18話:鍵穴
あらすじ
ゾリオ連邦軍大将とハリコフの間で激戦が繰り広げられる。その最中、ゾリオの策により窮地に陥る連盟軍。第五師団の強引な参戦とシャルルの独断専行により崩壊は免れたものの、ハリコフはあることに気付く。
リエはどこだ……?
サマルは目の前のマークと戦いながら、戦慄していた。目の前の"怪物"は、迫る岩礁をことごとく避けては破壊し、自分に一撃を食らわせてくる。
(この一撃一撃の力、恐らく身体強化系だが、それを加味しても説明しきれない強さ……そして身のこなし! 何という怪物なのか……!)
行動一つ一つに命をかける必要がある。これほど恐ろしい怪物を、野放しにはできない……! サマルは命をかけて目の前の男に立ちはだかる決意を抱いた。
一方、シャルルもアキラの能力の高さに驚いていた。
(こいつ……狙撃の腕はそこまでだが、飛行能力が奴の部下と比べて桁違いーー)
瞬間、低空飛行でアキラが蹴りを入れてくる。即座に銃を盾に構えるも、受けきれず身体が吹き飛んでしまう。立ち上がるシャルルに対し、レールガンを構えたアキラは嘲り笑う。
「その程度か?白騎士」
「抜かせ、撃ち落としてくれる」
そう言い合って再び闘い出す2人を、マークはじっと見つめていた。そんな彼に対しサマルが口を開く。
「余裕だな、俺のことは眼中にないか」
「いや? アンタは強いさ。だからな……」
少しばかりの余白とともに、続ける。
「少し、思いついちまった」
「ふん、何であろうとやらせぬわ!」
再び岩石と斧の応酬が続く。迫りくる大岩の波を紙一重でかわすマーク。斧を振りかざし、己の膂力すべてを持って振り下ろすも、手に生やす岩で流される。その時、マークはニヤリと笑った。
「俺は銃も使うぜ?」
「なっ!?」
左腕で隠された死角から、1発の鉛玉が飛び出してくる。サマルは必死に体を反らし、何とか回避に成功した。
「だよな。アンタなら避けれると思ったぜ。だから利用させてもらった」
目の前の男が何を言っているのか分からず、咄嗟に後ろを振り向いてしまう。その視線の先、鉛玉が向かう場所はーー
「っ、シャルル!」
「!?」
シャルルは必死に身体をひねるも、右腕に当たってしまう。そしてそのわずかな隙を、アキラが見逃すはずがなかった。
「じゃあな。白騎士」
レールガンの照準を合わせ、引き金を引く、まさにその時。
紅き粒子が、飛竜のごとく駆け巡り、アキラのすぐ横で爆発を起こした。
「ぐぁっ!?」
まともに食らったアキラが墜落する。その場の全員が混乱し、周囲を見渡すと、2人のの兵士がそこにいた。
「リエ!? 何故まだここに!」
「私が……戦友を、置いて、逃げると思う……?」
シャルルが絶叫する。視線の先には、ヤードナーの肩を借り、攻撃を行った満身創痍のリエの姿があったからだ。
先に動いたのはマークだった。足の筋肉を膨張させ、その獲物の下へ跳躍する。
「!」
ヤードナーが銃を片手に乱射するも、全て見切られる。サマルはマークの牽制で動けなかった。
首に正確無比に飛んでくる狙撃も斧で防ぐ。すべての妨害をはねのけ、怪物は目標のもとへたどり着いた。マークが斧を振り上げる。
「逃げろ、リエぇぇぇぇぇ!!」
大地が裂けそうになるほどのシャルルの絶叫を聞いても、リエは動けなかった。意識があることもおかしいほどの重傷で、できるはずがないのだ。ヤードナーがリエを庇う。それでも止められないことを、リエは十分承知していた。
(ごめん、みんな。私はここまでみたい。……あぁ、こんなことなら、最後、あいつと……)
ハリコフと、会いたかったな……。
目を閉じ、静かにその時を待つ。……しかしいつまでもその時は来ない。不思議に思って目を開けると、そこには。
「やら、せるかよ。クソ野郎……!!」
「ハリ……コフ……?」
マークの斧を、火花を散らしながら間一髪で止めているハリコフの姿があった。そのナイフを叩き斬れないマークは驚愕する。
(俺が叩き切れないだと……!? コイツの超能力は何だ!? いや、今はそんなことどうでもいい……!)
