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18話 魔法陣の掃除

 実演してみるのが早いと思って、クレンザーとたわしを使って床を磨くパフォーマンスをしてみた。

 オオカミ型魔法陣はすでに消えてしまっているが、その辺りに移動して地面を掃除する。


「何をやってるのポルカくん?何か伝えたいことでもあるの?」


「ピンポン♪」


 うーん、これだけじゃ説明不足かなあ……でもほかにどうしようっていうんだ。


「魔物の血で地面が汚れたんじゃないかと心配されてるなら大丈夫ですよ、水魔法で洗い流しておきました。」


 ああ、だもんでこんなに地面がビチャビチャになっているのか。

 ていうか、魔物?動物とは違うのかな? あと、ルーカスは水魔法の使い手なのだろうか。

 知りたいが、聞くことができない。

 とりあえず、血を掃除しているわけではないと伝えよう。


「ペポー」


「あれ、違うの……そういえばあの、ルーカスさんでしたっけ?あのあたりって魔法陣が描かれていた場所ですよね?」


「はい、そうですよ。死んだオオカミもあのあたりで召喚されました」


「魔法陣があった場所で掃除をしている……ポルカくん、もしかして、魔法陣を消したの!?」


「ピンポン♪」


 ダメもとだったが、宿屋でのかかわりが長い分、俺の言いたいことを何となく察することができるようになったノエルの存在はありがたい。

 わかってくれたみたいなので、ひときわ大きな音で正解音を鳴らしておく。

 そして、その反応に対し、ルーカスが驚きの目でこちらを見つめてきた。


「ポルカが、魔法陣を消せるとは……じゃあ、もしかして魔法陣の場所もわかりますか?」


「ペポー」


 ゴメン、それは無理なんだ。

 見つけたのはコトラであって、俺はただ言われるままに掃除をしただけである。

 目を凝らせば見ることはできるが、普通に暮らしていて気付くのは無理だと思う。

 ルーカスは少しだけ気を落としたが、すぐに顔を上げて言葉を告げてきた。


「もしも魔法陣があることがわかったなら、積極的に消してくれると嬉しいんですけど、大丈夫でしょうか?」


「ピンポン♪」


 もともとそのつもりだ。

 そのままだとこの街の住民に被害が出るようなものを、放っておくわけがないだろう。


「魔法陣を探知するマジックアイテムはこれになります……ほら、これをこうして、近くに魔法陣があれば反応します。あ、反対側の通路に反応がありました……ここですね」


 ルーカスの後をついて行くと、そこにはまたオオカミの絵が描かれていた。昨日見たものと全く同じである。


「それで、ポルカは本当にこれを消せるんですか?普通は魔法陣ごとにに設定された解除用キーワードか、もしくは大量の魔力と経験が必要になるんですけど……」


「ピンポン♪」


 論より証拠だな。クレンザーとたわしを使って、地面を磨き上げる。10分ほどかけてオオカミの首が消され、頭と胴体が分離した。多分、この魔法陣からオオカミが召喚されたところで即死だろう。

