01 異世界転生
湯気の立つふんわりオムライスの優しい卵のにおい。カウンター越しに聞こえる父の笑い声と、母の小さな鼻歌。
高校三年生の私――幸田優菜は、この時間がずっと続くと信じていた。
でも、現実はあっけなかった。
両親が事故で病院に運ばれたという知らせが高校に届いたのは、ちょうど下校時間にさしかかった頃だった。
ただの悪い冗談にしか思えなかった。
だけど、小さな棺の中で眠るように横たわるふたりを見たとき、私はようやく理解した。お父さんとお母さんは、もうこの世にいないんだ、と。
(これから、どうしよう)
両親がやっていた駅前の「ユキダ洋食店」は、どこにでもあるような小さな店だった。看板には母が描いたトマトの絵。料理には、父の味が詰まっていた。
高校を卒業したら一緒に働きたいと思っていた。そのために調理の勉強ができる高校を選んだのだ。けれど今は、何者でもなかった。まだ高校生の私がひとりでこの店を続けることなんてできるはずがない。
地域の人に助けてもらってお葬式ができたけど、他に親族もいない私はひとりぼっちだ。
葬儀を終えて、家の鍵を閉めて、人気のない商店街を歩いた。
リュックに父のレシピノートと、母が誕生日に用意してくれた新しいエプロン。二人と一緒にいるような気持ちでいたくて、ただただ歩いた。
夕焼けが滲んで、影が長く伸びる。
「……どこに行けばいいんだろう、私」
ぽつりと漏らした声は、誰にも届かない。
足を止めて、地面を見つめる。あてもなく歩いていたせいで、つま先がじんじんと痛んだ。
帰らないと。でもどこに?
そう思っていたときだった。耳鳴りのような音がして、足元のアスファルトが突然カッと光を放った。
「きゃあああ!?」
目を伏せる間もなく、まぶしい光に包まれる。
身体がふわりと浮き上がるような、重力から切り離されるような感覚。痛みも、怖さもなかった。ただ、真っ白な光が視界を埋め尽くして――
気がつけば、私は森の中にいた。
緑の天井のような木漏れ日、湿った土の匂い、遠くの小川のせせらぎ。
「え……? ここ、どこ」
呟いた声だけが、葉の間からこぼれてゆく。
辺りを見渡しても、見慣れた風景はどこにもない。アスファルトもなく、自動車もない。建物も、人もいない。
それが、私と異世界との最初の出会いだった。
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