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64話 城塞ビーバーとの戦い4

 城塞ビーバーの短い前足がこちらに向けられたということは、高速の水玉が来るな。

 心の準備を……はい来たぁ! [魔法吸引]!


水弾も消すか(ギュ)この野郎が(キュ)


『ピンポン♪』


 ノエルと俺 V.S. 城塞ビーバーの戦いは、こう言っては何だが、始まってしまえば思ったより絶望的なものではなかった。

 城塞ビーバーもこちらを警戒しているのか、すぐ近くまで近づこうとすることはない。必然的にお互いに魔法で攻撃する遠距離戦を強いられてる。

 魔法による攻撃なら、俺が持っている[魔法吸引]で防ぐことが可能だ。事実、戦闘が始まってからノエルには魔法の一つもかすっていない。


「炎よ敵を燃やしつくせ (セプタプル)炎球ファイアーボール!」


こざかしいっ(ギャギャ)!」


 俺があらゆる魔法を吸引できる一方で、城塞ビーバーも水魔法を使うことでノエルの魔法を防ぎ続けている。

 あんな図体していながら、守りを固めるのが得意な魔物のようだ。時として水の鞭をいくつも重ねたり、強く振るうことで炎魔法を弾いたりする。

 ノエルが出した7個の炎球でさえも届かない。それを上回る数の鞭が、あるものは吸収し、あるものは弾き、もとより当たらない軌道を走る炎球ごと消してしまう。

 

 水の使い手に対して炎で挑むなんて、ゲームで考えれば愚行中の愚行だ。この世界でも非常に相性が悪いのは間違いない。

 お互いに決め手がないのだ。攻めるための魔法も決して脆弱なわけではないが、それ以上に守りが強すぎる。


「よし、この調子で行くよ、ポルカくん!」


『ピンポン♪』


 だけど、それでいい。俺とノエルの目的はあくまでコイツを足止めすること、そしてこれ以上被害を拡大させないことだ。

 一番困るのが、俺らを無視してそのまま町中へ向かってしまう展開である。それを防ぐためにもノエルには攻撃し続けてもらいたい。


「火炎よ螺旋の監獄となれ 炎渦(ファイアースピン) 範囲パターン5!」


上か()ふんっ(キュ)


 ルーカスに教えてもらった『範囲パターン』。予め魔法の軌道をいくつかのパターンに設定しておくことで、魔法を制御しやすくなる一つのテクニックだという。

 ノエルが使った範囲パターン5は、山なりに魔法が飛んでいく軌道だった。いままで直線的な魔法しか使っていなかったから、ここで曲がる炎を使うことで相手をひるませる効果でも狙ったのかもしれない。

 結果としては、水の鞭と再び放たれた激流によって、炎渦はかき消されてしまうのだが。


いーかげん(ギュ)この水も(ルル)沸いてきたな(ギュ)


 城塞ビーバーはそう言うと、複数の鞭をミサンガやしめ縄みたいに一本にまとめ、こちらに向けて振りかぶる。

 今までのどの攻撃よりもデカイけど……吸い込めるよな!? 大丈夫だよな!?


「ポルカくん、おねがい!」


 俺の持ち手を掴み、前方向へと掲げるノエル。今の俺はさながら彼女を守る盾ってところか。ロボット掃除機からえらく出世したもんだ。

 そんな真剣な顔して頼まれたなら、応えなければ男じゃないよな。絶対に守ってみせる!


てめえらも(ギュ)ダムにしてやるよ(ラゥ)!」


 意味がわからない決めゼリフとともに、横殴りに襲い掛かってきた水魔法を、焦ること無く[魔法吸引]で吸い上げる。俺から見て半径2メートルぐらいの範囲に入った水が、俺の中に吸い込まれるようにして消えていった。

 吸い込むたびに微妙にダメージを受けるが、この程度なら許容範囲だ。ノエルには水魔法の一滴も触れさせてなるものか。


あぁ(ギャ)!? また消しやがった(ギャッ)!」


 ブチ切れているようだが、そのすきを突いて放ったノエルの魔法もきっちりと止めているあたり、周りを見失っているようには見えない。

 時間を稼ぐだけならそこまで難しくはないけれど……やっぱり俺達だけで倒すのは無理がありそうだ。

 早く援軍が来てくれることを祈りながら、城塞ビーバーの動きに備える。また性懲りもなくデカイ水の塊を生み出して……おい、ちょっと待て。目線がこっちじゃなくて、下の方を向いているぞ。


じゃあ、その足場を(グュ)ぶっ壊す()!」


 向かってきた水魔法は、俺たちではなくてこの家を破壊しようと襲い掛かってくる。

 壁がぼろぼろと壊れる音がし、足元がグラグラ揺れ始めた。


「うわっ、ちょっと! ポルカくんあれをどうにか……」


 ノエルがそういうも既に遅い。壁が崩れたかと思うと、屋根が傾いて水の中に1/3ほど浸かってしまった。

 ノエルは慌てて崩れたところとは逆方向へ逃げようとするも、土砂降りに濡れ、水流に揺らされている屋根の上で踏ん張れるはずもない。転ぶようにして屋根の上を這う。

 決して俺から手を離さないのは、恐怖からか、信頼からか。いや、それを考えるのは後回しだ。ここは一旦屋根に吸い付いて彼女を落ち着かせないといけない。


「うわあぁ、来ないで! こっちに来ないでよぅ!」


 ノエルが叫ぶ。見れば、水に使ったところから小さいビーバーがのそのそと上がってきていた。

 先ほどの男が辿った悲劇的な末路を自分に重ね合わせているのか、今にも泣きそうな声だ。慌てて魔法を発動させているが、パニックになった状態ではコントロールが効かないのか、ほんの至近距離なのに炎玉ファイアーボールが当たらない。

 俺が守ると決めたんだ。どんなに絶望的な状況でも、あがいてみせよう。[中性洗剤]発動!