 スピードは遅いが、確かに魔法陣を消せることを確認したルーカスは、驚きの目をこちらに向けてきた。


「この短時間で魔法陣を無力化できるなんて……」


 え、10分ぐらいかかってたけど、そんな早かったか?普通はもっとかかるものなのだろうか。


「わかりました。ここは任せましょう。このマジックアイテムをお貸ししますので、よろしくお願いします」


 そういうとルーカスは、ノエルに魔法陣を探すためのマジックアイテムなるものを押し付けた。見た目はL字型の棒……うん、ダウジングの棒だ。


「いやいや、なんで私なんでしょう?魔法陣の探索なんてやったことありませんよ?」


「うーん、僕が探してもいいんですが。今回の魔法陣の犯人について急いで調べるので。君はポルカに信頼されてるみたいですし、頼みます」


 そういうとルーカスはスタスタと去っていってしまった。真剣な表情は、確かにかっこいいな。

 そして、ダウジング棒を受け取ったノエルはというと……


「……よし、やってやろうじゃないの。あんなイケメンさんに頼まれて期待を裏切ったら、女がすたるわ」


 なんだか気合十分だなあ。

 ノエルが魔法陣を探し、俺が魔法陣を消す。役割分担のはっきりしたコンビの完成だ。

 住むところをきれいにして暮らしをより快適にするのが掃除だ。なら、掃除機が街の落書きを消しても、何もおかしくはないよな。

 住民の暮らしを脅かすものは、俺の手で消し去ってやろうじゃないか。




 それで、街の中を探すこと数時間。


「ポルカくん、魔法陣ないね」


「ピンポン♪」


 かなりな範囲を探したが、魔法陣は全く見当たらない。さっきの意気込みを思い返すと少し恥ずかしくなってきた。

 念のため、街の住人にはあまり外出しないように命令が来ている。魔法陣があれ1個だけだったらただの無駄骨だけど。

 街の中に時限爆弾があるかもしれない、いつ爆発するかわからないっていう情報って、かなり怖いよな。

 俺たち以外にも、この街の警備をする兵士とか魔法使いが魔法陣を探しているようだが、見つかったという報告は全く来ない。本当にあれ1個だけだったのだろうか。

 見つかる可能性は低いが、もう一度念入りに街を調べておこう。




 で、日も暮れてしまったのだが、本当に魔法陣は見つからなかった。

 警備隊の面々も、魔法陣はもうないと結論づけているようだが、念のため今日いっぱいまでは警戒態勢をとるらしい。

 見落としがあるかもしれないし、絶対にないとは言えないからだ。

 ただ、一介の宿屋の従業員である俺たちには、もちろんそんな義務はない。

 魔法陣を見つけることは諦めて、まずはルーカスにダウジング棒を返しに行こう。


「ポルカくん、あのイケメンさんの家を知ってるの?」


「ピンポン♪」


 マッピング機能には住所検索みたいな便利なものはないが、あのゴミ屋敷は印象が強すぎて、はっきりと場所を覚えてしまっている。

 まあ、今はその記憶がありがたいが。さっさとダウジング棒を返して帰るとするか。


 ルーカスの家が見えてきた。窓からゴミは……あふれてない。よし。


「あれ?この家って……以前スゴイ汚かった記憶があるんだけど。本当にここにあのイケメンさんが住んでるの?本当に?」


 おい、ノエルまでゴミ屋敷の事知ってたのかよ。

 とにかく、部屋の中もきれいな状態を保てていれば、ルーカスの事少しは見直せるんだけど……さてさて、どうなってることやら。

 ドアの前で立ち止まると、ノエルがドアをノックしてマジックアイテムの返却に来たと言った。

 ほどなくしてドアが開き、ルーカスが出迎える……部屋の隅に空の容器が積んであるぞ。はぁ。


「あ、もしよかったらそのゴミ吸い取ってくれませんか?」


「ペポー」


 お前はもうちょい自力で片付けることを覚えろ。

 にべもなく断られて、きまり悪そうな顔をするルーカスに、ノエルが話しかける。


「それで、これが貸していただいたマジックアイテムですけど……ゴミがどうしたんですか?」


「あ、いえ……実は、この前ポルカがうちに来てゴミを片付けてくれたんですよ。どうも片づけは苦手でしてね」


 あ、ノエルがひきつった笑みを浮かべているぞ。

 パッと見はかっこいいのに私生活がだらしなさすぎだ。


「というか、ポルカくんにゴミを吸いこましたって……あの量のゴミを、全部?」


「ええ、普通に全部吸い込んでくれましたよ」


「ポルカくんの中身どうなってるのよ。どこにつながってるの?」


 それは自分もよくわかってないんだよな。

 ゴミはゴミとしてカウントされるけど、自分の体内には既にないみたいだし。


「で、そうそれ!意思疎通ができるマジックアイテムなんて初めて見たので、いろいろ質問したかったんですが、前回は時間がなかったのか断られたんですよ!今回は大丈夫ですか?」


「大丈夫です!私もポルカくんもなんでも答えますよ!」


 おい!何でノエルが決定してるんだ!?

 ルーカスも「おっしゃ!」って感じでガッツポーズしているし!

 めんどくせえ、俺そんなにルーカスと仲良くしたくねえんだよな。そのままズルズルとゴミの片づけを任され、いつの間にかそれが当たり前になってしまいそうだ。ゴミの補給には使えるかもしれないが、そこまでの関係にはなりたくない。


「じゃあポルカに質問します。ピンポンがはい、ペポーがいいえ、自由にしゃべることはできない。そういう話だったはずですが、この情報は確かですか?」


「ピンポン♪」


 ああもうどうにでもなれ。質問攻め来るなら来い、そして早く終わってくれ。

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