前編
ある朝、目を覚ますと、金色だった髪が黒色に変わっていた。
何が起きたのかはすぐには分からなくて。
でも周りに隠すこともできなくて。
なので取り敢えず親には説明し、またそこからの流れで、婚約者である彼エンヴェリットにも話しておくことにした。
――だがしかし。
「はあ? 黒髪になった? あー、そう。ついに馬鹿になっちまったか」
「どうして、そんな言い方……」
「ま、ちょうどいいや。あんたとの婚約、破棄するわ。前から実はそうしたかったんだよなぁ」
エンヴェリットは寄り添ってはくれなくて。
「俺さ、あんたみたいなレベルの女じゃなくて、もっとハイレベルな女と仲良くしていきたかったんだ」
「そんな……」
「あんたはさ、害はないけどさ……なんていうか、面白くねぇんだよな。パッとしねぇっていうかさ。だからこれはちょうどいい機会だわ。あんたとはここまで。これでもうおしまい、な」
むしろ傷つけるような言葉を発してきて。
「あんた、髪だけは綺麗だったのにな。あーあ、残念。ってか、あんた、これからどうやって生きてくんだよ。唯一の良いとこも失っちまって。救いようがねぇなぁ。けど、ま! 俺には無関係だし! あんたがどうなろうが知ったこっちゃねーわ! せいぜい頑張れよな!」
そのまま躊躇いなく関係を叩き壊した。
髪の色が変わっただけでここまで言われるとは思わなかった。なので正直なところはショックだった。エンヴェリットがこんなにも心ない人だったなんて、と、悲しくも思ったし。彼はもう少しまともな人だと思っていた、だからこそショックというか何というか。残念としか言い様がない。
◆
私の髪色が変わったことを知った聖者が突然家へやって来た。
その人は「もしかしたら女神の力が宿ったのかもしれない」と言ってきて。
私はただただ困惑することしかできなかったけれど、聖者から強く言われたこともあり判別へ進むことにした――そしてその果てで『女神が宿った』と認められた。
それにより正式に『女神を宿した聖女』となった私は、一躍時の人となり、そこからありとあらゆることが変わった。
「聖女さまー! どうか国を護ってくださいー!」
「この国を永遠に平和にしてくださいっ」
「いやあー! 美しぃーっ! 聖女さま、こっち向いてー!」
そして、王子アヴェンドルの妻となることに。
「偉大なる聖女さまーっ、どうかいつまでも、この国を穏やかにー!!」
「ああお美しいー!」
「こっち向いてよぉ! 見つめ合いたぁい! 早く早くぅ! こっち見てぇ! 今日も最高過ぎるぅ!」
人前に出れば、誰もが称賛の言葉をかけてくれる。
髪が黒になってしまって、それによってエンヴェリットに心ない言葉をかけられて、不幸だと思ったし心が折れそうになった瞬間もあった。けれどもそれは正しくなかった。一瞬不幸だと思ってしまった自分を責めたいくらいに、今の私は幸せだ。
民から愛され、良き夫と巡り会え、眩い光の中で歩むことができている――こんなに大きな幸せがあるだろうか。
もう誰も、私を傷つけられはしない。
もう誰も、私を侮辱などできはしない。
私は聖女として、王子アヴェンドルと共に、光射す道を行く。
国のため、民のため、そして私自身の幸せのために。
これからも真っ直ぐ前だけを見据えて生きていく。




