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44話 ミアズマ4 消毒

 意気込んでみたあとに、何をすればいいかを改めて考え始める。

 ぱっと思いついたのが、このあたりの道という道に次亜塩素酸ナトリウムを撒き散らすことだが……却下。変な不安を煽りそうだ。

 ハクリがインフルエンザみたいに空気感染する病気だったらお手上げだが、多分その可能性は低い。

 誰も咳やくしゃみをしていないところから見るに、ハクリの正体はノロウイルスみたいなものだと予想をつけてみる。

 昔、カキを食べてノロウイルスに当たったことがあるんだけど、まさしくこんな感じだった。ひどい腹痛に発熱、下痢と吐き気。だけど咳やくしゃみはほとんど出なかったな。

 ノロウイルスは胃腸に感染するウイルスだから、そういう症状は出ないものだと病院の先生に教えてもらった。代わりに嘔吐物や下痢からウイルスが出てきて、人に伝染るということも。あれ?これ結構いい線いってるんじゃね?

 

 とすると、食品を扱ってる店を訪問しまくってすべて消毒するか。いや、これも効率が悪いな。この街に食品店が何件あると思っているんだ。宿屋とか酒場とかも含めるとその数は膨大……



 その瞬間、とんでもなく重要なことに気づいた。

 なんで今まで気づかなかったのだろうという驚きと、急いであの場所へ向かわねばという使命感が自分の中に芽生える。

 あのドアをくぐる時間さえ惜しい。というか、キアレおばさんの家から向かったほうが早いな。



「あっ、ポルカくんおかえり、お母さんの様子はどう……ちょっとちょっと、ドコいくの?」


 ホームベースを発動、その勢いのまま玄関から飛び出す。頭の中の地図を広げる必要もない。ほんの100メートルぐらいの距離なのだから。

 よし到着、後はこの行列に並んで、順番が来るのを待つとするか。


「……おい、ポルカ。なんでお前がそこに並んでるんだ?ここがどこなのかわかってるか?」


『ピンポン♪』


 わからないはずないだろう。つい昨日来たばっかりなんだからな。

 隔離所の仕事を一時的に抜け出してまで俺が来たかった場所。ハクリが猛威を振るう原因と思われる建物。

 もうわかっただろう。公衆トイレだ。ロボット掃除機がトイレの順番待ちをしていて何が悪い?

 とにかく今はこの公衆トイレを隅々まで消毒させてもらう!それが終わるまでは帰らんぞ!


 トイレの監視員は、俺に対してここがトイレだと言うことを説明したけど、それでも俺が動かなかったことで何かを察してくれたのだろうか、特に俺を追い払うようなこともせずにそのまま並ぶのを許してくれた。

 俺の後ろに並んでいる人たちが怪訝な表情をしているのだが、俺はどきませんよ。順番はキチンと守りましょう。

 並んでいると、列の前の方から何やら話し声が聴こえる。


「だから、私はハクリではないですし、下痢もしてません……っ、ぐ、ただの風邪です!」


「……そうですか。お大事に。病院には行かれましたか?」


「え、ええ、行きましたとも。先生がハクリじゃないって言ってたんだから。大丈夫で……しゅ!」


 役場の職人が、トイレに並んでいる人ひとりひとりに、ハクリじゃないのかと聞いて回っているようだ。

 だけど、あの人なんかどう見たって熱があってお腹壊しているのに、あれだけ必死になって弁解するとは。どういうこと……ああ、隔離施設に行きたくないんだ。


 十数年前にもハクリが大流行した時があったらしいけど、その時の惨状を耳にしている。隔離所の中で嘔吐物と排泄物がほったらかしにされた。ろくでもない環境に100を超える病人が閉じ込められ、ハクリだけじゃない、いろいろな病気が蔓延して3割を超える病人がなくなったという。

 ハクリのせいで死んだのか、隔離されたせいで殺されたのかわからないぐらいだ。

 あの人はその年をリアルタイムに生きていたのか、もしかしたら隔離所に入れられた経験者かもしれない。


 あの豚厄神、ソイルコンタムはその悲劇を繰り返そうとしているのだろうか?

