06 クリスマスのお泊まり
「泰雅とのクリスマス、楽しみだな……」
俺は、卓上カレンダーの赤い印にそっと触れた。テスト勉強は大変だけど、カレンダーの印を見ると元気が出てきた。
明日はクリスマスイブ。泰雅と一緒に過ごす約束になっている。……しかも、お泊まりだ。
クリスマスという特別な時間を、恋人の泰雅と二人きりで過ごす。そう考えたら、俺は顔が熱くなってきた。
「泰雅、驚くかな。喜んでくれるかな……」
机の上のプレゼントの箱を手に取って、俺は泰雅の喜ぶ顔を想像した。
◇
「なぁ、ここ……なんか、すごく高そうなんだけど……」
案内された個室のふかふかの椅子に座り、俺は小声で尋ねた。
クリスマスイブに、泰雅が連れてきてくれたのは、ドレスコードが必要なくらいおしゃれなホテルだった。
普段のデートでは行かないような場所なので、思わずキョロキョロと辺りを見回してしまって、妙に落ち着かなかった。
「大丈夫。圭太は気にせず楽しんで」
そう言って優しく微笑む泰雅の笑顔も、いつもと違うような気がした。
場違い感半端ない俺と違って、泰雅は場慣れした様子で俺をエスコートしてくれた。流れるような動きに、思わず見惚れてしまった。
テーブルマナーも知らない俺はドキドキしたけど、料理は小窓から提供されるから、部屋には人が入ってこないと説明を受けた。だから、泰雅に「気にせずいつも通りでいいよ」と言われほっと胸をなでおろした。
「んまっ!」
運ばれてきた料理を口にした俺は、さっきの緊張などどこへいったのか、思わず素に戻って声を漏らした。
これがなんという料理なのか全くわからなかったけど、柔らかくてめちゃくちゃ美味しいお肉だった。
ふと顔を上げると、泰雅がニコニコしながら俺を見つめていた。
「なんだよ、泰雅は食べないのか?」
「食べるよ。でもちょっとだけ、圭太の食べているところを見ていたい」
「んなこと言ってないで、早く食べろよ。めっちゃうまいぞ」
俺はそう言いながら、再びお肉を口に運んだ。やっぱりうまい。何度でも「んまい!」って声が出てしまう。
でも、泰雅と特別な時間を過ごしているから、こんなにも美味しく感じるんだと思う。そんな時間を共有できるなんて、なんかすげぇ幸せだなって思った。
俺たちは他愛もない話をしながら、料理を堪能した。
「今日泊まるのは、この部屋だ」
食事を終え案内されたのは、ホテルの最上階の部屋だった。
オメガ対応フロアらしい。これ、ただのオメガフロアじゃないだろ。絶対VIPルームだよな……。
なんかそわそわと落ち着かない俺を見て、泰雅はふっと微笑んだ。
「圭太、お先にどうぞ」
「ああ、ありがとう」
泰雅に促され、俺は先に部屋に入った。
「うわぁぁ! すっげー!」
目の前に広がっていたのは、満天の星空だった。
夜空一面に敷き詰められたような輝く星たちを見たくて、俺は窓際に走り寄りペタリと張り付いた。
「泰雅、見てみろよ! なんだよこれ、初めて見た!」
まるで子どものようにはしゃぐ俺とは違い、泰雅はゆっくりと近づいてきて横に並んだ。
「喜んでくれて良かった。いつか一緒に見たいと思ってたんだ」
今日の泰雅は、同じ歳とは思えない、大人な雰囲気を醸し出していた。所作もかっこいいし、言葉もなんかめちゃくちゃ甘い。
クリスマスだから、きっとすごく奮発してくれたんだろうな。嬉しいけど、俺たちは高校生だ。ちょっと心配してしまう。
「こんなすごいホテルに、クリスマスに泊まれるなんて嬉しいけど……。大丈夫なのか……?」
野暮な話をするなと言われてしまいそうだけど、俺は黙っていられず聞いてしまった。
「俺の親父が経営するホテルだから、そんなに気にしなくて大丈夫だ」
「えっ? そうなのか? こんな立派なホテル、すごいな……」
泰雅があまりにもさらっと言うから、そんなものかと納得しかかったけど、いや普通にすごいだろ。
まぁ、小学校からの付き合いで、家にも何度も遊びに行っているから、金持ちだろうなとはわかってたけどさ。でも、ホテル経営は知らなかったなぁ。親父さんすごいなぁ。
俺が目を丸くして泰雅を見ていたら、また嬉しそうに笑った。泰雅がにこにこしているのは、俺も嬉しい。
「両親も、圭太に泊まってもらえるのは嬉しいと言っていた」
「そっか。今度会ったら、ちゃんとお礼しなきゃな。それでさ、めちゃくちゃ良かったって伝えるよ!」
俺は、そわそわしていた気持ちが、泰雅のおかげでだいぶ落ち着いた気がした。
「乾杯しないか?」
「え。さっき、レストランでしたじゃん」
「夜景をバックに、乾杯したかったんだ」
「そっか。……うん、わかった。乾杯しようぜ!」
俺に気を使わせないように親父さんのホテルだと暴露したり、普段言わないような言葉で盛り上げようとしてくれたり、泰雅は本当に俺のことをすごく考えてくれてる。
泰雅は口数少ないし表情もあまり変わらないから、他の人には何考えてるのかわからないとか言われるけど、俺にはわかるんだ。
今日の泰雅は、最高に嬉しそうだ。だから俺も最高に嬉しい。
俺たちは、ノンアルのシャンパンをグラスに注ぐと、二人で見つめ合った。
「乾杯」
「かんぱーい」
いいな。恋人同士って感じがすごくする。
アルコールは入っていないのに、なんかふわふわと酔っているような気持ちになった。




