表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

1話

 冒険者を辞めて1年……それなりに溜め込んだと思っていたが目減りしていく金にあせりを感じる。

 この調子では10年もすれば金が尽きる……本来なら50年は持つ計算だったんだが……。


 これは仕方ないことだ15から10年間切った張ったの世界にいたのだ、そんな世界にいた自分を癒すためだと酒を飲み女を買うのは当然だろう……。まぁ、幸いギャンブルをしないから他の仲間のようにいきなり身持ちを崩すということはないが……。


「チッ。金がねぇ」


 いや、金はあるが稼ぐ手段がない……。俺はどうするべきか考える。今更また、冒険者に戻るというのだろうか? しかし、1年経った今では昔と違い確実に衰えているため死ぬ未来しか見えない。


「きゃっ!」

「おい獣人! この国から出て行け!」

「そうだそうだ!」


 ガキ共がガキを1人囲んで暴力を振るっている。


「あぁん? なんだ?」


 聞く限りだと獣人に暴力を振るっているようだ。まだこの国に獣人がいたんだな……俺はそんなことを思う。

 1年前は奴隷としてそこらへんにいた獣人たちであるが獣人たちが立ち上げた国が台頭してからは獣人奴隷の解放宣言が出て、この国から表向きは獣人の奴隷は消え去った。

 解放されたほとんどの獣人は獣人国家へ、しかし帰る手段のなかった獣人などがこのように取り残されていたりするのだ。


「ふむ、使えるな」


 獣人というのは人より優れた力を持っている。そして一度躾ければ従順だ。だからこそ奴隷として、重宝されていたというのもある。


 見た限り獣人のガキはやせ細っており弱っている。もし仮に、コイツがメシをしっかり食べてやせ細っていなければガキ共の立場は逆転していただろう。それくらいに獣人っていうのは強いことを俺は知っている。


 まぁ、しばらくの間でも金づるになってくれればそれでいい。俺はそう考えてガキ共に近づく。


「おい、ガキ共。何してる」

「な、何だよおっさん!」

「聞こえなかったか? 何をしていると聞いたんだ」

「……えっと、その、獣人を、その、追い出そうと」


 ガキ共の1人が粋がって突っかかってくるものだから威圧をしてしゃべらせる。


「こんな往来でか? 邪魔すぎて貴様らも蹴り飛ばされたいのかと思ったんだが……蹴り飛ばされたいか?」

「……っ!」


 粋がっていたガキ共は頭を左右に振り拒否を示す。


「そうか、それじゃあ邪魔だから散れ!」

「は、はいぃい!!」


 その場からガキ共が散るがヒソヒソと今度は陰口を叩かれる。まぁ、往来でこんなことをすればそれも仕方ないだろう。


「うぅ……ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「はぁ、おい、獣人のガキ。ついて来い」

「ごめんなさ……え?」


 ガキ共が去った後も丸まって謝っていた獣人のガキに声をかける。


「ついて来いって言ったんだ。立ち上がれ」

「は、い」


 こんな往来で蔑むような目線に晒されながら話す趣味はないので震えている獣人のガキを連れて俺は歩き出す。


「お前。名前は?」

「……ないです」

「ん? 親は?」

「死に、ました……」


 いくつか聞いていくと、どうやら1年前の解放までは奴隷として育てられていたがやはり捨てられたようだ。両親は奴隷で奴隷商が生まれてすぐに引き離したから顔すら知らないとただ死んだということだけ伝えられたらしい。


「そうだな……名前がないのは不便だな。……ゾロ。そう呼んでやるよ」

「ゾロ?」

「俺の師匠の名前だよ。お前にやる」

「ゾロ……ゾロ」


 田舎の3男坊として生まれ、あこがれて都会に出てきた田舎者の俺を世話してくれた気のいい男の名前だ。いい奴過ぎてすぐに死んだがな。

 まぁ、それはいい。獣人のガキは名前を気に入ったのか何度も口の中で呟き薄く微笑んでいる。尻尾もパタパタと揺れて嬉しそうだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白くなりそうなのに続編がないのは辛い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