第1話 私は神です。
私は神です。
いきなりこんなことを言われても、困るでしょうね。
ですが、事実です。
私は神です。
もっとも、神といっても、何でもできるわけではありません。
神々の世界にも階級があり、管轄があります。山の神、海の神、火の神、水の神、風の神、雷の神。ほかにも、さまざまな神がいます。
日本だけではありません。外国にも神々はいますし、それぞれに役割があります。
なかには、石油に関わる神もいます。
世界のどこかで戦争が起きれば、石油の供給や価格にも影響が出ます。人間の暮らしも、森の環境も、遠い国の出来事と無関係ではいられません。
もっとも、だからといって、私が石油の値段まで管理しているわけではありません。
私は水の神です。
正確に言えば、山の神も兼務しています。
私の担当区域は、日本支部、宮城県富谷市です。
富谷市にも山はあります。山の神が聞いたら怒るかもしれませんが、山岳地帯と呼ぶには、少々控えめな地形です。
それに、山には水が必要です。
雨が降り、土に染み込み、沢を流れ、池を満たす。山と水は、そう簡単に別々の担当者に任せられるものではありません。
というわけで、私は水と山の兼務です。
もっとも、兼務だからといって、仕事が半分になるわけではありません。
神々の世界も、そのあたりは人間の世界と大差ないようです。
さて。
私が担当している富谷市には、人間たちの暮らす街があります。
住宅が建ち、道路が延び、店が並び、人々が行き交う。
人間たちは、自分たちが暮らす場所をよく知っているつもりでいます。
もちろん、よく知っている場所もあるでしょう。
けれど、人間が知っている世界が、そこにある世界のすべてとは限りません。
人間が道路と呼ぶものを、別の生き物は違うものとして見ているかもしれません。
人間が何もないと思っている場所に、誰かの暮らしがあるかもしれません。
人間が偶然だと思った出来事が、別の生き物にとっては、長いあいだ受け継がれてきた約束の一部だったとしたら。
人間の知らないところにも、世界はあります。
それは、遠い異世界の話ではありません。
人間たちが毎日歩いている道のすぐそば。
木々が茂り、草が伸び、土の匂いが漂う森の中にも、その世界は広がっています。
では、少しだけ、そちらをのぞいてみましょう。
人間の暦で、2023年10月。
秋が深まり、森の空気にも季節の変化が表れ始めたころです。
森には、森の暮らしがあります。
人間たちがまだ知らない、動物たちの世界があるのです。
なお、これからお伝えする動物たちの会話は、私が人間の言葉に翻訳してお伝えします。
動物たちは、人間の言葉で話しているわけではありません。
彼らには彼らの言葉があり、彼らなりの伝え方があります。
その言葉を、皆さんにもわかるようにお伝えしましょう。
それでは、始めましょう。
まずは、一頭の熊の話からです。
その熊にとって、森は暮らしの場であり、道は何度も通ってきた道でした。
しかし、その秋、いつもと同じはずの森に、少しずつ変化が現れ始めていたのです。




