ無しで書きます



「こちらをその気にさせておいていきなり消えるなんて、会えない間は思いをつのらせていたのですの!」


 えーっと、俺の知らんところで何かがあったみたいだな。何があったんだろう。

 頭の中を一瞬よぎったのはコトラの浮気だったけれど、コトラの様子を見る限りではそういったわけでもなさそうだ。

 唐突に現れた黒猫に対して、コトラはただ迷惑そうな、そして面倒くさそうな目を向けているだけである。焦る様子がないってことは、モモちゃんに対してやましい気持ちはないんだろう。


「いや、カラスがオレの魚奪っていったからムシャクシャしてやっただけで、そこにアンタがいたのはただの偶然だけど」


「でもわたしを助けてくださった事実は変わらないのよ! あのままだったらわたし、この毛並みが汚されてしまったかもしれなかったの!」


「どういたしまして、そんなに気にしなくていいから」


「いえ、それではわたしの気が収まりませんの!」


 やたらと押しが強い黒猫に対して、コトラは受け流すような返答を続けている。

 話を盗み聞きしたところによると、この黒猫(名前はシズだとか)がカラスに襲われているところを、コトラが助けた……というのは黒猫(名前はシズというらしい)の談。

 真相としては、カラスに魚を奪われたコトラが、いらいら募って手近にいたカラスを攻撃したみたいだ。

 魚を奪ったカラスと、コトラが仕返ししたカラスは別らしい。後者のカラスに合掌。まあこの街のネコを襲っていたからには、同情するようなことはないけれど。

 コトラのそっけない返答に対しても全くめげるような様子もなしに、シズという黒猫は強くコトラを見つめ……そこでいよいよガマンが効かなくなったのか、コトラの彼女であるモモは前足で黒猫を押しのけた。


「コトラさんから離れてください、コトラさんは私の大切なパートナーなんですから」


 あまり大きな声ではなかったが、ハッキリと明確な意思を持って敵を排除する。そんなモモちゃんに対して、素直にかっこいいなあと思う自分もいた。

 シズは大人しくすごすごと引き下がるか、それとも自らの信念を貫いて敵対することを選ぶか……どう転ぶかを期待しながら眺めてみる。シズの第一印象をみた感じでは、後者のほうが有力かな……と考えていた。

 そして、その予想はほぼ正解した。やたら押しの強い黒猫はモモちゃんを(物理的に)押し返し、強い口調でこう言う。


「貴方がコトラ様をどう思っているかは、わたしには関係ないですの! 例え貴方のほうが先にであっているとしても、わたしはコトラ様を愛します!」


 やべえぞ、とんでもない昼ドラだ! 昼ドラなんてろくにみたことないからイメージでしかないけれど、この流れは昼ドラだ! お魚くわえた昼ドラ猫だ!

 勢い良くまくし立てるシズに対抗するかのように、モモちゃんも声を荒げるようにして対抗する。


「コトラさんにハーレムなんて必要ありません! 私一人で十分です!」


 コトラハーレム!? なんて甘美な響きだ。会員の申請はどこで受け付けているんでしょうか! 会費はいくらでも払うんで、今すぐに入れてください!

 ヒートアップする2匹の戦いと、全く関係ないところで盛り上がっている俺をよそに、話の中心にいるはずのコトラが何をしていたかというと。


「あっ、ちょっと、勝手にどこかいくんじゃないって! この前迷子になった時、探すのすごい大変だったんだからな!」


 ……自由に動き回る3匹の子ネコたちを、なんとか一箇所に押しとどめようと奮闘していた。

 意外と面倒見いいんだな、コトラ。




 モモちゃんとシズはその後もしばらくの間ギャーギャー騒いでいたが、最終的には今のコトラにその気がないということだろうか、悔しそうな顔をしつつも、シズはひとまずのところは引き下がっていった。

