表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/43

非常に長く険しい序章 12


しばらくして、ようやく立ち上がることでできた俺は、通りを歩き始めた。


さっきのショックで、頭痛は消えていた。これが、ウ○コの力というものか……


通りは、俺がいた世界の商店街にイメージが近い。

いや、旅番組とかで見たヨーロッパの商店街っぽい。

石畳の道の両端に、レンガ造りの店があって、どこも客が入りやすいように扉を開放している。

道は自動車がすれ違える程度には広い。

といっても、この世界に自動車があるようには思えないんだが。


人もそこそこだった。歩きにくくはないが、活気があると思わせる程度には多い。

だから、必然的に店も多い。

何キロ続くんだろうってくらい道がまっすぐあり、ずーっと先まで店はあるようだ。


ここは、ただの街じゃないだろうな。首都的な何かか、観光地なんだろう。


そんなところなので、俺の目的とする武器屋もさくっと見つかった。

他にもあるような気もするが、そこはそれ。縁ってやつさ。


俺は極力、初めてではない顔をして店に入った。


「いらっしゃい」


うーん。


この世界は基本的に期待を裏切らない。


武器屋のオヤジって、なんとなーく強そうなイメージがあったんだよな。

ヒゲでムキムキ。腕には若気のいたりのイレズミがあり。

そんでもって、「にや」って笑うんだよ。獲物を狙う虎のように。

目の前にいるのが、まさにそんな感じ。


うへっ。

俺、買う気ないんだよなー。


それにしても、武器屋に入るのは初めてだけど……こりゃ、すげえなあ。


圧巻。圧巻だよ。


直刀、

曲刀、

片手剣、

両手剣、

サーベル、

短剣、

青龍刀、

棍棒、

棍、

多節棍、

鎖鎌、

モーニングスター、

槍、

斧、

戟、

薙刀、

手裏剣、

チャクラム、

弓、

メリケンサック、

トンファー、

鉄の爪、

ベアクロー

などなど


こちらでの本当の名前は分からないが、そんな形状の武器が所狭しと並んでいる。


おおお。

やっぱ、ここはファンタジーな世界だよ。

手を伸ばせば、ゲームの中でしか使えなかった武器に触れられる。

そして、銃砲刀剣類所持等取締法違反なんて気にすることなく、買えるし使える!


おーっ。かっこいい……。


ただ、商品には値札がついているんだが、金額が全然分からない。


数字が、地球と違うんだなー。


おかげで、俺の手持ちで買えるのかどうか、手がかりすらつかめない。


俺の推理だが、昨日のゴブリンのことを思えば、一般人が自衛のために日常的に武器を手にしている可能性は高い。ってことは、割に安価なんじゃないかと思うんだが。


……いや。


待て待て。


俺は客じゃねえ。ここに商品を卸せないか考えている鍛冶屋なんだった。

いけねえ。かっこよさにだまされて、危うく買いそうになったぜ。


「何を探してるんだ?」


店内を熱い目で見ているのがばれたようだ。


頭を冷やさねば。ここで金を使っては、明日のパンツさえ見つからない。多分。


「うーん、特に決めていないんですよねー」

「その体つきは、戦いが仕事ってわけじゃないな。護身用か?」

「そんなところです」

「お、でも短剣は持ってるじゃねえか。それはどうしたんだ?」

「いや、僕の物ですよ」

「分かってる、分かってる。万引きとか思ってるわけじゃねえって」


おやっさんは、がはははと笑った。あまり安心できない顔だ。


「短剣を使ってるのか?」


本人にその気はなくとも、こっちは詰問されてるような気持ちになるって。


「いえ、実はほとんど使ったことなくて」


だから、つい本当のこと話しちゃったよ。

俺が鍛冶屋の見習いであること。どこに卸せばいいのか分からなくて、とりあえず目についたここに入ったこと。


「それは、よくないな」


ずい、とおやっさんの顔が近づいた。顔だけが近づいた。もともと大きかった顔がさらに拡大される。そんな魔法なのか?

