31話 悪食ピグの討伐8
永遠とも思われる戦いに、何かしらの変化が起きる。
それがこの戦いを終わらすカギになるのかはわからないが、それを信じて戦うことはできるはずだ。
だけどまだ不十分だ。この状況は気合だけでどうにかなるもんじゃない。
悪食ピグに足のけがを与えることにより、その動きを抑えたけれど、依然として生まれるスピードは変わらない。ベテランのいない騎士団にとっては厄介な相手であることに違いはない。
やはり、いつも通り首を落とすことがこの掃除の最終目標だろう。
終わりは見えている。急いで終わらせて、ノエルとおかみさんを探しに行こう……
そんな時だ。
足元の線が、またもや消滅した。
「な、なんだ!?終わったのか!」
周りの騎士たちは歓喜交じりの声を上げるが、俺はすぐには喜べない。
もしかして、あの巨大な極悪食ピグが出るのか。そうだとしたら最悪の展開だ。
こんな街中であんな怪物が出現したら、どうなることかわかったものではない。
俺が囮になって街の外へと誘導するか?できるだろうか?
だけど、そんな俺の心配は当たらない……現れたのは極悪食ピグではなかった。
「もぐもぐ、こんなあっさり乗り越えられちゃうと、つまんないザマス。もぐもぐ、やっぱ肉は美味、魚より肉ザマス。ムシャムシャ。肉には砂糖たっぷりのぶどうジュースがよくあうザマス。ゴクゴク」
なんだこいつ……
豚であることは違いない。だが、その体には服をまとい、二本足で直立している。
両手に食べ物をもって、むさぼり食っている様子は、見た目の醜悪さとあわせてこちらを不快な気持ちにさせる。
極悪食ピグのときのような圧倒感こそないものの、正体不明である敵に対し、機械の体が緊張に張り詰めた。
何者だこいつ。
「私は厄神のひとり、ソイルコンタム。今後会うことがあるかはわからないけど、よろしくザマス」
自己紹介どうも……
「ちなみにポルカ以外には私の姿も見えてないし、声も聞こえてないザマス」
はいはいそうですか……って、なにそれ!?
「なにそれも何も、そのままの意味ザマス。個人的に言いたいことがあって、わざわざ高次元からコンタクトを取りに来たザマス」
タンマ、アンタ心が読めるの!?厄神って何!?高次元って!?俺に何の用!?あとザマス口調って実在するの!?
「質問が多いザマスね。まあいいザマス。ちなみに今の私はあなたとはズレた次元にいるので、お互い声を届けられるだけで手出しはできないザマス」
うえぇ……心読まれてる。この世界にきてから初めてのマトモなコミュニケーションが、豚相手とか、なんなんだ。
でも、重要な情報も得られた。お互い手出しができないという話が本当なら、このソイルコンタムとかいう奴がトスネの街に危害を加えることはないだろう……多分。
いや、そもそも本当のことを言っているという証拠はない。嘘をついていると考えて行動すべきだろうか。
「疑り深いザマス。いいから私の話を聞くザマス」
あっ、心を読まれているんだった。
色々考えてもあまり意味はなさそうだし、敵意を感じるというほどではない。ノエルたちを探しに行く前に話だけでも聞いておくか。
どうやら魔物陣は完全に消滅したらしく、今の騎士団は逃がした悪食ピグを討伐するために街中を走り回っていた。
誰も、俺の目の前にいるはずのソイルコンタムに気がつかない。
それどころかぶつかってもすり抜けてしまう。お互いに手出しできないという言葉は、本当みたいだ。
とりあえず、ソイルコンタムが喋り始めたから、必要な情報を得るために耳を傾ける。
「まず、森の中とトスネの街に魔物陣を発生させたのは私ザマス」
いきなり爆弾発言だった。
えっと、つまり俺が森で豚に食われそうになったのも、今トスネで大騒動が起きているのも、元をたどればこのソイルコンタムが……原因?
「まあまあ、怒る気持ちはわかるけど、抑えるザマス。ガツガツ」
落ち着いていられっか!俺がどれだけ大変な思いをしたと思ってるんだこの豚野郎!あと人が怒っているときに堂々とものを食ってんじゃねえ!
「淑女に向かって豚野郎とは何ザマスか!」
ふざけんな豚淑女が!
「とにかく、悪食ピグを生み出したことを責められてもどうしようもないザマス。これだってルールザマス」
ルール?あと豚淑女はスルーですか?
「そう、ボールを上に投げれば下に落ちてくる、光を浴びれば影ができる、それと同じルールザマス。」
なにがだよ。何を伝えたいんだよ。
「私たちはただそのルールを適用するだけの審判に過ぎないけど、今回はアンタに邪魔されたザマス。悔しいけど今回は私の完敗ザマス」
いや、急に来られて完敗宣言されてもな……そもそも何の勝負だよ。街の攻防戦?
「次はこうはいかないザマスよ。水を使う予定ザマス。せいぜいあがいてみるがいいザマス。ゲェップ」
あ、ちょっと!
……消えてしまった。なんだったんだあの豚は。
あと、いまさらだが豚語じゃなかったな。豚のように見えるけど中身はまた別者みたいだ。
意味深なことを言われたけど、考えるのは後回しにしよう。今はノエルたちを探すことに集中だ。
宿屋にいないとなると、どこにいるだろうか?とりあえず町の中心のほうに向かってみることにするか。
トスネの街のマップを脳内で広げて、最短ルートを調べる。路地裏を通りまくるルートになってしまうな。
自転車のスピードを手に入れているから、数分でつくだろう……んー、そういえば夜の街を走るのって初めてだ。この時間帯に役場はやってるのかな?非常時ということで役場付近に避難所ができるとか……いや、行動あるのみ。
いくら効率のいい掃除法を考えても、やらなければ意味がないのと同じだ。ただがむしゃらに走るしかない。
ノエルたちの安否を確かめるべく走り続ける。
2つ目の近道である細い道を通ろうとすると、仕留め損ねたらしい悪食ピグがいた。この道を通るのはやめておいた方がいいな。
そんなことを思って、大通りに戻ろうとしたとき。
「暴れるなよ食いづらい!」
「アッチ行け!」
「ごめんなさい私なんかのために!」
思わず見てみると、薄暗い中に2匹の猫が見えた。
一匹はどこかケガしているのか、地面にぐったりと横たわり、その猫を守るようにしてコトラ……コトラ!?まじか!コトラがヒーローしているぞ!ガンバレ!
いや、興奮している場合じゃねえ。助太刀すっぞ!チャリ速タックル!
「イテっ」
「えっ、ポルカ?」
今の俺の全力の攻撃だったのに、ブッの一言を言わせただけか。
でも、ここは成長したスキルの見せ所だ!
『たすけてください!』
近くにいる騎士に伝わるように叫ぶと、大通りから急いでやってくる足音が聞こえた。
俺の力だけでどうにかなるわけないでしょ?場を利用するのも立派な戦術の一つだよ!
まあ、コトラたちのことは騎士に任せよう。久々に再会したコトラとじゃれあいたい気持ちもあるが、今はそれより人探しだ。
悪食ピグのわきをすり抜けて細い道を通り抜け、ロスした時間を取り戻すかのように全速力で町役場へと向かう。
ノエルとおかみさん、街のみんなの無事を信じて走り続けたその先で、人だかりを発見した。