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不可侵少女は触れ合いたい  作者: こみやし
01.転生先は追放令嬢

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01-01.転生先は追放令嬢


「……またやっちゃった」



『ふふふ♪ 今日も派手にやったのだわ♪』


 目覚めると荒れ果てた大地に寝転んでいた。


 ここには森があった筈だ。崖の上から見た限りでは、一面の木々が広がっていた筈なのだ。


 今日も今日とて、もう一人の私が暴れまわったようだ。それも盛大に。容赦なく。徹底的に。所謂暴走人格ってやつだね。いつも助けられてます。だから責めないよ。私はね。



「騎士様は無事?」


『派手に吹っ飛ばされていたのだわ♪』


 安否不明と。


 まあ心配は要らないだろう。これもいつものことだ。


 またそのうちひょっこり現れる筈だ。いつもどおり。



「行こっか」


『それが良いのだわ♪ 町も近いからすぐに人が集まってくるのだわ♪』


 それは嫌だね。絶対面倒なことになるよね。



 立ち上がってパタパタと身体を払う。


 パラパラと葉っぱが落ちていく。


 私の身体は今日も綺麗だ。傷一つありはしない。


 落ちるのは葉っぱだけ。何故か砂や土は引っ付かない。


 どろんこになっていたっておかしくないだろうに。


 こんなところで寝ていたらさ。



 なにはともあれ。


 今日もお疲れ様。もう一人の私。




----------------------




 時は少し遡る。



「覚悟しろ! トリスティア・インヴィクタ!!」



 絶体絶命。私の背後は断崖絶壁だ。


 今日も今日とて私を追い詰める女騎士。


 歳の頃は二十代前半くらいだろうか。「くっころ」の似合う由緒正しい金髪騎士様だ。凛々しい。お尻弱そう。



 これは見慣れたいつもの光景だ。この騎士様ったらしつこいのなんのって。まるで銭◯警部だ。誰がル◯ンやねん。


 そんなに執着されるなんて、トリスティアと呼ばれた悪役令嬢は、いったい何をやらかしたのだろう。


 実は具体的なことって殆どわかってないんだよね。こっちに来てからずっとそう。こっちの私の過去に関する情報はこの騎士様から聞いたものくらいだ。私は普通のどこにでもいる平凡なオタク女子だった筈なのに。



 七草ななくさ 菜沙なずな


 それが本来の私の名前だ。両親から貰った大切な名前だ。


 正確には前世の名前なんだけれども。



 今の私はトリスティアと呼ばれている。そう呼ぶのはこの女騎士様だけだけど。少なくとも肉体的には間違いなく本人ではあるようだ。つまり乗っ取り系転生だ。本物のトリスティアはどこへ消えてしまったのだろう。


 断片的に聞き齧った彼女の話を総括すると、どうやらトリスティアはとある国の公爵令嬢だったそうな。


 それも王子様と婚約した将来の王妃様。


 幼き頃から厳しい王妃教育に耐え抜いてきた優等生。


 約束された輝かしい将来……の、筈だった。



 しかし彼女は主人公ではなかった。残念ながら。


 どこぞの男爵令嬢に王太子殿下を横取りされ、それまでの血の滲むような努力の全てを無かったことにされ、あっけなく追放された。そんな悲しき悪役令嬢がトリスティアだ。


 ぶっちゃけ、彼女の故郷から遠く離れたこの地では、大して意味のない情報だ。



 ただ話はそれだけで終わらなかった。


 彼女は行く先々で破壊活動を行った。


 憂さ晴らしだったのか、何か他の理由があったのかは定かではない。単純に降りかかる火の粉を払っていただけなのかもしれない。


 私個人としては、払っていただけ説を推したいところだ。なにせ自分も既に似たようなことをやらかしているからね。


 何故か行く先々で悪党に目をつけられちゃうんだよね。なんでだろうね。私が可愛いからだね♪ 間違いない♪



 騎士様はそんなトリスティアを追ってきた唯一の人物だ。遠路遥々、追い回してきたわけだ。すっごい真面目なのだ。


 トリスティアは故郷でもよっぽどなことをやらかしたのかもしれない。そこはまだ聞けてないんだよね。騎士様が話すかどうかは気分次第だから。盛り上がるといろいろ聞けるんだけどね。聞くと言っても、騎士様が勝手に語り出すだけなんだけれども。


 やっぱり破壊活動が原因なのかな。この身体めっちゃ強いからね。どうして捨てられちゃったのかわかんないよ。


 強すぎて厄介だったのかな。それかトリスティア自身に特別な力は無かったのかも。あくまで私の強さは転生特典なのかもしれない。



 とにかくトリスティアは追放された。ヒロインを虐めたという罪で。要約するとそういう話だ。酷い話だ。


 けどさ。悪役令嬢ってそういうもんだよね。愛する二人の前では道理なんて吹き飛ぶんだよ。公爵令嬢が男爵令嬢を虐めたからって問題視される方が不自然だよね。そういう指摘も昨今は珍しくもないけれど。ああ。これは創作の話ね。


 私は造詣が深いのだ。何本アニメを見たかもわからない。



 にしてもなぁ~。


 まさかの追放後スタート。


 こういうのって普通、断罪を回避しようと頑張るものじゃなかったっけ? 幼少期とかに転生するものじゃないの?


