非常に長く険しい序章 19
で、俺は周りを見回す。
ここは、玄関につながる居間。机と椅子が一つずつ。
利用できる地形じゃないね。
で、俺の持ってる武器は、爺さんからもらった黒龍の短剣だけ。
うーん、俺、剣が好きじゃないんだよね。
好みを言ってる場合じゃないんだけどさ。好きじゃなってことは、扱いも下手ってことなんだよな。どうしたものかな。
ただ、ないよりはいい。〇よりも一のほうが、なんぼかましだ。
とりあえず、短剣を抜き、手に持った。
手になじまねえなあ、もう。素手のほうがいいんだが、音から察するに、敵は金属の武装をしているはずだ。素手で対抗できるわけがない。
急所をつくなんて理想論は、武術の師匠から真っ先に捨てるよう言われたことだ。
その割に、師匠は「車の急所を突く」とか言って、駐車違反の車を指一本で解体してたんだけど。今、思い出しても、あれはどうやったのか、分からねえ……。
がん、がん、がん!
扉とかんぬきが軋んでいる。少しずつ、かんぬきが割れそうになっている。
でも、斧のような武器はないみたいだな。剣、それも荒事には向かない対人戦用の。
どん、どん、どん!
なるほど、さっき彼女は奴らが「卑怯な真似はしない」と言っていたけど、確かにずいぶんと育ちがよくて、金持ちらしい。きっと、鎧もぴかぴかに磨かれているんだろうな。
扉で気配をうかがっていた彼女は、少し下がり、扉の正面に立った。
そして、剣を抜いた。
おそらく彼女の間合いは扉から一歩離れたところまでだ。その一歩は、彼女が踏み込みのために使うのだろう。
つまり、やる気満々。
「そろそろ開くわ。大口を叩いたところは見なかったことにしてあげるから、ヤギ太郎みたいに隅っこでじっとしてて」
扉を見つめたまま、彼女が俺に言う。俺は肩をすくめたんだけど、彼女は見ちゃいないわけで。
「一応、武器もあるし、心得もないわけじゃあない。自慢じゃないが、結構控えめに言ってる」
彼女を安心させようと、ことさら軽い調子で言った。
なのに彼女は心底うざそうな目で一瞬俺を見た。
……見られなければよかった。
「そうやって、急にかっこつけるような人間が、まともに戦えたところを見たことないの。悪いけど、消えてくれる?」
やべえ、彼女にも敵認定された。
めき、めき、ばき!
返答に困っていると、ありがたいことに扉がぶっ壊された。いやー助かった。おかげで彼女の視線も敵に向かってくれたよ。
外の連中は、家主の俺の断りもなく、ずかずかと家に足を踏み入れた。
数は三人。
金属の鎧を身に着けている。ただ、兜はしていない。
顔が丸見えだ。
中央にいるのが一歩前に出ている。
えらが張り、魚のようにつぶらな瞳をした、ひげ面のでかくて、がたいのいいおっさんだった。
お世辞にも、イケメンとは言い難い。むしろ、きもい。
「おとなしく我々と来てもらいたい」
さっきやり取りをしていた声だ。
うーん、リア充な声だと思っていたが、こうして顔を見ると、似合ってなさすぎる。
可哀想に。
だが、彼女は笑いも悲しみもしなかった。眉間にしわを寄せ、嫌悪を露わにし、剣を構える。超シリアスだった。おっさん相手に、超シリアスだった。
「あなたたちの野望につきあうつもりはないの」
「野望? それは誤解です」
すげーいい声だ。クールで知的な悪役然としている。幹部クラスだ。目を閉じて聞き入りたいぜ。特に、本体が金魚みたいな顔をしているとなると。
「レネ様、私たち教団は、民のことを考えて行動しているのです」
へー、彼女はレネっていうのか。
ふーん。
黒髪、黒目と清楚な日本人っぽい外見なのに、ヨーロッパな名前なんだな。
まあ、この世界で東洋西洋があるのか分からんし、そもそも、レネって名前も偶然の産物かもしれないが。
しかし、レネか。似合わねえな。
「あなたねえ! 少しは空気読みなさいよ!」
「なんで、俺の心の声が聞こえんだよ!」
「さっきから、全部口に出してんのよ!」
あ、そうなんだ。
「ほら、今も!」
意識して、口を閉じる。これで、どうだ。ふふふ、俺が何を考えているのか、分かるまい!
