69話 ロボット掃除機の存在価値
とりあえず聞きたい。俺をこの世界に召喚したその厄神とやら、名前は何ていうんだ?
「召喚っていうとどうにも語弊あるザマスがねえ、まあ、エアロコンタムって名前ザマスよ」
降り続く雨の中で、別の次元から通信をしてくるソイルコンタムに質問を投げかける。
こいつのことだしまたなんかはぐらかすようなことを言ってくるかと思ったが、意外にもすんなりと教えてくれた。
土コンタム、水コンタムときて、大気コンタムか。そいつもやっぱりそっちの次元にいるんだろ? 直接話せるように取り持つのは……
「あー、エアロコンタムは行方不明ザマス」
ちょいちょい。それホントかよ? また俺をからかって煙に巻いているんじゃないだろうな!
「アイツ、諸事情あって次元移動……つまり、ポルカがいるほうの次元に向かったことはわかっているザマスがねえ。それ以降の足取りはつかめていないザマス」
とんでもないことを言ってくれるソイルコンタム。厄神がこっちの世界に来ているのか?
アクアコンタムみたいに何処かで人間を殲滅しにかかるとか、そういったことをしているんじゃないんだろうな!
「そこまでは知らないザマスが、余り心配することないザマスよ。多分」
不安だ……けど、会ったこともないし消息もわからないようなやつの情報を掘り下げたところで意味は無いな。
それよりは、なんで俺がこの世界に連れてこられたかを聞いておきたいのだが。
「それは話せば長くなるザマけど…… 唐突ザマスがポルカ、『癌』という病気を知っているザマスか?」
え、ガン? 知っているか知らないかで言えば、そりゃ知っているけど。
「今の厄神は、大きく2つの勢力に分かれているザマス。人間をこの世界の癌と見なして排除しようとする勢力と、排除はしなくとも程々に抑えようとする勢力があるザマス」
そんなん初耳だが。放ってくれるという選択肢はないんだな。
俺の予想で言えば、アクアコンタムはどう考えても前者だろう、そしてソイルコンタム、お前は後者のほうか?
「正解ザマス。時にポルカ、癌はどうやって生き物を殺すか、知っているザマスか?」
え? えっと……増えて、転移して……なんか変な毒素でも出すんだっけ?
「違うザマス、癌は生き物が生きるのに必要なエネルギーを奪い取って増殖する細胞ザマス」
ああ、栄養失調を起させて生き物を殺すのか……で、それがなにか?
「人間も同じ。無制限に増殖させているようじゃ、いつかこの世界のエネルギーを吸い付くし、世界を道連れにして滅びると言われているザマス。事実、別世界でそうなった人類を私たちは何度か見てきたザマス」
なんだか高尚な話になってきたな。人間は増えすぎてはいけないってか。
「それが厄神の存在意義の1つらしいザマスね。でも、それに真っ向から反対したのがエアロコンタム、私の知り合いザマス」
ん、そこでそうつながっているんだ。エアロコンタムは2つの勢力のどっちにもついていないってことか?
「その通りザマス。そういえばアイツはこんなことも言ってたザマスねえ……『ポルカが人間の滅亡を防ぐ』って」
待て待て待て待て、話が壮大になりすぎてついていけんぞ。
俺ってただのロボット掃除機だぞ? 一応高性能であることは自負しているけれど、それがどうやって人類を滅亡から救うんだよ。
「さあ? 私にもアイツの言ってることはサッパリわからなかったザマス。知りたいならポルカの世界の何処かにいるエアロコンタムに、直接聞けばいいと思うザマス」
とんでもない無茶振りをしてくるなコイツ。俺はトスネから出たこともほとんどないのに、姿かたちもどこにいるかもわからない奴を探せと言うんかい。
オマケに俺、喋れないしな。人探しもできないや。あれ? これって詰んでね?