即座に思考を切り替え、ハリコフのナイフをはじき飛ばす。がら空きの胴に斧を叩き込もうとした矢先。
「リエ!」
「!」
ハリコフが取り出した手榴弾を投げると同時、リエが彼女らを粒子で包む。マークは即座に回避行動を取るも、少しばかり食らってしまい地面に転がり落ちる。
「ハリ、コフ……なんで、ここに……」
「ここに向かうお前らを見て、考えるよりも先に走り出してしまってな。俺の采配で優秀な将校が死ぬのは、絶対に許せない。それに……」
膝をつき、こちらを睨むマークに対し宣言する。
「俺は命に変えてでも、リエを、俺の光を守ると、あの日誓ったんだ……! 絶対に殺させない!」
「ほざけ、もう一度ーー」
「お嬢とハリコフから離れろぉ!」
サマルが必死の形相で岩礁を繰り出す。意識を向けていなかったマークはまともに食らってしまった。吹き飛び、地面に倒れ伏す。
リエを守りながらその姿を確認したハリコフは、安堵からか一気に体の力が抜ける。そこにシャルルが寄ってきた。
「指揮官の立場で、あんな無茶二度とするな。だが、感謝する。お前がいなかったら、リエも俺も死んでいた」
返す気力もないハリコフに向けて、シャルルは続ける。
「そして、先ほどの言葉を訂正させてくれ。お前の仲間に対する想いは死ぬほど伝わった。済まなかった……。かといって、リエを渡すつもりもないがな」
「……ハッ。分かったなら何よりですよ。こっちも渡す気はありませんけど」
シャルルの手を取り、ハリコフは立ち上がる。少なくとも彼らの間に、もうわだかまりはないようだった。
そして周りを見渡す。どうやら敵兵に囲まれたようだ。マークとアキラは回収されたらしい。その群衆の中から、敵の指揮官が現れる。
「本当に想定外だ、うちの部下たちも跳ね除けるとは。……貴様らはなぜ、そこまでして戦うのだ。敵を殺し、味方を殺し、平和を破り捨てた先に何を求める!」
その問いに対し、ハリコフは、力強くこう答えた。
「……自由だ。我々は、お前たちファミナスが作り上げた地獄のような【鳥籠】から抜け出して、自由を手に入れる!」
「……そうか、それがお前たちの求める『答え』か。だがこちらにも国と平穏を守るという責務がある。……部下たちの敵を、取らせてもらおう」
そういってゾリオは腕を上げる。
援軍到達まで、残り五分。サマルとシャルル、ハリコフは構え直す。生きることを、彼らはあきらめなかった。
ゾリオが腕を振り下ろす。そして、無数の攻撃が放たれた。
ハリコフ達にではなく、進軍するゾリオ達連邦軍に向かって。
「なにっ!?」
突然の意識外からの攻撃に、ゾリオは動揺の色を隠せない。ハリコフ達も訳が分からず呆然としていると、ハリコフの通信機から、ノイズと共に一人の声が響く。
(ーーハリコフ、聞こえるか? 済まないな、少し遅れてしまった)
声の主、トーマス北部総司令は、眼下の大軍を見据え宣言した。
「北部方面軍狙撃特科兵団約5000、北部総司令トーマス・ジェメニのもと、14時43分。」
『戦闘に参加する』
まずいな……。一人の人物として描くと、トーマスのことを好きになってしまいそうだ。奴は今頃元気だろうか……。そうだといいな。




