21、 お姉さまと弟たち
石づくりの大広間ではだいじな話し合いが行われているらしく、中から大人たちのひくい声が聞こえてきた。ときどき、言いあらそうようなはげしい声もひびいてくる。
いつ来ても苦手なところだ。そのうえ、大人たちが集まっているところに入っていくなど、考えただけでおそろしいことだ。
けれど、ぼくはピウラのために、それをしなくてはいけなかった。
手がふるえないように前で組んで、ぼくは思いきって大広間に入っていった。
集まっていた大人たちが、いっせいにこちらをにらんだ。
ぼくは、びくっとしてその場に立ちすくんだが、大人たちのほうを見ないようにゆかをみつめ、お兄さまがいるはずの、前の方へと早足ですすんでいった。
広間がざわざわと、さわがしくなる。むねがどきどきしたが、ぼくはそれにまけないように、わざと大またで歩いていった。
お兄さまがすわっているいすがおかれた壇の前に来て、ぼくはやっと顔を上げた。
高い場所におかれたいすから、お兄さまがこわい顔でぼくを見ていた。
しんこきゅうをひとつして、ぼくは声をはりあげた。
「お兄さまにおねがいがあります!」
さっきのざわざわはすっかりおさまって、大広間はしんとしずまりかえっていた。だからぼくの声が石のかべにぶつかって、思ったよりも大きくひびいた。
つぎの言葉を言おうとしたとき、だれかの太いうでが、うしろからぼくの体をかかえた。
ぼくをかかえた人が、お兄さまにむかって言った。
「陛下、もうしわけございません。おひるねからさめたユタさまが、どこかへきえてしまったとタキリャがさがしていたのですが、まさかここにいらしたとは。まだすっかりお目ざめではないのでしょう。すぐにおへやにおつれいたしますので」
太いうでは、ぼくをふわっとだき上げた。ぼくはあわててさけんだ。
「ちがう! お兄さまにだいじな話が!」
言いおわらないうちに、ぼくはそのうでにかかえられて、大広間から出されてしまった。
太いうでは、それほど強くぼくをだきしめていないのに、ぼくはまったく動くことができなかった。なんとかうでからはい出ようともがいたが、むだだった。
そのうでは、ぼくをしっかりとかかえたまま、ぼくの部屋の方とはまったくちがう、見たこともない場所へとすすんでいった。
このまま、どこかでばつをうけるのだろうか。きゅうに自分のしたことがこわくなってきたが、ピウラのためなら、それもしかたないとおもいなおした。
うでは、どこかの部屋にぼくをつれてくると、その部屋の寝台の上にぼくを下ろした。
ぼくを寝台にすわらせて、うでのぬしは、やっとぼくにその顔を見せた。
どことなく、お父さまに似た、お父さまよりもするどい目をした強そうな男の人だった。
男の人は、とてもやさしい声で、ぼくに話しかけてきた。
「なにか大事なことを、お兄さまにお話したかったのですね。
けれど、あの場でゆるしなくお兄さまに話しかければ、たとえ弟ぎみであっても、きびしいばつをあたえなくてはなりません。さらに、ユタさまをしっかり見ていなかったタキリャ、ばあやにも、ばつをあたえなくてはならないのですよ。
ここはお兄さまのお部屋です。大広間でのご用がすんだら、お兄さまがこちらにいらっしゃいます。そのだいじなお話は、そのときになさってください」
男の人は、そう言ってにっこりとわらうと、大きくうなずいた。
この人は、ぼくがばつをうけなくてすむようにたすけてくれたのだということが、そのときようやく分かった。
「ぼくのことを、知っているのですか?」
「ええ、もちろん。わたしはワイナともうします。おそらくユタさまとは、これからよく顔を合わせることになりましょう。どうぞこの顔をおぼえておいてください」
ぼくは、それがどういう意味かわからなかったけれど、とりあえず、うなずいてみせた。
男の人がぼくにうなずきかえしたとき、そのうしろから、こんどは女の人の声がした。
「ワイナ、こちらにユタが来ているそうですね」
ワイナという男の人は、うしろを向いて「はい」とへんじをすると、体をひくくして、横へよけた。
部屋の入り口には、赤ちゃんをだいて、かた手で小さな男の子の手をひいた女の人が立っていた。
女の人は、ふたりの子どもといっしょに、ゆっくりぼくに近づいてくると、ぼくの前にしゃがみこんで話しかけてきた。まる顔の、やさしそうな目をした人だった。
「はじめまして、ユタ。ずっとお会いしたかったのよ。わたしはアナワルキといいます。あなたのお兄さまのおくさんで、あなたのお姉さまでもあるのよ」
ぼくはびっくりしてしまって、女の人にへんじをすることもできなかった。女の人は、ぼくの顔がおかしかったのか、くすっとわらうとつづけて言った。
「あなたには、この宮殿にたくさんのきょうだいがいるのよ。なかなか会うことはできないでしょうけど。だから、さびしく思わなくていいのよ。
それにね、この子たちは、あなたのお兄さまの子どもであるけれど、弟と思ってちょうだいね。そのうちに、いっしょにあそんだり、おべんきょうしたりできるようになるわ」
女の人は、小さな男の子のほうをむいて言った。
「さあ、アマル。お兄さまにごあいさつしてね」
小さな男の子は、いわれるままにちょこんと頭をさげた。
ぼくは、この宮殿の中に、たくさんのきょうだいや、しりあいや、そのうちいっしょに遊べるようになる小さな弟がいることなんて、今まで知らなかった。
まるで、ピウラのしあわせをとってしまったように、ぼくのまわりにたくさんの人があらわれた。本当はとてもうれしいことなのに、ピウラのことを思うとかなしくなった。
だから、どうしても、お兄さまに話さなくてはいけない。ピウラをたすけてもらえるように。
お兄さまを待ちながら、ぼくは強くそう思っていた。




