29 見つけた求人
泰雅にバイトの許可をもらった後、俺は泰雅と約束した通り、大学周辺に絞ってバイト先を探し始めた。
俺と泰雅の通っているT大学周辺は、オメガ保護に力を入れているモデル地区だ。世間的にはまだオメガへの偏見が多い中で、この街はオメガにとってとても過ごしやすい場所になっている。
だからオメガの募集はそれなりに多いと思っていたのに、現実はそう甘くなかった。
「大学の講義のない時間とか、不定期っていうのもネックなんだろうなー」
バイトを雇う側からしたら、いつでも入れる人の方が助かるに決まっている。それに、表向きはオメガ歓迎と募集していても、ヒート休暇などの問題もあるし、難しいのかもしれない。
九月半ばになり、バイト先も決まらないまま、俺たちは帰省を終えて寮に戻った。
そのタイミングを見計らったように、寮に戻って数日後、人生で三回目のヒートがやってきた。
今回も泰雅のスケジュール調整がうまくいき、一週間そばにいてくれた。
いくらパートナーと過ごせる施設だとしても、都合がつかないことだってあるだろう。そうなると、一人でどうにかするしかない。
その時は、点滴でヒート管理をするという選択もあるらしい。完全に抑えることはできなくても、かなり楽になるそうだ。
ヒートが明けて落ち着いた頃、泰雅がバイトの提案をしてきた。
「そうだ、圭太。うちの大学の就活サポートセンターで、バイトも紹介しているらしいんだ。……見に行ってみるか?」
「就活サポートセンター? そこにバイトもあるんだ? んー、本当は自分で探し出したかったけど、こうも見つからないとなぁ」
泰雅は今思い出したように言ってきたけど、多分最初から知ってたんだと思う。俺の、自分で探したいという気持ちを、考えてくれたんだろうな。
「大学を仲介するなら、ご両親も安心するんじゃないか?」
「そうだなぁ。行ってみるか」
泰雅にバイトの許可をもらってから、すでに一ヶ月が過ぎていた。さすがにこのまま探しても無理だと判断した俺は、大学の講義の合間を縫って、一人でサポートセンターに行ってみることにした。
◇
『泰雅、バイトいいとこ見つけたんだ。今日の夜電話してもいいか?』
俺は真っ先に泰雅に報告をしたくて、急いで部屋に戻った。そして、サポートセンターで見つけた求人票を手にしながら、泰雅にメッセージを送った。
確かこの時間は講義中だと思ってメッセージにしたのに、すぐに泰雅から電話がかかってきた。
「わ、びっくりした」
『見つかったのか』
「あれ? 講義は?」
『今日は教授の用事でなくなった』
「そっか。……あ、バイト先さ。写真送ったけど、なかなかいい条件だと思うんだ」
『ちょっと待ってろ。見てみる』
俺は求人票の写真を撮って、さっき泰雅に送ってある。泰雅もきっと納得してくれるはずだ。
『うん、この条件ならいいんじゃないか?』
「よかった! じゃあ明日にでも問い合わせてみる。多分面接は来週あたりになるかな」
『じゃあ、週末に実家に戻って話をしてくるか』
「そうだな。この後母さんに連絡しておく」
俺自身の問題だけど、泰雅は当然のように実家についてくるつもりみたいだ。
正直、母さんたちの質問責めにあったら、冷静に対応できなくなってしまうかもしれない。だから泰雅がついてきてくれるのは、心強い。
俺の家族は全員ベータだから、突然俺がオメガになったことで、戸惑っていると思う。俺も含め、アルファやオメガについて、知らなさすぎるんだ。
だからきっと色々と調べていて、一般的なオメガの現状を知ってしまったと思う。
そんな中で、守られている大学の外に出てバイトをしようとしているなんて言ったら、心配するのは目に見えている。
もう俺も成人しているわけだし、母さんたちの許可を得る必要はないのかもしれない。けどやっぱり、オメガになった俺を心配してくれているだろうから、ちゃんと話をしたいんだ。
『どうしてバイトをしたいと思ったのか、ちゃんと圭太の言葉で伝えられるように、考えをまとめておけよ』
「うん、わかった。泰雅の前では大丈夫だったけど、なんか家族の前だと緊張する。なるべく心配をかけたくないから、しっかりと伝えたい」
『俺が隣にいるから大丈夫だ』
「そうだな、いつも通りに話せるな」
俺は泰雅の心強い言葉に、緊張していた気持ちがふっと軽くなった。
このままずっと声を聞いていたいけど、名残惜しさを感じながら『じゃあまた連絡する』そう言って電話を切った。
気づいたら、高校卒業までずっと一緒に暮らしていた家族よりも、泰雅のそばにいることが一番安心できるようになった。
もちろん番になったからというのもあるんだろうけど、きっとそれだけじゃないと思っている。
アルファとオメガには、一つの都市伝説があると聞いた。それは『運命の番』といって、遺伝子的に相性の良い相手が存在するらしい。出会った瞬間にビビッときて『運命の番』だと分かり、お互いに惹かれ合うそうだ。
俺と泰雅は『運命の番』ではないと思う。けど俺は、運命の番以上に相性の良い存在だと感じている。きっとそれは泰雅も同じだ。
ずっと過ごしてきた家族よりも、安心できる場所ができるとは思っていなかった。
けど『運命の番』の話を聞いた時、ふと考えてしまったんだ。いつか本当の『運命の番』に、偶然出会ってしまうかもしれないと――。
「大丈夫だ。俺には泰雅しかいないし、泰雅にも俺しかいない」
俺は、久しぶりに少し弱気になってしまった自分に、活を入れるように言葉にした。
夕飯後、バイトのことは伏せて、週末に帰省するとだけ電話で伝えた。
母さんは特に詮索することなく『泰雅くんも一緒よね』と、当然のように言ってきた。
言葉にはしないけど、俺がいつもと違う様子なのはバレていると思う。その上で、いつものように振る舞ってくれているんだ。母親ってすごいなって思った。
俺が、母さんのお気に入りのお店のケーキを買って行くと伝えたら、電話の向こうで嬉しそうにはしゃぐ母さんの声が聞こえた。
普段と変わらない母さんに安堵しながら、電話を切った。