一度ついた真実は、突き通さないといけないっぽいな。


「やっぱり、まずいですかね」


こっから先は、俺も本音トーク。おやっさんに骨まで食われたくはないわけで。


「そりゃ、そうだ。使い方を知らねえやつが、いいものを作れるわけはねえんだよ。ま、一流の使い手になれるくらいなら、そっちで食ったほうが稼げるから、単純な話ってわけでもねえさな」


「はあ」自分でも情けないくらい、気のない返答だった。


「ただ」おやっさんはぶっとい腕を組んだ。左腕が前にきている。右脳が発達しているようだ。「どちらにしろ。うちじゃあ、あんたの作ったものは買い取れないんだがな」


「へ?」やっぱり、俺の声って間抜け。


「本当に、なんも知らないんだなー。街で商売をするってのも、簡単じゃないんだよ。よそもんから街の人間の利益を守らなきゃらなねえ。特に、ここみたいにお偉いさんの直轄じゃねえ、自由領でしかもでっかい街道のど真ん中にあるような街じゃな」


「つまり…?」


「この街には同業者組合、ギルドがあるわけだなあ。武器屋だけじゃなく、八百屋や魚屋とか商売ごとにギルドがあって、なかなかよそ者が商売できないように、流通や価格を調整しているって寸法だ。もちろん、ギルドはお偉いさんにも顔が利くから、そっち方面でも便宜が図ってもらえる。安泰ってやつさ」


「どういうこと?」


いや、言わんとすることは分かる。分かるんだけど、それって俺にとってすんごく良くない情報。なもんで、自分で結論を出したくなかった。ほら、取り越し苦労って、社会に出ると割にあるじゃん。


でも……


「ギルドに入ってない鍛冶屋からは買い取りができねえってこと」


「うはっ!」


やっぱ、ダメだったか! 

うん、嫌な予感してたんだよね。

取り越し苦労と嫌な予感だったら、圧倒的に後者のほうが当たるんだよな。異世界でも例外はないか。


むう。


「そこを何とか、なりませんかねえ?」

「残念だけどな」


おやっさんが顔をしかめている。同情してくれてるのか、面倒な話で怒ってるのか、表情から全然分からねえ。


とにかく、困った。


まいったね、こりゃどうも。


設備はあっても、販路がなけりゃあ商売はできない。

人脈がないから、個人営業もできやしない。

あと思いつくのは、このおっさんに弟子入りを志願することくらいだな。

でも、怖そうなんだよなあ。

怒られるのは苦手。

俺って褒められて伸びるタイプだし。

うん。褒められたことないけど、今まで伸びたことないから、きっとそうだ。


じゃあ、とりあえず他を当たってみるか。おっさんは最後の手段かなー。


「そいじゃ……」


と、俺が店から出ていこうとしたとき、店に入ろうとする人がいて、危うくぶつかりそうになった。


「ごめんなさい!」


とっさに数歩うしろに下がった。


相手も「こちらこそ、申し訳ない」と落ち着いた様子で謝っている。


男だった。

髪を肩まで伸ばした男。

人間だとしたら、二十代後半くらいかな。

理知的な容貌だが、柔らかみも持ち合わせている。

一言でいえば、「すげー仕事ができそうなタイプ。しかもワンマンじゃない感じ。おまけにイケメン」というところ。

一言じゃ収まんなかったけど。


シェイクスピアに出てきそうな薄緑色の、「中世ヨーロッパ!」な服装をしている。

かといって、派手さはない。爽やかさと堅実さを兼ね備えていた。


うーん、苦手なタイプ。


嫌いじゃないんだけど、気後れするんだよね。

自分のできないところを遠回しに指摘されてるみたいで。


いい人なんだろうけどさ。


で、そのいい人は、おやっさんに何やら話しかけている。


なぜか、二人は俺をちらちら見ている。


ん? 俺、何かまずいことしたか? 

心当たりはないが、ここは異世界、俺の何がタブーに触れているかも分からない。


……逃げよう。とにかく、逃げよう。


別れのあいさつはすでに済ませた、と思う。

ならば、扉を開けて外に出れば、俺は自由だ。

ゆっくり急いで、俺は扉を開けた。


ぎしっ。


こんなときに限って、扉が素敵な音を立てる。


「おい、坊主!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