表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
61/76

60話 雨中のライフセーバー

 びっくりである。

 先程取得した[デッキブラシ(長)]なのだが、これがメチャクチャ伸びるのだ。

 具体的に言えば、建物の3階には届きそうなほど。数字で言えば5メートルを超えているように見える。

 これ、どう考えても業務用のデッキブラシだよな。水族館の水槽を掃除する時にこんな長さのものを使っているのを見たことがあるぞ。

 まあ、長いことに文句はない。長さの調節はできるのだし、むしろ便利な機能であるといえるだろう。



 デッキブラシの確認をしている間に、前を走っていた騎士二人が目的地についたようでスピードを緩めた。ノエルが魔法の特訓をしているところからは少し下流だ。

 一人の女性が雨の中で膝をついて泣き崩れ、川のほとりでは何人もの人が目の上に手をかざして子どもを探している。騎士も何人かいるが、半分以上は近隣の住民みたいだ。

 そんなわけで、川にたどり着いてしまったノエルと俺。こうなったらもう腹をくくって、子どもを探す手伝いをすることにするか。


 今日のトスネを流れる川は、普段とはかなり異なる姿をしてる。川底は全く見えず、土手をちょっと降りたらもう水面だ。

 いつもなら足首かふくらはぎぐらいまでしかない深さの川は、今日だけは人の身長より深い湖と化していた。

 流れる水はそこまで速いようには見えないが、子どもなら溺れても何ら不思議ではない。正直いって、子どもを見つけられる可能性は高くはないだろう。


「ポルカくん、さっきやたらと長い棒を出していたよね? あれで川底を探せばいいのかな?」


『ピンポン♪』


 もともとの[デッキブラシ(長)]を取得した理由はそれじゃない気もするが、この長いデッキブラシが子どもを探す時に役に立つことはノエルも理解しているらしい。

 ひとまずノエルには川に入らず、岸辺から棒を使って探すことに決めてくれたみたいだ。絶対安全とはいえないが、ものすごく危険ということはないだろう。

 傘を脇に挟んで、俺の機体が濡れないように配慮しながら、ノエルの手が俺の吸込口を水面に向ける。

 見つけられる可能性が低いとか、もう手遅れだろうとか、そんなことは一切考えていないかのような真剣な表情である。ならば、俺もそのノエルの意思に従わないとな。

 先程習得したばかりの[デッキブラシ(長)]を水面に向けて放つ。5メートル超の長さまで伸びたそれは、あっさりと川底にまでたどり着いた。


「ふんどらせっ!」


 妙な掛け声とともに、ノエルが俺の体を揺らす。デッキブラシの先が川底をこすり、そこに人がいないことを教えてくれた。

 デッキブラシを収納することはしない。そのまま発動を継続した状態で、ノエルが移動しながら川底を探る。

 水の中に突っ込んだ棒をかき回すっていうのは見た目以上の重労働だ。オマケに先端の一方にはロボット掃除機がくっついているし、ノエルの腕に掛かる負担は相当なものだろう。

 案の定、数分も川底をかき回していると、ノエルの顔には少し疲労の色が浮かんできた。しかし腕は止めること無く、むしろさらにガムシャラに動かしていく。


『プゥン?』


「ん、まだ見つからないよ! もっと頑張らないと!」


 手がかりも何もないなら、総当たりで探すまでだという強い意志が垣間見える。

 俺はただ動かされるがままだけど、気を抜くことはない。一刻も早く子どもを見つけるため、デッキブラシの先端に意識を集中しよう。



 ところで、そんなに大したことではないのだがちょっとした疑問がある。

 川の流れ、遅くないか?

 これだけの豪雨が発生しているなら、それはもう暴れ狂う龍のような濁流になると勝手に思っていたのだけれど……全くそんなことはない。ノエルはデッキブラシを流れに逆らって動かせるし、騎士の中には川に入る人までいる始末だ。

 川の流れが遅いからと言って別段困ることはないし、むしろありがたいんだけれど……なんかの不自然さを感じる。


「うぅ、見つからない! ポルカくん、何か気づいたことはある!?」


『ペポー』


 ノエルの頑張りもむなしく、手がかりすら見つからないままに時間だけが過ぎていく。

 探し始めて10分は既に経過しているからな。ノエルの腕にはかなりの乳酸が溜まっているはずだ。


『つかれ プゥン?』


 ほとんど使っていない音声『つかれました』を途中でキャンセルして、大丈夫かどうかを訊いてみる。余り無理をしているようだったら止めないといけない。


「疲れ? 大丈夫だよ! それよりどこにいるか早く見つけな」


「ノエル! やっぱりここにいたの!」


「ひゃうっ、お母さん!?」


 後ろから突然聴こえてきたのは、おかみさんの声だった。

 いつの間に来ていたんだ。全く気づかなかったぞ。



 おかみさんの姿が見えたが、怒っているというよりはもう呆れていると言った感じだ。

 一旦俺もデッキブラシを消して、ノエルとおかみさんとの対話をさせることに……あれ、シェリーもいるぞ。家で待っているはずじゃ?


