16.人質(みえる)
『30回 体をねじる運動』
最後どうなったのか、記憶のないお坊ちゃんだけど、懐中時計が見つかってほっとしているようだった。怪我は魔法で治療して、早々に退散する。もう関わりたくない。
互助会で報酬がもらえたので、予定通りケーキを買おう。売り切れてないといいなぁ。いそいそとお店に向かっていると、髪の毛がひっぱられる。「それ」が私になにか伝えたいらしい。向いた先に屋台。ウインナー串を売っている店だ。これもなぜか、「それ」が私に食べさせたがる。でも今日はケーキだ。
「…っ!」
体が勝手に動かされる。立ったまま、腕と一緒に体をすばやくねじる。体をねじる運動だ。異国では、音楽に合わせてやると聞いたことがある。ローブの裾を確認するふりをして体を元に戻す。今度は反対側にねじらされる。おしりのあたりが気になるふりをして体を元に戻す。こんな場所でトレーニングさせないで。
「…」
私は嫌がらせには屈しない。なるべく早く、人のいない路地に入ろう。制御を奪われて、すっかり頼りなくなった、体をおさえつつ歩きだす。またすばやく動く体。えっ、この運動はウエストまわりの引き締めに効果的で、毎晩鏡の前でチェックしてる私におすすめ?…あ、あれは、あんなに鍛えたのに、割れる気配のない腹筋を見てただけだよ!
「せいじょさま、おかおあかいよ?おねつあるの?」
小さな子に心配された。
「…えっとね、ローブの中に虫が入っちゃってね、どうしようかなって。」
この言い訳はまずい。こういう言い訳を「それ」は見逃さない。ねじりに合わせて、体がつつかれる。
「きゃっ!」
右。
「もうっ!」
左。
「わっ!」
右。虫に慌てる聖女が演出される。恥ずかしすぎる。ちょっと、虫になりたいって聞こえたけど、どういうこと!?急な動きでゆるんできた、ローブの胸元をおさえる。もう無理です。ごめんなさい。カウントが消える。
「…ウインナー串、1本ください。」
「災難だったね。慌てる聖女さんなんて初めて見た。チーズおまけしてあげよう。」
「…ありがとうございます。」
ケーキは諦めて、帰ることにする。ウインナー串は美味しいけど、私にはちょっと大きい。1本でもうおなかいっぱいだ。「それ」によると、肉やチーズは筋肉の元になる栄養が、多く含まれているらしい。ただし、ちゃんと運動しないと別の場所に…えっ、さっきのカウントの残りが利子つきである?ウインナー串、買ってあげたよね!?…すっごく理不尽だけど、やむをえず帰ったらやるよ。




