(二)地域間交流会、または合コンについて
◆ 三 風祭令と地域間交流会
その中で、ひときわ異質な連絡があった。
風祭令からだった。
中部の山岳、河川、交通導線を担当する偏向系八重士。
軽さはあるが、若手の定着を本気で気にしている。
文面は丁寧だった。
ただし、件名がよくなかった。
> 件名:地域間交流会、または合コンについて
美緒は、数秒だけ画面を見た。
「件名が悪い」
透は画面を覗き込む。
「でも“地域間交流会”も入ってますよ」
「“または”でつないだ時点で悪いです」
本文はもっと悪かった。
> 片桐さん。
> 若手に確認したところ、地域間交流会よりも合コンという表現の方が参加率が高いとのことでした。
> ただ、自分は合コンの運用仕様を把握していません。
> 先日のメールに添付した六名は、交流希望者です。
> 可能であれば、適切な形式へ変換していただけると助かります。
透は画面を見て、しばらく黙った。
「真面目だ……」
美緒は、眉間を押さえた。
「真面目なのが一番厄介です」
風祭は、決してナンパな男ではない。
軽さはある。
だが、根は真面目だった。
山奥の担当区域では、若手が定着しにくい。
仕事はある。
責任もある。
だが、生活が続かない。
同世代の退魔士と出会う機会がない。
他地域との横のつながりがない。
愚痴を言える相手も、相談できる相手も少ない。
だから若手に言われた。
合コンみたいなの、セッティングできませんか。
風祭は、それをそのまま美緒に送った。
要件は明確な方がいいと思ったからだった。
美緒は端末を見ながら言う。
「要件は明確ですが、語彙が危険です」
透が頷く。
「風祭さん、悪気はないんですよね」
「悪気がない仕事が、一番処理しづらいんです」
「悪気があれば?」
「断れます」
「真面目だと?」
「処理します」
透は、少しだけ同情した顔になった。
「美緒さん、頑張ってください」
美緒は透を見た。
「その言葉でも人は残業します」
「すみません」
◆ 四 つづり、商機を嗅ぎつける
宮守つづりが、追加請求書を持ってきた。
八重結び作戦で使った術具。
予備札。
署名札。
停止札。
固定杭。
そして、売り物ではないはずだった緊急用の術具。
全部、請求対象だった。
つづりは紙の束を置く。
「はい、追加分」
美緒は一枚目を見た。
「金額が増えています」
「使ったからね」
「売り物ではないやつも入っています」
つづりは胸を張る。
「売り物じゃないやつを使ったから、売り物より高いよ」
透が横でつぶやく。
「理屈が強い」
美緒は即座に言う。
「強くありません」
つづりは、美緒の端末に表示された地域間交流会の文面を見た。
「交流会?」
美緒が端末を伏せる。
「見ないでください」
「合コン?」
「読まないでください」
「商機?」
「嗅がないでください」
つづりは目を輝かせた。
「飲食、宿泊、交通、安全祈願、身だしなみ札、縁結び護符、会場結界、帰宅時の迷い避け」
「全部いける」
透は少し感心する。
「商売の枝がすごい」
美緒は冷静に返す。
「伸ばさなくていい枝です」
つづりは椅子に座る。
「でも風祭さん、悪い人じゃないよ」
「若手のためでしょ、これ」
美緒は少し黙った。
「分かっています」
「だから削除していません」
つづりはにこっと笑う。
「じゃあ、処理するんだ」
「します」
「じゃあ、ついでに提携業者として」
「しません」
「まだ内容言ってない」
「言う前から分かります」
「美緒ちゃん、成長したね」
「あなたへの対応精度だけ上がっています」
つづりは、まったく傷つかない顔で笑った。
「それも信頼だね」
美緒は追加請求書へ視線を戻す。
「請求額は信頼していません」
「そこは信頼してよ」
「確認します」
「ひどい」
透は、二人のやり取りを見ながら思った。
現場の霊障より、現場後の請求書の方が怖いこともある。
たぶん、それは報告書には書かない方がいい。
※第8.5話「片桐美緒の未精算残業」は全五回です。
続きます。
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