「……まあ、あなたがそれでいいなら、私もいいけどね」
でも、なぜか呆れ顔だ。むう。
「二人とも、自分たちの置かれている状況が分かっているのか?」
むう、いい声。おっと、金魚男たち三人のことをすっかり忘れていた。
「何度質問されても、答えは否よ。私は特定の誰かのために戦ったわけじゃない。そして、これからも」
「ですが、目の前に失われようとしている命があれば、剣をふるわざるを得ないのでは?」
「人として、当たり前のことよ、それは」
レネは、にやっと笑った……つもりなんだろうけど、怒りがにじみ出ているせいで、余裕よりも不気味さしか出てこない。今のは、きちんと口をふさいでおいた。
「レネ様、それは偽善というものです。誰かのために戦うわけじゃない。しかし、見逃せないものには手を伸ばす。あなた様の知らないところで、苦しむ人はいるのですよ。それを知らないあなた様でもあるまいに」
レネは黙ってしまった。若いなあ。こんな馬鹿げた理屈に正面から切り崩そうとするから、そうなるんだ。
「なあ」
なので、代わりに俺が金魚男に声をかけることにした。
「どうした、小僧。騒動に首を突っ込んで、命をなくしたいとでもいうのか」
「あのさあ。声と顔が合わないから、整形したら?」
「なにぃ!!」
おっ、一瞬で顔が真っ赤になった。ホントに金魚みたいな顔だ。あとはひげを剃れば完璧。笑える。ぷっ。
「貴様、馬鹿にするか!」
「あ、やっぱり声に出してたか、あははー」
「笑いごとか! この神聖幻影騎士団金騎士ドウガンに対し、失敬ではないか!」
俺は笑うのをやめ、わざと冷たい顔をした。
「笑いごとだよ、ドウガン。ここは俺の家だ。お前は勝手に入ってきた上に、家主に対し丁寧に扱えと怒る。冗談でなければ、何になるというんだ?」
「神聖幻影騎士団を愚弄するのか!」
「俺が愚弄してるのはドウガン、お前個人だよ」
「なにをっ!」
「さっきから思っていたんだけど、怒ったときの反応にクリエイティビティが欠けてないか?」
「なんだとっ!」
「ほら、それそれ」
ドウガンは剣を抜いた。つられて、後ろの二人も剣を抜く。ふう、これで不意打ちはなくなったな。よしよし。この世界に抜刀術とかあったら厄介だもんな。それと、三人の上下関係もはっきりした。
でも、レネは怒ってた。
「ちょっと、あなた! わざわざ敵を挑発してどうするの! こんな顔しててもドウカンは剣士としては腕が立つのよ!」
「レネ様、私がどんな顔だというのです!」
「あっ!」
おっ、レネが地雷を踏んだようだ。
「さあ、早くお答えください! さあ、さあ!」
ドウガンが詰め寄る。といっても、距離はそのままで言葉でだが。それでも、レネは困っていた。うう、と小さくうめいていたが、すぐに、結論を出したようだ。
それは、逆切れ。
「あなたもさっきから、みみっちいこと言ってないで、説得ができないと思ったら力づくで来なさい! どうせ不細工は顔を整形しない限り変わらないんだから!」
ひどっ! 真実ほど人を傷つけるものはないっていうだろ、レネ。ドウガン、涙目だし。震えてるよ。あーあ、こいつも切れたな。
「下手に出ればつけあがって! 少々、痛い目を見てもらう!」
ついに、ドウガンが動いた。まっすぐにレネに向かう。
そして、左右のお付きの二人は……俺に来た!
すみません。
明日は事情により、更新できないかもしれません。
仕事で大失敗しまして……。
なんとか、明後日にはと思いますが、夜は遅くなるかもという感じです。
ごめんなさい。




