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20話 トスネ孤児院 

 火山灰掃除も佳境を過ぎた。この街の80%ぐらいの火山灰は吸い終えたはずだ。

 まあ、風によって街の外から舞い込んでくる火山灰もあるにはあるから、それが収まるまでは火山灰掃除を続けるつもりではある。

 オオカミ騒ぎの時のノエルは、やっぱり仕事を一部ほっぽり出していたようで、おかみさんにきつくお灸をすえられていた。ダメだね、与えられた仕事はちゃんとやらないと。

 ……え?初日の仕事をすっぽかしたお前が言うなって?ハハハ、ナンノコトカナー。


 そうだ、ノエルだ。ノエルがおかみさんに交渉してくれたおかげで、宿屋のゴミを給料代わりに貰えるようになったのだ!

 毎日もらえるので、給料というよりは、まかないみたいなものかもしれないが。

 宿屋の掃除と合わせて、1日で0.5kgぐらいのゴミが給料代わりだ。正直少ない気がしなくもないが、贅沢は言わないことにしよう。

 最近では吸い込めるゴミの量も安定してきた。この街に来たころほど多くはないが、洞窟の中にいたころに比べると十分すぎるほどだ。

 ゴミが余っていたので、50kg消費して防御力の数値も10に上げておいた。これだけ0だったのが気になったのだ。まあ、今のところ防御力が足りなくて困った展開はないしな。無駄な出費だったかもしれない。



 突然だがこの世界の文化レベルとゴミの話でもしよう。

 俺が小説やゲームでイメージしていた異世界と言えば、中世ヨーロッパのイメージが強い。まあこの世界は割と景観はそんな感じだが、人の生活レベルは俺のイメージと大きく異なっていた。

 その最たる例を上げれば、この世界では変な紙が生活に浸透している。見た目は普通の紙なのだが、水に濡れてもふやけず、少々乱暴に扱っても破れない。それどころか伸び縮みするものまであるみたいだ。

 とりあえずこの世界で「紙」と言えばこれが普通らしい。羊皮紙なんてなかった。まあ、あれだけすごい紙があるなら、低性能な羊皮紙なんて必要ないか。なんせ日本の紙より性能が上回っているぐらいだから。

 人々の生活には常にこの紙があって、この紙のおかげで便利な生活ができているといっても過言ではない。

 例えば、傘だって紙でできているし、大きな店でサービスされる紙袋は、持ち手の部分まで紙でできているくせして、どんなに重いものを入れても破れる気配がない。

 この世界には紙パック飲料もあるみたいだが、あの紙なら内側にアルミを張ったり撥水加工をしたりするまでもないだろう。なんせ紙袋に水を入れて運んでいる人も見かけたぐらいだから。

 それでいて、はさみを使えば簡単に加工が可能で、しかも大量生産品……はっきり言って、これを日本に持ち帰れば製紙業界に革命が起きるかもしれない代物だ……と思ったけど、よく考えるとこれビニール袋とほぼ同じ性質じゃねえか。

 透明感がない事を抜きにすれば、異世界のビニールみたいなものだ。

 長所がビニール袋と一緒なら、短所も同じだ。これ、自然界で全然分解されない。

 俺がよく知っている紙は、雨に濡れるとシワシワになって、そのうち微生物の力でボロボロになるはずだが、こちらの方はそんなことがない。そもそも雨をはじくほど丈夫だし。

 川の中で引っかかっていた紙袋が、何日たっても変化がないのは驚いた。あの紙袋は誰かがとらなければ永遠にあの姿のまま残っているのかもしれない。


 それで、当然の帰結なのだが、便利なものは大量に使われる。

 店では紙袋としてサービスで配られ、ちょっとしたメモに使われ、屋台で売られている肉を包み、時には野良猫にエサをやるときの皿代わりとして用いられることさえある。ああ、あとたばこの巻紙だ。

