黒髪の王族
——生まれ落ちたその瞬間から、存在自体が罪だった。
王弟オズワルドは、黒い髪を持って生まれた。罪の理由はそれだけだ。
この国の王族は代々、サファイアのように深く鮮やかなブルーの瞳と、陽の光のように淡く輝く金髪を持って生まれる。オズワルドは澄み通った蒼の双眸を有していたが、しかし髪色は先帝の側妃の髪色を受け継ぎ、闇夜の鴉のような黒色だった。
兄の髪は眩しかった。
当代王の即位式で玉座に座る兄の姿は、まさしくこの国の統治者に相応しかった。このことに、嫉妬心を抱いたことはない。即位式の日、王冠を戴く兄の姿を、オズワルドは凪いだ心持ちで見上げていた。兄は長子で、王妃の息子で、王家の色を持つ——こうしてこの国の頂点に君臨するのは当然だと、心からそう思っていた。
戴冠の儀を終えると、臣下たちは順番に玉座の前に膝をつき、忠誠を誓う。オズワルドは王の次に位の高い者として、すべての貴族諸侯に背を向けて、新王と言葉を交わす最初の者となる名誉を賜われた。
『敬愛なる国王陛下。永遠の忠誠をお誓い申し上げます』
あのときの言葉に嘘偽りはない。
兄は人格者だった。自身の優生を決して誇ることなく、むしろ慈しみを持ってオズワルドに接した。兄弟仲は悪くなかった。あの頃は自分も要職につき、国家の中枢を任されていた。兄王を臣下として支える王弟の図として、それは健全で美しい光景だったように思われる。
さざ波が立ち始めたのは、兄が王位継承してから数年経ってのことである。
——世継ぎが生まれない。
まだ焦るような時期ではないが、万が一の場合の選択肢は考えておかねばならない。そうすると、貴族諸侯たちは思い至ったのだ——黒髪の側妃の息子が、玉座に君臨する可能性に。
保守的な者たちは、反射的にそれを拒絶した。王族の証たる金の髪を持たざる者を、王として崇拝することは耐え難い、と。金と青こそ尊い色で、だからこそ自分たちは膝をつくのだと。その深層には、ありふれた黒髪ごときでも王位に立てるというのならそれは自分でも良いではないか——という自尊があった。その矜持を兄王はくだらないと一蹴したが、彼らの意識を改めるにはあまりにも問題は根深かった。
影では、オズワルドは不義の子だと噂する者すらいた——おおっぴらにそのような浅慮な発言をするのは、相手にする価値もない、瑣末な下位貴族くらいのものだったが。しかし、そうした好奇な噂話の種にされるところに、オズワルドが王族としては軽んじられているという事実がうっすらと映し出されていた。
狡猾な狸たちは、万が一にも王弟の世となったときに自分たちの影響力を強めるために、オズワルドに近づいた。意図せず腹黒い者たちに囲まれるようになったオズワルドは、おのずと疑心の目を向けられるようになった。兄王との関係性が悪化することはなかったが、その忠実さにも裏があるのだろうと揶揄する者も少なくなかった。
王太子アーノルドが生まれると情勢は少し落ち着くが、一度生まれた疑念はそう簡単には消えない。
幼いアーノルドが少し体調を崩すだけで、オズワルドが謀ったのではないかと噂される。王弟としてアーノルドに次ぐ王位継承権を持っているオズワルドは、保守派にとって依然として脅威であり、嫉妬の対象だった。