「なんでシェリーまでいるの?」


「多分お姉ちゃんと同じ理由だね、ちょっと外が騒がしかったから聞き耳立ててみたら、子どもが川に落ちたって聞こえたんだ」


 なんと、シェリーまで捜索に加わっていたとは。だけどまだ見つかってはいないようで、軽く首を横に振っていた。

 おかみさんはというと、深い溜め息をついてから、子ども二人の気持ちを確かめるように一言尋ねる。


「ノエル、シェリー、他の人に任せて帰る気持ちはない?」


「「ない」」


 あまりにも端的な二人の言葉に、少し苦笑をしたおかみさんだったが、すぐさま真面目な表情に戻るといつものようにテキパキと指示を出す。


「だったら、絶対にシェリーはノエルから離れないで。もしノエルが川に落ちたら、シェリーは自力で助けるんじゃなくて、まずは周りの騎士さんに教えること」


「ちょっとちょっとお母さん、なんで私が川に落ちること前提なの?」


「わかった。お姉ちゃんはウチが見張っててあげるね」


「シェリー!? 私のこと、そんなに信頼できないの!?」


 なんだか馬鹿な会話をしているけど、おかみさんはおそらく二人を別行動させたくないだけだろう。

 二人がバラバラになってしまったら、おかみさん一人では見張れないから。連れて帰るのが無理そうなら、せめて無事に終わるまで見守っていてあげたいという親心だ。

 シェリーはそのことをちゃんと理解しているみたいで、ノエルも……まあ、多分理解できているだろう。多分。


 再び川の方を向き、デッキブラシを伸ばして川底を探索する。今度はシェリーも手伝ってくれるようで、数分ごとに俺の操作を交代しながら人が沈んでいないかを確かめていた。

 しかし見つからない。既に探し始めてから20分以上経過しているし、溺れ沈んだなら生きている可能性は限りなく低い。

 子どもの母親や騎士たちも、そのことは薄々わかっていることだろう。このまま死体を見つけてしまうのか、生死不明で押し通すのか、どっちが辛いのだろうか……

 と、俺の中にそんな諦観が生まれていた頃である。


「おい! 下流の方で見つかったぞ! まだ生きている! 救出を手伝ってくれ!」


 川下から騎士が一人走ってきた。思いもしなかった朗報と共に。

 ノエルはその言葉を聞き終わる前から川下に走り出していた。少し遅れてシェリーが、そしておかみさんが追いかけてくる。

 デッキブラシは邪魔だな、一旦しまっておこう。

 地面を浸す水を跳ね飛ばしながら、ロボット掃除機を抱えて川下へと急ぐノエル。その顔は喜びというよりは、ただ使命感に燃えていると言った感じであった。



「……なにあれ?」


『プゥン?』


 川の中央付近にて、一人の騎士が男の子を脇に抱えていた。鎧は流石に脱いでいるみたいだけれど、こんな濁った川で服を着たままライフセービングしてくれた騎士は立派というほかない。

 だけど、その後ろにあるものが謎すぎる。


「川の中に壁……?せき止めているみたいだけど、こんなものあったっけ?」


『ペポー』


 ゴミ拾いで何回かこの辺りを通ったことはある。そのときに川を見たけど、こんなものがあった記憶はない。

 土の塊……土だけじゃないな。木とか石とか、そしてゴミとかが固まって川をせき止めていた。

 なんだあれ。ものすごく好意的に見るなら、川に落ちた子どもを助けるために誰かが用意してくれた壁か? なんかこう、魔法の力によって作った的なさ。


「って、そんなことはどうでもいいや。ポルカくん、またあの長い棒を出して!」


『ピンポン♪』


 俺の思考も、ノエルの一言で中断される。正体不明の壁のことは気になるが、あれのおかげで子どもが遠くへ流されず、無事に生還することができたのかもしれないな。

 壁について考えるのは、子どもを助けてからでも遅くないだろう。[デッキブラシ(長)]発動!


「騎士さん、この棒につかまってください!」


「すまーん!助かるぅ!」


 ノエルが目一杯手を伸ばした状態で、デッキブラシの先端を騎士に差し出す。当然ながら俺は豪雨に打たれてしまい、数秒に1回エネルギーが減っている。

 まあそんなこと気にしているときじゃないよな。よし、デッキブラシの先端を掴まれた感触があったぞ。

 それと同時に俺をノエルが引っ張ろうとするも、ぬかるんだ地面ではなかなか力が入らないようだ。

 しかし、今は周りに人がたくさんいる。手伝ってくれる人は多い。ノエルをシェリーが引っ張って、シェリーをおかみさんが引っ張って、おかみさんを騎士が……こんな昔話、どっかで見たことがあるんだけど。

 つーか良く考えたら、俺がデッキブラシを短くすればいいんじゃね? 縮め、如意デッキブラシ!



「よかった、ほんとうによかった、ダニー!」


「うぅー、生きているって素晴らしいねポルカくん……クチュンッ!」


 川の近くの民家にて。騎士団が事情を説明したら、住んでいた爺さん婆さんが部屋の一角を快く貸してくれた。

 親子感動の再開の傍らで、ずぶ濡れのノエルが騎士や子供と一緒に暖炉にあたっている。


 騎士を引っ張るためにデッキブラシを縮めてみたが、引っ張られたのはノエルの方もだった。作用反作用の法則はこの世界でもちゃんと働くんだな。

 手を離さなかったノエルの根性は見上げたものがあるけれど、代償として顔面から川の中に落ちちゃったみたいだ。怪我はしなかったのが幸いである。

 ついでにいうと、当然ながら俺も川に落ちた。[エネルギーが10減少しました][エネルギーが10減少しました][エネルギーが10減少しました]というメッセージが流れるのを見たときはメチャクチャ焦ったなあ。

 川に落ちたら毎秒10ダメージを受けるという貴重な情報は得られたけど、二度とこんな目に会わないよう気をつけないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