うわっ(キュッ)!?」


ボス()! 滑って上れやせん(キゥ)!」


 中性洗剤を屋根の上にぶちまけることで、滑りを良くしてビーバーが上ってくるのを防ぐ。土砂降りで薄められないか心配だったけれど、その効果は充分みたいだ。

 滑り落ちて水の中へと戻っていったビーバーたちに対して、止めることなく発動し続けた[中性洗剤]がさらなる効果を発揮してくれる。


ボス()! 目が染みやす(クュ)!」


不快っす()! ここから離れやす(ルル)!」


 水の中にドボドボ入っていく中性洗剤がビーバーの不快感を刺激したらしく、勝手に逃げてくれた。

 よほど不快だったのか、泳ぎ方までジタバタとした無様なものになっているけれど、そんなものを見て楽しんでいる場合じゃないな。

 周りのビーバーが大体いなくなったところで、ノエルは体勢を立て直す。とはいっても足場は傾いている上に、俺が出した中性洗剤のせいで非常に滑りやすい状況だ。立ち上がりはせず、座った状態で再び城塞ビーバーと目線を合わせた。


腰抜けどもが(ギュア)! 目が染みるぐらいで(ギャ)なんだ()!」


 城塞ビーバーはというと、かなりの怯えを見せてしまったノエルに対して、恐れるに足りないと判断したのだろうか。ザブザブと音を立て、こちらに向かって泳いでくる。

 マズイ。俺は魔法を吸引することはできるが、物理攻撃からノエルを守ることはできない。もしあの巨大な前歯で噛み付いてきたりすれば、その先に待っているのは良くて大怪我、死ぬ危険だってある。


「ほ、炎よ不可侵の域を生み出せ 炎壁ファイアーウォール!」


 ノエルが魔法の詠唱を終えると、俺達の目の前に巨大な炎の壁が生み出される。この魔法は初めて見るな。防御用の炎魔法だろうか。

 水上から炎が立ち上がり、視界が塞がれる。城塞ビーバーの姿は見えなくなったが、逆に言えば向こうからもこちらを見ることはできていないはずだ。


「ポルカくん、一旦移動しよう!?」


『ピンポン♪』


 最初の方はまだやりやすかった。足元も揺れることはないし、相手の魔法攻撃はすべて俺が吸い込むことで対処できた。

 今は状況が違う。相手が物理的に責めてくるとすれば、圧倒的に不利なのはこちらだ。近づいてくる城塞ビーバーからはなんとしてでも離れないといけない。

 他の崩れてない屋根に移動してから、また時間稼ぎを始めても良い。ノエルは既に十分なほど働いているのだから、逃げたとしても誰も文句は言わないはずだ。


 炎の壁とは反対方向に動き出し、水の中に飛び込むノエル。俺の吸い込み口を家の壁に向けたので、何をしてほしいかを察して[デッキブラシ(長)]を発動する。

 デッキブラシが壁を押すことで一気に5メートルほど移動、少し距離を稼いだが、これだけじゃ終わらせない。

 久々の[高圧水噴射]を発動し、後ろ向きに吹き出すことでさらなる推進力を生み出す。

 周りからやってくる小さいビーバーたちも、この噴射で追い払う。

 城塞ビーバーが俺たちを見失っているスキに距離を取りたいところだ……


てめえから水に(ギュ)飛び込むたぁ(ギリ)舐めた真似だなぁ(リリ)!」


 気づかれるの早すぎだろ!

 既に目線をこっちにロックオンした城塞ビーバーが、荒波を立てて泳いでくる。ロボット掃除機を抱えた人間と巨大なビーバー、どちらのほうが泳ぎが上手いかなんて、考えるまでもない。

 まずい、このままじゃあっという間に追いつかれる。高圧水噴射を城塞ビーバーに向けて放つも、ほとんど気にしてないようだ。

 これが俺一人だったら、すべてを投げ出しワープで逃げるという選択肢もあったのだろうけれど、今の俺はノエルの命も抱えているんだ。どんなに無様でもあがき続けるしかない。

 さっき、小さいビーバーたちが嫌がっていた中性洗剤、これが城塞ビーバーにも効くことに一縷の望みを託すか? それとも5メートルのデッキブラシをノエルに振り回させることで撃退を狙うか?

 もう城塞ビーバーとの距離はほとんどない。覚悟を決めて、[中性洗剤]を発動しようとしたときである。


「ギュルルゥ!」


 唐突に、城塞ビーバーが前足を水面から出す。その前足には水の鞭が握られていた。

 ここで不意打ちの魔法攻撃か!? くそ、間に合ってくれよ! [魔法吸引]!



 だが、発動した[魔法吸引]がその水の鞭を吸い込むことはなかった。

 水の鞭は、俺達に向かって振り下ろすために発動したものではない。ただ、城塞ビーバーが自衛のために振るったものである。


「防がれましたか。厄介な相手ですね」


「俺達のトスネをメチャクチャにしやがって。ひと思いに殺してもらえると思うなよ」


 城塞ビーバーは飛んできた氷をいなしてから、その出どころを睨みつける。

 少し離れた建物の上に、いくつもの人影を確認することができた。

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