「まあエアロコンタムについて言えることはこれぐらいザマスかね。まあ、時間はたっぷりあるザマしょう。ゆっくり探せばいいと思うザマスよ」
最後にそれだけいうと、ソイルコンタムの姿もアクアコンタムの後を追うように消えて見えなくなってしまった。
ソイルコンタムにしてはわりと色々なことを教えてくれた気がする。感謝するほどの義理はないが、とりあえず満足の行く結果だったと振り返っておくべきだろう。
俺をこの世界に呼び出したのは、厄神のエアロコンタム。今はそれぐらいの情報しかないけれど、これがもしかしたらすべてを教えてくれるカギになるかもしれない。
なんでこの世界に連れてこられたのか。なんでロボット掃除機なのか。俺がこの世界で何を望まれているのか。
俺の知りたいことを、エアロコンタムというやつが握っているのだ。可能であればできるだけ早くそいつを見つけ、話を聞かせてもらうことにしよう。
既に地面を覆っている水の深さもふくらはぎぐらいにまでなり、ノエルは屋根から地面に降りて水を撒き散らしながらキアレおばさんの家へと進み続けている。
土砂降りの中では汗こそ洗い流されるが、口から漏れ出るいまにも切れてしまいそうな息は、ノエルの身体がとっくに限界を超えていることを教えてくれた。
それでもなおノエルは止まることがない。家族の様子を確認するために、ただひたすらに重い体を引きずって家路へと急ぐ。彼女の体を動かしているのは、今や気力と根性だけであった。
そんなノエルの疾走も、もうゴール間近だ。豪雨のせいで見通しこそ悪いが、あと10メートルも進めばドアが見えてくることだろう……
「お母さん! 安静にしててよ! お姉ちゃんは私が探しに行くから!」
「シェリーは家にいなさい! 大丈夫、すぐに見つけて戻ってくるから!」
ゴールであるドアの前では、よく見知った二人の人物が言い争いをしていた。
聞き馴染んだ二人の声を耳にして、安心しきったようにその走りを止めたノエル。
緊張の糸がフッと切れてしまったのか、俺を抱えてそのまま気絶、地面へと倒れ込んでしまった。
幸いにも下は水だから、怪我することはな……
「ごぼっ! ごぼぼぼ!」
『たすけてください! たすけてください!』
最後の最後で台無しにする。そんないつものノエルに何とも言えない安心感を覚えつつ、急いで大音量のエラーメッセージを流した。
おかみさんとシェリーがこちらに気づき、急いでノエルを抱え上げて家の中へと運んでいく。
シェリーもちゃんと避難できたみたいだし、おかみさんも無事で何よりだ。
あとはノエルが風邪を引かないように祈りながら……俺も今日は休むことにしよう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
トスネで大洪水が起き、城塞ビーバーとの戦いを終えた翌日のこと。
前日あれほど凄まじい雨だったのが嘘のように、空はきれいな青空であった。
ともすれば昨日の出来事が全て夢だったのではないかとも思ったが、未だに地面を覆っている水を見ると、夢オチなんて可能性はないか。俺のランクもポルカⅢに上がったままだし。
「ポルカくん、おはよー」
あ、ノエルがボサボサの頭をかき上げながら俺に朝の挨拶をしてきた。
あれからノエルは泥のように眠り続けて、全く起きる気配がなかったので、シェリーとおかみさんが二人がかりで濡れた服を着替えさせてからベッドにまで運んだみたいだ。もちろん俺はその時は別の場所にいたよ。
「うーん、あれ? さっきまで私はポルカくんと一緒にでっかい化け物と戦っていたような気がするんだけど……あれ? 夢だったのかな」
『ペポー』
「まあいいや。おかーさん、おなかすいたー」
ノエルは疲れのあまりに記憶が混濁したようだけど、俺はちゃんと覚えているよ。
彼女が家族を、トスネに住む住人たちを守るために、必死で戦っていたことを。




