16話 再会
ポイントが100を超えました!
応援ありがとうございます!
ちなみに、iRobot社に「ルンバ」の使用可否について聞いたところ、アメリカの本社に聞いてくれと言われたので、必死で英語のメールを書いておくりました。
クラス41人の中で、20位~35位をうろついていた英語力、通じたかな……(2016.09.27)
この街の火山灰は少しずつ減っているようだ。
300年に一度の噴火という話だったが、その噴火もすでに終わっているようで、新たに火山灰が降り積もってくることもない。
このままなら、全部の火山灰を片付けるまでそう時間がかからないかな。
だが、火山灰がこの街からなくなったとしても、俺が街の掃除を止めるという選択はないのかもしれない。
新しい火山灰は出てこないが……その代わりというか、新しいゴミが次々と出てくるのだ。
拾っても拾っても、次の日になればまたゴミが散乱している。
なんだろうねあいつら。雑草並みの生命力で増殖しているんだろうか?
そんなわけで、なんで異世界に来てまでゴミ拾いをしているんだろうと考えると、ちょっと空しい。
特に多いのは、吸い殻である。こちらの世界にもタバコが存在した。しかも割と元の世界のそれと似ている。
成分が同じかどうかまでは知らないが、喫煙家は結構多い。そして、吸い終わったタバコを当然のように道端に捨てていく。
他にも、屋台の食べ物についていたであろう、木の串や紙袋。
骨の折れた傘。
時として、穴の開いた靴下まで。
これだけゴミが多いと、普通はポイ捨てしている人たちに対しての怒りを感じるんじゃないかと思う人がいるかもしれないが、別にそんなことはない。
ゴミが俺の活動に必要だからってのもあるが、やっぱり日本においてのゴミ拾いが関係しているのかもな。
日本の世界で、俺がゴミ拾いをしていたからといって、ポイ捨てをする人が減るわけでもなかった。その辺は理解している。
ポイ捨てする人が減るといいなーとは思うが、声高に叫ぶようなことはしてこなかった。
俺にとってのゴミ拾いはあくまで趣味であり、街をきれいにしなければという義務感にかられたものではなかったのだから。
なので、たとえ目の前でペットボトルをポイ捨てした人がいようとも、ただ拾うだけ。
ポイ捨てする人がいることは否定しない、こっちが拾えばいいだけの話じゃないか。
……そういえば俺の死んだ後の近所は、ゴミだらけになるのだろうか……まあ、俺がいなくなっても誰か新しいゴミ拾イストが現れてくれるかもしれないしな。
ポイ捨てをする人を糾弾するより。
そっと、ゴミを拾える人でありたい。
ちょっとカッコつけてみたけど、これが自分の考え方だ。
そんな生き方を貫いた結果、ロボット掃除機になってしまったことは……うん、今でもちょっと納得いかない気持ちはあるけどな。
自分語りはこのぐらいにして、街の掃除を続けることにしよう。人通りが多いところの掃除は大体終わった。そろそろ路地裏のような後回しにしてきたところに着手する時期かな……よし、とりあえず一番近いところにあるこの路地裏から始めよう。
そう思って、路地裏に入る。大通りとは違って、昼間でもひっそりとした雰囲気だ。
まあ、マッピングの関係で一度通ったことはあるんだけれど、本格的に掃除をするのは今日が初めてである。
順当に、路地裏の端からジグザグに灰を吸い込んでいこうか……いや、道幅が狭いし、廊下の雑巾がけの要領で縦方向に掃除していこう。
そう決めて、モーターを回し始めた俺の視界に、いきなり白黒茶色の三毛猫が飛び出してきた。
見覚えのあるあの三角の耳、あのつぶらな瞳、もしかして!?
「ひさびさだなポルカ!」
やっぱり、コトラじゃないか!
洞窟を出て以来見かけなかったけど、まさかこの街にいたなんて!
コトラはというと、早速俺の上に乗ってきて、命令をした。
「このまままっすぐ進んで」
はいはい、仰せのままに、マイキャット様。
えーっと、掃除なんて後回しだ!今はこのネコちゃんと遊ぶぞ!
洞窟の中での交流のおかげか、コトラは俺に対して結構なついている。
俺が猫語を聞き取れることも、猫語を自由に話せないこともちゃんと理解しているようだ。頭いいなコトラ。
あの時は単に俺が命令の通りに動くことを楽しんでいた感じだけど……今日はなんか雰囲気が違うぞ?何というか、少しピリピリしているというか、イライラしているというか。
「あ、ここだここだ。ここを掃除してくれ」
へ?コトラが掃除を要求?
確かにネコはきれい好きな生き物だっていうけれど、まさか俺に掃除を頼んでくるなんて思いもしなかった。
まあ、細かいことはいいや!ええと、掃除開始と!
「違うそこじゃない!このイヌの顔を消してほしいんだ!」
あ、ごめんね。犬の顔……?