 悲劇の後の悪役令嬢を追体験って、いったいどんな罰ゲームなんだろう。私は前世で何をやらかしたのだろう。両親より先に命を落としたって言われたらぐぅの音も出ないけど。河原で小石を積み上げ続けるよりはまだマシなのかもしれない。閻魔様の温情溢れる差配に感謝しておこう。なむなむ。


 とにかく、次があったら交通事故にだけは気をつけよう。


 許すまじ。転生トラック。


 居眠りダメ! 絶対!



 わからない事は山積みだ。けれどわかることもある。


 このまま騎士様に捕まるのだけは論外だ。


 だって私は何もしていないもの。罰せられる謂れはない。トリスティアのやらかしについて責任を取るつもりもない。そもそも断罪が正しいものであったという保証もない。



 この騎士様は私を危険人物だとしか思っていない。


 捕まっても碌なことにはならない。ここまでの付き合いでよくよく理解している。


 彼女は私の命をなんとも思っていない。殺す気で斬り掛かってくる。けれどそれが通用しないことも知っている。


 捕縛はあくまで代替手段だ。私を無力化出来るなら、生き埋めだって構わない。彼女はそう考えている筈だ。


 生き埋めは流石にマズい。たぶん抜け出せはするだろうけど。とっても苦しいのは間違いない。



『未経験なのだわ♪』


 実際、試してみるのも手かもしれない。


 もしかしたら騎士様を欺けるかも。死んだことになって追ってこなくなれば万々歳だね♪


『さっすがナズナなのだわ♪』


 今日も今日とて上機嫌だ。我がイマジナリーフレンドは。


『違うのだわ♪ わたくしは幻なんかじゃないのだわ♪』


 だそうです。


 私にしか見えない背後霊少女は、私の孤独が生み出した悲しき幻影ではないらしい。


 なんなら『ティア』と名乗ってるし。


 何故かお嬢様口調だし。


 なんでだろうなぁ~。


『違うのだわ♪ わたくしは「トリスティア」とは無関係なのだわ♪』


 けど「ティア」って……。


『わたくしを生み出したのはナズナなのだわ♪』


 そうかもだけどさ~。なんか納得いかない~。


『そんなことよりもなのだわ♪』


 だね。長々と騎士様を待たせてしまった。



「どうやら覚悟ができたようだな! トリスティア!」


 本当に待っていてくれてたんだね。そういうところまで生真面目なんだよね。この騎士様って。私を悪人と断じているくせに、妙に騎士道精神を重んじるっていうか。


『だから「騎士様」なんて呼ぶのだわ♪』


 まあね。正直嫌いじゃないよ。彼女のことは。


 なにせ、この世界で唯一の顔見知りだからね。私は孤独に耐えきれず「ティア」を生み出した女だ。人に飢えているのだ。いつだって。


『わたくしでは温もりを与えてあげられないのだわ~』


 幽霊だからね。仕方ないよ。


『いっそ抱きついてみるのだわ♪』


 名案だね♪ 愛と平和を説いてみようか♪ らぶあんどぴーす♪


 まあ、だからって捕まりたくはないよね。やっぱりさ。


『冷たい牢獄が待っているのだわ~♪』


 ご勘弁!



「っ!」


 私が背を向けて駆け出すと、騎士様も瞬時に反応して斬り掛かってきた。


 私は騎士様の剣で背後から斬りつけられ、その反動で大きく弾き飛ばされる。


 私の身体は何故か攻撃を通さない。たぶん転生特典だ。きっとそうだ。私はこの世界で無敵の身体を手に入れた。


 けれど手に入れたのは無敵の身体だけだ。それ以外はてんでダメダメだ。そもそも私には魔力が無いらしい。ティアがそう言っていた。折角の異世界なのに。残念無念。



「待て!!」


 私は勢い余って崖下に落下した。崖際で突き飛ばされたのだから当然だ。自明の理だ。



「逃げるな! 卑怯者!!」


 自分で突き落としておいてあんまりな物言いだ。あの騎士様は真面目で真っ直ぐだけど、少しだけ抜けている。



『追ってきたのだわ♪』


 ティアが背後の様子を伝えてくれた。ただのイマジナリーフレンドではない決定的な証拠だ。


 騎士様も騎士様で、崖の上からでもお構いなしだ。あっちは別に、無敵の身体なんて持っていないだろうに。それなり以上には頑丈っぽいけれど。



 ちなみに私はそれどころじゃない。


 どれだけ無敵の身体を持とうと、恐怖を感じないわけじゃない。地面に至るまでの一瞬がやけに長く感じる。だから十分だった。私が意識を失うのには。

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