第8話 突然のお願い
翌朝。
教室に入ると、今日も瀬戸さんは先に席に着いていた。
「おはようございます、瀬戸さん」
春から挨拶する。
瀬戸さんは、少しだけぎこちないけれど
「おはようございます」
と柔らかく返した。
そのあと、特に会話はなかったけど──
昨日の“沈黙の空気”とは違い、
どこか心地よい静けさが流れていた。
ーー
昼休み。
春日井が弁当を持って俺の席に来る。
「で、昨日は話せたか?」
「……話せた。ありがとう」
素直にそう言うと、
春日井は嬉しそうに笑った。
「よかったな! なんか困ったら相談しろよ」
「助かる」
春日井は、根掘り葉掘り聞くことはせず、
他愛もない話をしながら弁当を食べてくれた。
そして、満足そうに席へ戻っていった。
ーー
放課後。
瀬戸さんはいそいそと荷物をまとめていた。
生徒会の時間が近いのだろう。
(……今迷惑かな、いや一言でも話したい)
胸が少しだけ高鳴る。
昨日より、ほんの少しだけ勇気がある。
「……生徒会、忙しいの?」
声が震えないように気をつけたつもりだったが、
自分でも分かるくらい緊張していた。
瀬戸さんは驚いたようにこちらを見て、
「新入生の対応に追われてて……」と苦笑しながら答える。
その言葉のあと、
瀬戸さんがハッとしたように俺の顔を見る。
「……?」
俺も驚いて見返してしまう。
瀬戸さんは、胸の前でそっと手を握りしめながら言った。
「も、も、もしこのあとよければ……」
喉がゴクリと鳴る。
「生徒会のお手伝い……できませんか?」
「え、あ……もちろん」
反射的に答えてしまったのは、もうしょうがない。 だって瀬戸さんのお願いだもの。
瀬戸さんはほっとしたように微笑む。
その笑顔を見た瞬間、
胸の奥がじんわり熱くなった。
(……これは反則だよ、次は内容聞かずにイエスって言っちゃうよ…)
二人で並んで歩き出す準備をしながら、
俺はそんなことを思っていた。