コトラが何やら前足で何かを指し示すポーズをとったので、その辺りを見てみる、何もないように見えるけど……ん?
よく目を凝らすと、地面になにか描かれているな。地面と線でほとんど色が変わらないから気が付かなかった。なんだこれ……おお。
オオカミの絵だ。わりと、というかめちゃくちゃうまい。まるで今にも動き出しそうなほどだ。
何のためにこんな目立たない絵を描いたかが理解できないが、芸術というのは常識では理解できないものだというしな。
俺もハナマルを書いて満足しているようではダメだということか。もっと精進しなければ。
「寝床なのにいつの間にかイヌの絵が描かれていて、落ち着かないんだ」
あ―なるほどね。人間でいえばベッドの隣にリアルすぎるライオンの絵が張られているようなものだもんな。
落ち着かないという気持ちもわかる。
これは掃除機じゃ無理だよな。とりあえず水拭きを試してみようか。
水性のペンキだったらこれで落ちるんだろうけど……っと、うーん、だめか。水性ではないみたいだ。
ここは新機能か……ペンキを落とすって言ったらシンナーのイメージが強いけど……コトラがなんかの拍子に吸ったらまずいよなあ……
同じ有機溶媒として、アセトンでいくとするか。アセトンも新機能中にあったはずだ。
普通の掃除ではアセトンなんてまず使われない。体への毒性は少ないが、油汚れを落とす作用が強すぎて、塗装とかプラスチックとかに傷をつけてしまう恐れがある。
だけど今回の場合は、地面についたペンキを落とすのが目的だ。地面に傷がついたとしても特別問題はないだろう。
[アセトン]を取得すると、アセトンがしみ込んだ布が吸入口から出てくる。自分の体にアセトンがかからないよう、一応気をつけておかないとな。
で、こするのだけれど……あれれ?
落ちない。水でも有機溶媒でも落ちないと来たか。こうなると一介の大学生にはどうすればいいかよくわからないな。
塗ってから時間がたちすぎたペンキは、簡単には落とせないというが、コトラが言うには少し前に描かれたものらしい。
もしかしたら、異世界なのだし、そんな化学的な手法では落とせないような塗料があったとしても不思議ではないのかもしれないが……なんだよこの地味すぎるファンタジーは。
ああ、コトラがショボーンとした目でこちらを見ている。ゴメンね。この方法じゃ落とせなかったよ。
「はあ、寝床を変えるしかないか……」
ちょっと待っててコトラ、今がんばって新機能の中から使えそうなものを探しているから……あ、これなんかどうだ?
化学で立ち向かえないなら、物理で立ち向かう!
ゴミ10kgを消費して獲得した新機能[クレンザー]、ざっくり説明すると研磨剤だ。今までのように化学的ではなく、物理的に汚れを落とすためのものである。
ふっふっふ。モース硬度7ぐらいのクレンザーだ!このペンキのモース硬度なんて知らないが、負けることはないだろう!多分!
もう一度新機能を開いて[たわし]を購入し、クレンザーをつけて地面を磨く。
お、少しずつだがペンキがボロボロになっていく。乾ききったペンキを削り落としてていくような感じだ。
よし!コトラのためにも、全身全霊でこのペンキを落とすぞ!
うおりゃあああぁぁぁ!消えろおおおおぉぉぉぉ!
くそ、力が足りないな、我に力を!このペンキを消す力を!
[ゴミを50kg消費して、攻撃力を0→10にあげますか?]
え、攻撃力ってペンキにも効果があるのか?
う、うーん。確かにゴミは今200kg超えているけど……うーん、まあ、悩んでみるより当たって砕けろだ!Yes!攻撃力UP!
[攻撃力が10になりました]
あはは、やっちまった。さて、どうなるかな……おお?体に力がみなぎってくるぞ。なるほど、これでより力強くたわしをこすれるわ!ふはははは!
消えろ消えろ消えろぉーーー!
こんな感じでムダにテンションを上げて、一気にオオカミの絵を消去していくのだった。
「残ってるみたいだけど、また今度続きをしてくれ」
「ピンポン♪」
くそぉ……消しきれなかった。
クレンザーを使ったところ、確かにペンキは落ちたのだが、なかなかに効率の悪い仕事だ。依頼主がコトラじゃなかったら途中であきらめていたかもしれない。
現在、オオカミの頭と右前脚は消したのだけど、そのほかの体の大部分は残ってしまっている。まあ、時間をかければ落とせることは分かったし、これで良しとしよう。
コトラはというと、大きなあくびを一つして、角の方で丸くなって寝息を立て始めた……あれ?猫って夜行性じゃなかったっけ?まあいいか。この世界のネコは夜に寝るのだろう。
俺も久々にコトラと会えて楽しかった。次に会った時のために、煮干しかカツオブシを用意しておきたいけど……この世界にあるのかなあ、煮干し。探しておくか。
なお、アセトンは人体への毒は少ないですけど、環境への負荷が大きいです。
屋外で使うのはお勧めしません。