 いくらでも手に入るものの宿命なのだろうか。

 火山灰が減ってきたからこそ、道端に散乱している紙ゴミの多さに正直うんざりしていた。

 頻繁に目にするのは、屋台の食べ物のソースがへばりついた紙ごみ、ジュースが入っていたであろう紙パック、たばこ。

 もちろん今の自分にとってはエネルギー源でもあるので、見かけ次第吸い込んでいるが。

 こういっちゃなんだが、代わり映えのない日常にうんざりしていた。最初こそ異世界転生というシチュエーションにワクワクしていた自分もいたはずだが……掃除機が生活に刺激を求めるのは贅沢なのだろうか。


「おいしょっと、これおねがーい」


 ん?あれは……いつも俺の地区で高い金をもらってゴミを回収している役人さんか。

 集めたゴミをどこかの施設に入れたみたいだ。あれは元の世界におけるゴミ処分場みたいな感じかな?

 そういえば、この世界においてゴミってどのように処理されているんだ。やっぱり燃やすのだろうか。道端からちょっと覗いてみよう。さすがに施設の中に入る勇気はないが。

 ちょっと中をのぞくだけ……なんだ?出てきたのは物腰の柔らかそうなお姉さんと、周りにいるのは6,7人の子供?兄弟には見えないよな。何だろうか。


「いつもありがとうございます。調子はどうですか?」


「ぼちぼち。だけど、毎日来ていたはずの宿屋のおばさんが急に来なくなってね、まさかあの人に限って川にゴミを捨てたりなんてことはないと思うんだけど」


「確かに怪しいですね。思い込みはいけませんよ。」


「アドバイスありがとう。今度会ったらそれとなく尋ねてみるとするか」


 うっ、宿屋のおばさんってウチのおかみさんの事だよな。確かに最近はゴミを俺が吸い込んでいるから、わざわざ金払ってゴミを引き取ってもらうことはなくなった。

 まさか、おかみさんにポイ捨ての容疑がかけられようとしているとは……

 宿屋のゴミを吸いこむことに関しては少し考え直した方がいいかもしれないな。と思った矢先、子供の一人がいきなりこちらに向かって声を張り上げてきた。


「あ!ボク知ってるよ!あれポルカでしょ!地面をきれいにするマジックアイテムなんだよ!」


「あれが!?」


「ホントに!?」


「つかまえろー!」


「「「「やーーー!」」」」


 うわっ、なんかいきなり数人がこちらに飛び出してきたぞ。やめなさい、クルマに轢かれたらどうするんだ!俺みたいに来世でへんてこなものに転生しても知らないぞ!

 もちろん、この世界に自動車なんてあるはずもないので、子どもたちは何かにぶつかることもなくそのまま俺のもとへとたどり着く。逃げる暇もないまま、俺はあっさりと担ぎ上げられた。


