表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/27

22、 むずかしい問題(もんだい)



「おきなさい。ユタ」


 耳のすぐそばでお兄さまの声が聞こえて、ぼくは目をさました。お兄さまを待ちながら、いつのまにかねむってしまっていたのだ。

 あわててとびおきると、お兄さまはとてもこわい顔でぼくを見ていた。


「ばあやから、石の広間でわたしに声をかけてはいけないと、教えられなかったのか」


「……教えられました」


 ぼくは、ばあやがしかられると思って、あわててそう答えた。


「それなのに、なぜ言いつけをまもれないのだ! あのようなことをすれば、わたしのそばをまもる兵士に、その場できられてもおかしくはなかった!」


 お兄さまに大きな声でしかられたのは、はじめてだった。それほど、ぼくのしたことはわるいことだったのだろう。それでも、はじめからそんなことは分かっていた。ピウラをたすけるために、それをおそれてはいられない。


「お兄さま、だいじな話を聞いてください」


 ぼくは、お兄さまにまけないくらい、こわい顔をつくったつもり(・・・)になって、お兄さまをにらんだ。

 しばらくそのまま、お兄さまとにらみあっていたけれど、そのうちお兄さまの方があきらめて、大きなためいきをついた。


「なんと、がんこな子だ。おまえのだいじな話とは、いったい何なのだ」


「ピウラをたすけてください」


「ピウラ?」


「今度、お山の神さまのところへ行くことになったアクリャです。ピウラにはたくさんの家族(かぞく)がいるのに、その家族とわかれるなんて、かわいそうです」


 一度はしかるのをあきらめたお兄さまが、急にさっきよりもこわい顔になって、ぼくにどなった。


「おまえはアクリャに会ったのか! アクリャに会ったということは、アクリャワシに行ったのだな! それがどういうことなのか、わかっているのか?」


「わかっています! ぼくはどんなバツでもうけます! でも、ぼくがバツをうけるかわりに、ピウラをたすけてやってほしいんです!」


 ぼくはさけびながら、なみだをぼろぼろとながしていた。けれど、お兄さまの目からぜったいに目をそらさなかった。

 お兄さまは、今にもぼくをなぐるのではないかと思うほど、むねのところで強くにぎりしめた手を、わなわなとふるわせていた。


「ピウラがかわいそうです。家族とわかれなくてはいけないなんて、ピウラがかわいそうです」


 お兄さまはにぎりしめた手をひらいて、ぼくの顔に手をのばした。そのりょう手でぼくのほおをきつくはさむと、ぐっと顔を近づけて、ひくい声でゆっくりと言った。


「本当にかわいそうに思っているのは、自分ではないのか、ユタ。アクリャたちはふるさとをはなれるときに、二度と家族に会えないことを知っているのだ。かくごをきめて、(みやこ)にやってくるのだ。

 そのアクリャは今になって家族とわかれたくないと言ったのか? たすけてほしいと、おまえにたのんだのか?」


 ぼくは、きゅうによわ気になった。ピウラの言葉を、もういちど思いかえしてみた。


―― あたしじゃなかったら、ほかのだれかが行くことになるわ。あたしが行っておねがいすれば、たくさんの人がたすかるの。

 あたしはえらばれて、大切なお仕事をまかされたの ――


 ぼくは、小さく首をふった。


「ユタ、おまえは会ってはいけないアクリャに会った。ほかのだれも知らないアクリャの生活を知って、ショックをうけたのだろう。

 アクリャたちや神殿(しんでん)のことについては、皇帝(こうてい)である私でも、口出しはできないのだ。そのピウラという少女がえらばれたのも、すべて神がおきめになったことなのだ。

 そのアクリャは、国のすべての人をたすけるために山に行く。

 

 おまえはよく知らないかもしれないが、いま、火の山が火をふき、住んでいた村をなくした人々がくるしい生活をしている。(いくさ)がおきて、多くの人が()くなった。たすけたくてもたすけられなかった人がたくさんいるのだ。

 そんな人々のねがいをたくされたアクリャが、山に行くことをやめたら、これからたすけてやれない人がどんどんふえていくであろう。

 それをよろこぶのはだれだ? 多くの人がくるしんでいるのを知ったとき、山に行かなかったアクリャがよろこぶと思うのか? つまりは、友だちをなくさないですんだおまえだけが、うれしいのだ」


 お兄さまの話を聞いているうちに、ぼくのなみだは、すっかりかわいていた。ぼくは、とてもはずかしくなって、お兄さまの目から目をそらした。

 お兄さまは、ぼくのほおから手をはなすと、ひざにおいたぼくの手をつつんだ。


「ユタ。人をたすけることはとてもむずかしいことなのだ。まず、おまえに知恵(ちえ)と力がなくては、けっしてできないことなのだ。

 おまえがきまりをやぶったことをみのがすかわりに、おまえに問題(もんだい)を出そう。どうしたらそのアクリャがすくわれ、くるしんでいる人もたすけることができるのか、考えてみるのだ」


 お兄さまはそう言うと、部屋の外にいるめしつかいをよびよせた。めしついに、ぼくを自分の部屋までおくるように言いつけ、そのまませなかを向けてしまった。


 お兄さまに出された問題はむずかしくて、とても考えつかないような気がした。

 それよりも、いまのぼくにはピウラをたすけてあげることができないということがわかって、とてもかなしくてしかたなかった。

 





 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