 傍から見ている分には面白かったぜ。それとモモちゃんはグッジョブ。

 って、こんなことしている間に結構な時間がすぎてしまった。いつの間にかネコたちの姿は遠くに離れていってしまったし、今さら追いかけるのも変な話かな。だいたい今はネコたちとじゃれ合い続けられるほど暇でもないのだ。

 町中に未だ残る水の排除、流れ着いたゴミの処分。あの巨大な城塞ビーバーを吸い込んだとはいえ、水に濡れたことで失ったエネルギーの補充は急務の問題だ。

 街のためにも俺自身のためにも、この街をきれいにするため……って、またボトルメールが落ちてる。これで4本目かよ。


「あ、ポルカじゃないですか」


 曲がり角の先で見かけたボトルメールを吸い込もうと進んでいる時、不意に前の方から声が聞こえた。

 あれはルーカスか。ボズといいコトラといい、今日は知り合いによく会う日だな。これだけの大事件が起きた町中を歩き回っていれば、それも当然かもしれないけれど。

 軽く電子音を鳴らしてあいさつをしたのち、目の前に転がるビンの方へと向かって……そのビンを、ルーカスにヒョイッと拾われてしまった。


「またこのガラス瓶ですね。ちょっと中身確認させてもらいますよ。空きビンは欲しいですか、ポルカ?」


「ピンポン♪」


 俺にとってはただのゴミとしてしか認識していなかったボトルメールだけれど、ルーカスはそうでもないらしい。この中に入っている紙がなんなのか、俺も気にはなるけれどな。

 宝の地図だったら夢があるし、異国からのメッセージだったら想像が膨らむ。ルーカスが気にしているとなったら、魔法関連の何かかもしれない。

 ビンの口に刺さっているコルク栓を、力任せに抜くと、ルーカスは残ったビンを俺のほうに無造作に転がす。ついでに背負っていたカバンの中に手を突っ込むと、空のビンを5本ぐらい取り出して追加するように転がしてきた。

 何でこんなにあるのかとビックリしつつも、特に何の問題もなく全部吸い込んでいく。少ないけどエネルギーの足しにはなるだろう。

 最後の1本を吸い込んだタイミングで、ルーカスは紙片に一通りの目を通し終わったらしく、ハァとため息をついた。ビンの中の紙を見たはいいけれど、その内容には肩透かしをを食らったみたいである。

 どうしたのかと思って疑問の電子音をあげてみると、ルーカスはその内容を俺に見せてくれた。


「これで7枚目ですけど、全部同一の手紙っぽいですし、全く読めませんね。僕の知っている言語のどれとも違いますし、ポルカ君は何か知ってますかね?」


 んー、どれどれ……『Hey Polka! surprised? It's message for you from your father Aerocontam』

 英語かあ、確かにこれはこの世界の人達には読めないだろうなあ。……


『ピポペポ!!??』


「うわっ、どうかしましたか、ポルカ?」


 驚きのあまり甲高い電子音を発してしまい、ルーカスからは心配するような目で見られる。

 なんだこれ、なんでこんなもんがこの世界にあるんだ。えっと、えーと、英語には自信がないけどがんばって翻訳しようか。幸いそんなに難しい文章じゃなさそうだし……えーっと、『やあポルカ! 驚いた? これは君への手紙だ、君の父より Aerocontam』

 はぁ!? 父より!? 知らん間に俺の父親もこの世界にやってきたのか?

 でも俺の父親はごく普通の日本人だぞ。なんで英語で手紙なんて送ってくるんだよ。あと、Aerocontamってなんだ、アエロコンタム……コンタム……?


「同じものあと6枚持っているので1枚ぐらいあげますけど、ほしいで」


『ピンポン♪! ピンポン♪!』


 ルーカスの誘いに全力でのり、手紙を1枚ゲットする。

 何がなんだかよくわからないけれど、この手紙には俺の想像もつかないような深層が待ち構えているような、そんな気がした。


 ……とりあえず、1ヶ月以上英語の勉強をしていない頭でどこまで読めるかが目下の問題かな。

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