「うーん、けっこー重い!てつだって!」


「そっちはまかせた!今からおうちに入れるよ!」


「わっせ!わっせ!」


 ホームベースを使って逃げようかとも思ったが、差し迫った危険は感じないので、とりあえず流れに任せる。

 なんかこのままいけばあの施設に入れそうだし。

 なぜこの施設に子どもがたくさんいるのか、なぜそんな施設にゴミが運び入れられたのか。

 変わらぬ日々に少し退屈していた俺にとっては、ちょうどいい社会勉強になるかもしれない。

 たまにはこういうのもいいだろう。ちょっとの間子どもたちとたわむれるとするか。



「もうすぐご飯できるから、まっててねー」


「おなかペコペコー!はやくー!」


「ウワァァァアア!!」


「どうしたのかな、シーちゃんもおなかすいたの?それともおしめ?」


 十代前半と思われる子供が3人ほど集まって料理をし、3~4歳かそこらぐらいにしか見えない子どもが急かしている。

 その中間、7,8歳ぐらいの子供も結構いて、しゃべることすらおぼつかないほどの幼児をあやしていた。

 正直に言おう。カオスだ。

 これ全員が家族っていうのは無理があるよな。だとすると考えられるのは……


「噂はわたしの耳にも届いております。人とコミュニケーションを取れるマジックアイテム、ポルカですよね?」


 おっと、いきなりお姉さんが話しかけてきた。

 しょっぱなに(間接的だが)おかみさんを怪しいと言ったせいで、少し嫌な印象を受けたが、この境遇を見るに悪い人ではなさそうな気がする。

 というか、この世界ホントに悪人が少ないな。平和なのはいいことだ。


「ピンポン♪」


「それは、『はい』という意味でしたね、確か。ここトスネ孤児院になんか用事があるわけでもないでしょうに、子供たちが勝手に連れてきてしまって、申し訳ありません」


 やっぱり、孤児院か。

 しかも、上の子供たちが下の子供たちの面倒をみるという形で運営されているらしい。ざっと見渡したが、このお姉さん以外に大人はいないようだ。

 現在、子供から「床をキレイにするとこみせてよー」とお願いされたので、リクエストに応えて部屋の掃除をしているところだ。

 ただそれだけなのに、すごいすごいと歓声が上がる……いつも時間をかけて掃除する部屋が、あっという間にきれいになる様子は、孤児院の子供たちにとっては驚きの光景なのだろうか。

 そのとき、部屋のドアが開いて、薄汚れた二人の男の子が入ってきた。


「ココねえちゃん、これとかどうかな」


「こっちもこっちも」


 一人の手には少し欠けた陶磁器の皿が、もう一人の手には本らしきものが握られている。

 そのどちらもが、なぜか表面が黒く汚れていた。


「あら、今日のゴミからは2つも使えそうなものが出ましたか。ラッキーでしたね」


「もっとほめろよ、あの量のゴミからがんばって探しているんだぜ?」


「そうですね。二人ともよくがんばりました」


 言葉を聞くに、ゴミをあさってまだ使えるものを拾い出したのだろうか。

 親もいず、新しいものを買うための十分なお金もないのか。その境遇を悲しく思うとともに、ここに来たことを少しだけ悔やむ自分もいた。

 知らなければ知らないで幸せに過ごせただろうに。

 ちょっとモーター音が小さくなった俺に何を思ったのか、お姉さんが声をかけてくる。


「何を考えているのかわかりませんが、別にあなたが気に病む必要はありません。子供たちはみんなたくましく生きています」


 力強くそう言う姉さんに対して、俺は電子音を返すことができなかった。

 親がいないから不幸とか、ゴミをあさっているから不幸だとか、そう決めつけるのは間違っているのだろうか。

 そんなことを考えながら、俺に群がる子供たちの顔を見る。誰もが屈託のない笑みを浮かべていたことが、やけに心に残った。



 あまり広い部屋というわけでもなく、十数分で掃除が終わった。


「おおすげー!ゴミが1こもない!」


「ポルカってすげー!」


「すげー!」


 ワックスを塗ったわけでもないのに、すげーいい反応をしてくれる子供たち。

 俺にはこれぐらいしかできないけど、喜んでくれたなら掃除した甲斐もあるってものだ。


「なあなあ、ほかの部屋もキレイにしてもらおうよ!」


「そうだな!」


「こらこら、このポルカだって暇なわけじゃないでしょう。もうおしまいですよ」


「えーー!せめてもう1回!」


 まあ、暇と言えば暇なんですけどね。もう1部屋ぐらいだったら掃除してもいいかな。

 結局、子どもたちのわがままに根負けしたおねえさんが、俺に「もう1部屋だけ頼んでもいいですか?」と尋ねてきたので、快く「ピンポン♪」と返しておく。

 どの部屋を掃除してもらうかで、子供たちの間で話し合いをさせたが、満場一致で決まったのか、すぐに話し合いが終わる。

 最も元気よさそうな男の子が、俺に向かって大声で掃除する場所を教えてくれた。


「トイレをお掃除してください!」



 ……お、おう。わかった。

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