 だとしたらやっぱりお前は人類の敵だよ。そして俺の敵だ。戦って、お前の企みを妨害してやる。対抗策はもう考えついているから。


 結局、職員がしつこく食い下がっても、その男は決して自分がハクリだと認めはしなかった。こうなると職員にもどうしようもないのだろう。

 そのまま公衆トイレに入っていき、これがまた感染源になる。完全な悪循環となっていた。

 これをほうっておくわけにいかない。悪循環を断ち切ることが、オレがやるべき仕事。ハクリの対策、そしてソイルコンタムへのカウンターだ。

 列が進み、俺の順番が来る。目に見えないものを掃除するという無茶苦茶な発想、だけどロボット掃除機として、挑まない訳にはいかないだろ?


「えーと次の方……ポルカ?発熱は……してないですよね」


『ピンポン♪』


「下痢もしてないですよね」


『ピンポン♪』


「じゃあ次の方……」


 職員、なんで俺にまで聞いた?別にいいけど。



 本来だったらトイレに入るときは年間パスポート的な許可証か、利用料金が必要となるはずだけど、トイレの監視員が『別にいいよ、よくわからんけど掃除するんだろう?』と言ってくれたのでそのまま入らせてもらう。お金、ちょっとぐらいだったら持っているけどね。

 さあここからが鬼門だ。前回、孤児院でトイレ掃除をしたことがあるが、あのときは掃除するのは床だけでよかった。

 今回は便器の中まで消毒しなければならない。火事に向かって水を噴射したみたいに次亜塩素酸ナトリウム水……もとい、消毒水を噴射できればよかったんだけど、どうもスキル[高圧水噴射]は水しか発射できないみたいで、洗剤を吹き上げるのは無理だってことはわかっている。

 洗剤類は基本的に吸い込み口のそば、どんなに頑張ってもせいぜい目の前に撒くのが関の山、これではどうやっても便器内に消毒水を入れるのは不可能なのだ。

 そう、今までのままならな。常識を捨て去れ、固定観念を打ち破れ。不可能を可能にするのだ。



 まずは便器の後ろにまわり、壁の近くで大量の[重曹]を生産する。本当に山盛りになるぐらいに。


[重曹のストックが尽きました]


 うぇっ?なんて?いきなり計画倒れ?


[引き続き使用するには、もう一度新機能欄から重曹を取得してください]


 え、はあ。新機能欄……重曹……あった、購入と。

 購入した重曹ってそのまま無限に使えるわけじゃないのか。知らんかった。しかしどんなタイミングで切れてくれるんじゃ。

 とにかく、もう一度購入した重曹を再び大量に出していく。ちょっとした重曹の山が完成した。

 そうしたら、軽く水をかけて重曹を湿らせる。砂場で遊んでいた幼稚園時代を思い出すかな。泥団子を作るときは土を濡らしてから固める。重曹でも似たようなことができるだろうか。

 その後、[水拭き]や[たわし]をフル活用して、大量の重曹を壁に押し付けていく。床から壁につながる重曹の道が形作られていった。


 よし完成。頭のなかでイメージしていたのは、スケボーに出てくるハーフパイプ。もしくは某障害物競走番組に出てくる名物アトラクション『そり立つ壁』だ。これを利用して壁を走り、その短い時間で上から消毒水を散布する!

 ……我ながらあまりにもアホくさい作戦だとは思うが、他にいい案が思いつかなかったんだよ。どうかうまくいってくれよ。

 最初からトップスピードで走り出し、その勢いを利用して重曹の坂へとつっこむ。壁にぶつかるんじゃないかと思うと少し怖いが、スピードを緩める訳にはいかない。

 前輪は、俺の願いどおりに坂を登り始め、徐々に体全体が傾いていく。10°、30°、50°、70°……

(いっけえええぇぇぇ!!)

 ……90°!




 ……えー、これはどういうことなんでしょうね。

 視界が90°曲がっているんですけど……


 今の俺は縦横無尽に壁を走ることができます。種も仕掛けも……まあありますけど。

 壁に吸い付けるって何!? すげえな俺の体!吸引力30ってこんなに強かったんだ!?

 もういいや。ツッコミは後回しにしよ。今はさっさとこのトイレを消毒して、あの隔離所に戻らなければ。

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