2.訳とは
強い光と衝撃。
次の瞬間には真っ白で何もない空間に私はいた。
どうやら私は死んだらしい。
他人事のように言うのは、どうにも実感がわかないからだ。
目の前に後光が指し、地面から浮いているやたら綺麗な人を目の前にして夢だと疑うのは当たり前のことだと理解してもらいたい。
男か女かひどく曖昧な、中性的なその人は穏やかな笑みを浮かべこちらを見ている。
(私はこんな人が欲望むき出しに感情をあらわにする顔が見たくてしょうがない)
どういう訳か、ひどく悲しそうな表情になったその人は自分のことを神だと名乗った。
本来なら頭のネジがどっかに落ちてしまった人なのかと思う所だが、その人はさっき言った通り宙に浮いている、ついでに後光が指している。
その人が神と名乗ったことでようやく自分は死んだのだと、何となく受け入れた。
その神様が一体私に何の用だ?そう頭に思い浮かべると、その神様はとても悲しそうな顔で口を開く。
「あなたはとてもかわいそうな子供です。」
そう告げられ、ああ確かに成人する前に死んだんだからなぁと暢気に思った。
神様は首を振り「そうじゃありません。」と否定する。
どうやら神様は人間の頭の中が分かるようだ。
(それはそうか、チート的存在だもの)
神様が存在しているのなら天国や地獄もあるのかしら、再び暢気に思っていた私に思いもよらない言葉を投げてきたのは目の前のその神だ。
「あなたは人の不幸を願うことしかできない、かわいそうな子。」
そして冒頭の話に戻ってほしい。
別に憐れまれようが特に何も感じない。
だって相手は神様だから。
神様からしたらちっぽけな人間の1人なんて取るに足らない、哀れな存在なのだろう。
特別傷つくことなく、ぼんやりと目の前の人を眺めていればさらに顔を険しくしてかわいそうな子を見る目で私を見た。
その目には覚えがある。
(私もよく底辺の人間をそんな風に憐れんだなぁ)
「違います!」
初めて大きな声を上げた神様は違う違うと何かを否定している。
この真っ白な空間でやたら輝くその人が大きく感情をあらわにすると、若干目が痛い。
それが伝わったのか、神様は「そうではなくて」と、少しだけ落ち着きを見せ、再び否定を重ねる。
「私はあなたを可哀想だから救ってあげたいだけ。決して蔑視しているわけではありません。」
どうやら神様は私と同じと言われたことがひどく不快だったようだ。
それはそうか。
神様は特別で頂点にいる人。
地を這って生きる人間と同じなんて申し訳がなかったな。
そう素直に反省した。
「だから違うのです!」
再び声を荒げるから光が増して思わず目をつぶった。
私が眩しいなと思っている瞬間、神様は早口で事のあらましを言いきると目の前から消えてしまった。
それが私のこれからの人生そのものだと言うのだから、もっと真剣にじっくりと話してほしかったというのは、人間が思うには厚かましいことだろうか?
『人の不幸しか願えないあなたは、人の綺麗な感情が欠落しています。人はもっと美しく、健やかに生きるべきです。本来のあなたは真面目でありました。今回の死をもってあなたの人生は一度リセットし、新たなる人格としてもう1度生まれ直すべきです。あなたに1つの枷を加え、やり直すことを許可します』
申請した覚えのないものを許可されたが、私とて生きることができるのなら生きていたい。
枷が何なのか分からないものの、まぁいいかとこの時は思った。
『せめてもにあなたが楽しんで過ごせる世界を選びました』
そんな言葉がかすかに耳元で聞こえ、私はいつの間にか閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げた。
枷が何なのか気づいたのは、ここはどこだろうとあたりを見渡しふと品位にかける人間が目に入った時『誰にも看取られることなく孤独のまま死ねばいいのに』と思った瞬間だった。
頭がひどく締め付けられるような痛みが襲った。
脂汗がだらだらとこぼれ、痛むそこを抑えるが何もない。
何もなかったが、まるで輪っかがどんどんと縮んでいくかのようにオデコから後頭部ぐるっと一周締め付けられる痛みだった。
緊箍児なんて私は孫悟空かって、この時初めて神様に呪われたことに気づいた。
別に私は歩きたばこをしていた男が火を消さないままそれを捨てたことに腹は立てたが、文句を口にしたわけではないし、何か罰してやろうと行動に移そうとしたわけではない。
ただささやかに心の中でそのろくでもない人間の不幸を願っただけなのだ。
それだというのに神様は私を痛めつけきっと天上から笑ってみているのだろう。
でも仕方がないのだろう。
神様というあまりにも遠い特別な存在にとって、私個人なんて一時のおもちゃに過ぎない。
私に従わないものはすべて罪人とでも思っているのだろうと私は判断し、神様のおもちゃらしくその痛みに従うことにした。
『違う!!そんなつもりじゃない!!!』
何て天上で叫んでいる言葉など地上の私に届かない。
きっと今日も神様は暇な時にでも私を思い出し、その様子を見て、勝手に心の中ものぞき込み愚かだと笑うのだろう。
人権侵害何てもんじゃないが、相手は神様なのだから仕方がない。
私は諦めて新しい人生を歩むことにした。




