15.孤児院-②(みえる)
『30回 足あげ腹筋』
宿に帰ってきた。ドアを閉めようとすると、小さい子がいる。孤児院からついてきた…はずはない、輪郭がぼやけてる、「それ」だ。そっと閉めようとしたら、すり抜けて入ってきた。たぶん、孤児院の夜にきた子と同一人物(?)だ。
やれやれと思いつつ、片付けをしていると、そっとしがみついてきた。私のおしりにちょっと届かないくらい。3歳くらいのイメージなのかな。そして、躊躇なく私に足払いをかけて、マットに転がす。やめて。
「…」
私の体を小さな「それ」が一生懸命動かして、位置を調整する。仰向けの体勢で、両手は体の横、手のひらはマットにつける。床と垂直になるまで、ゆっくり足を上げて、ゆっくり戻す。呼吸は止めないように注意。足あげ腹筋だ。ねぇ、この運動、ローブでやりたくないんだけど。
「…っ!」
腹筋に違和感。ぷるぷる震える体。私より先に筋肉が思いだして、休憩を申請しようとする。少し遅れて、あのはらはらした夜を思いだす。子供たちを起こさないように、クールダウンが十分にできなかった。プランクで使った場所近くへの、別の形での負荷。私の中で、理性と本能がせめぎ合う。
『3分 プランク』
「…はぁ…はぁ…」
意思の力を総動員して、なんとかやり終えた私の前に現れる、絶望的なカウント。昨日の負債、利子つきだ。分かってる、このままなら終わらないし、このままでは終われない。さわさわと、「それ」が私の頭をなでる。言い訳はしない。悲鳴をあげる私の体。正当化もしない。そして、許しを乞うように、ゆっくりと、私のひじとひざがマットにつく。励ますような光。ぎゅっと奥歯をかみしめる。
「ぐ…ううっ…」
まずは1分。やりきる。ねぇ、もうやめようよ。
「ふぅっ…ふぅっ…」
もう1分。いやでもカウントが。そもそも「それ」が、孤児院なんかで運動させたせいでしょ?
「〜っ!」
最後の1分。…冷静に考えるとたしかにその通りだ。そうだよ、私はなにも悪くないんだよ!
床に転がり、肩で息をする。やりきった。もう少し、このまま。服が乱れてる。床がひんやりする。ちょっと落ち着いてきた。もう大丈夫。よく考えたら、いずれにせよ「それ」のせいだ。「それ」がおかしい。ちょっと腹が立ってきた。冷ためのシャワーでさっぱりして寝よう。




